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森の悪魔  作者: 川島 蛍
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第12話

咲き誇る花はその姿に良く合う甘美で濃厚な香りを辺りに漂わせ男を包み込みこみます。

先ほどのめまいとは違い男の体は段々力が抜け軽くなりふわふわと浮かび上がるような気持ちになったかと思うと、突然ずっと靄がかかっていたような感覚が一瞬にして吹き飛ぶのがわかりました。

自分がなぜこの森のへとやって来たのか、この花が必要な事、そして残して来た恋人が帰りを待っている事もすべてを思い出したのです。


ーここが探していた場所なのか…一刻も早く町へ戻ろう。父は無事だろうか?アンナもきっと心配しているに違いない。この花を持って帰らなければー


男は必死で花を摘み取り地面に伸びた蔦で縛り終えると急いで森の中を進みました。


「やはりここへ来てしまったのね。」


いつの間にか男の前には女が立っていました。


「許しておくれ。この花があれば父の病気が治せる、探していた場所だったんだよ。すぐに帰らなくてはいけない、君ならわかってくれるね?」


「わかりたくないわ。今まで楽しく過ごしていたのに…あなたが居なくなってしまったら私はどうすればいいの。」


薄っすら涙を浮かべながら男に訴えかける女を前に男は振り払って行く事も出来ずどうすればいいのか考え込みます。

少しの沈黙がとても重く長いものに感じられ余計に口を噤んでしまい中々言葉が出てきませんでした。

すると痺れを切らしたのか俯いていた女が急に男の顔を見上げるとそれまでの女からは想像できないほどの冷たさが感じられます。


「今更戻っても遅いんじゃないかしら。」


女は男を冷えた目でじっと見つめると口角だけが上がった口元が怒っているのか笑っているのかをわからなくさせます。

男は申し訳ないと思いながらも自分が今まで忘れていた事を悔んでいました。


「あなたがこの森に来てからどれ程の月日が経っていると思う?花を持って帰ってももう、誰もあなたを待ってはいない。それに恋人だってあなたの事なんてとっくに忘れているわ。それだけの時間が過ぎているのよ。ねぇ私と一緒に暮らしましょうよ、ここでならずっと幸せでいられるわ。」


月明かりに照らさた女はこんな時でさえ美しく映え余計に恐ろしく思えます。

その姿とは逆に影は段々と不自然なものに形を変え人とは思えぬほど歪んだものになっていくのでした。


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