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サンタからのプロポーズ~河美子さんへの『クリプロ2016』参加特典ギフト小説~

作者: 日下部良介

『クリプロ2016』企画に参加していただいた河美子さんへの参加特典ギフト小説です。

 美子が乗り降りする駅は地下鉄の始発駅。いつものようにホームに並ぶ。1~2本やり過ごしてから確実に座れるまで待つ。そのために少し早めに自宅を出る。


 その日はちょっとしたハプニングがあった。駅へ向かう道中で苦しそうにうずくまっている男性を目にしたのだ。当然、黙って見過ごすわけにはいかない。美子は男性に近づき声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。昨夜、飲み過ぎて気分が悪くなっただけですから」

 ま、世間は忘年会シーズン。こういう人も珍しくはないのだろう。けれど、顔をあげたその男性を見たとたん、美子の心はときめいた。「あら、イケメンじゃない!」美子はチラッと時計を見てからもう一度男性に声を掛けた。

「駅へ行かれるのですか?」

「いえ、これから帰るところです」

「私も夜勤明けでこれから帰るところなんですけど、お家までお送りしましょうか?お家はどちらですか?」

「すみません。お心遣い感謝します。でも、もう大丈夫です」

 男性は立上り、駅とは反対の方へ歩いて行った。

「ちぇっ!」

 美子は舌打ちして駅への道を急いだ。


 満員の乗客にもまれながら美子は地下鉄で会社に向かう。とんだハプニングのおかげで電車をやり過ごす余裕がなくなった。仕方なく来た電車の乗り込んだのだけれど、空いている座席は既に無かった。次第に混雑して来る電車の中で、美子は他の乗客たちにもみくちゃにされながらやっとの思いで最寄駅にたどり着いた。

「はあ、疲れた」

 それもこれも、妙な下心を出したせいだ。


 その日の夜、美子の会社でも忘年会が行われた。付き合いがよく、そこそこお酒も飲める美子は二次会、三次会と付き合わされ、結局終電に駆け込む羽目になった。

 酔っ払いが放つ酒臭い口臭、女性の香水の香りなどが入り混じった電車の中は効き過ぎではないかと思われる暖房のせいで異様な空気が満ちていた。あと一駅…。美子の胃袋は限界に達しつつあった。最寄駅に電車が到着すると、美子は即座にトイレへ駆け込んだ。出すものを出してすっきりしたら、急に腹が減って来た。


 深夜営業しているラーメン店に美子は立ち寄った。カウンター席しかないその店は終電直後だということもあり、混み合っていた。店主に案内され奥から二番目の席へ通された。隣にはサラリーマン風の2人組が激辛ラーメンを汗だくですすっていた。反対側、一番奥の席には同じくサラリーマン風の男が酔いつぶれてカウンターに突っ伏していた。

「あ、気にしないでください。毎度のことなんで」

 店主はそう言って水の入ったグラスを美子の前に置いた。

「つけめんをくださいな」


 少し濃い目の付け汁は魚介系の出汁が効いていて美味かった。この店はボリュウムが多いのが売りみたいで、普通盛りを頼んだのにもかかわらず、よその店の大盛りほどの量が入っていた。美子が食べ終わる頃には横で突っ伏しているサラリーマン風の男以外は居なくなっていた。気にはなったのだけれど、店主とも顔見知りのようだったので美子は代金を支払い店を出ようとした。

「あの…。今朝はどうも…」

 なんと、酔いつぶれていた男は今朝のイケメンだった。


 ラーメン店を出て帰る方角が同じだということで一緒に歩いた。美子が左に曲がると男も左に曲がり、右に曲がると、右に曲がる。ついには美子が住むマンションまでやって来た。

「では、私はここで…」

 美子がマンションのエントランスに向って歩き出すと、男も一緒について来る。

「出会ったばかりの人を部屋に上げるつもりはありませんから」

「あ、僕の部屋もここなんです」

 そう言って男は鍵をオートロックの操作盤に差し込んだ。


 男の一人暮らしにしては、割と片付いている部屋だった。お茶を一杯だけという約束で彼の部屋を訪れた。部屋の入口に掲げられていた表札には“日下部”と記されていた。

 男は美子を部屋に上げると、コーヒーを淹れはじめた。それをカップに注いで美子の前に差し出した。

「どうぞ」

「どうも」

「今朝は失礼しました。せっかく声を掛けていただいたのに。本当は出社されるところだったのでしょう?」

「いえ、だって、その…」

「お優しいんですね」

 そう言ってにっこり笑った男に美子は顔を赤らめた。そして、本当にコーヒー1杯だけで男は美子を返した。


 まさか、男が自分の部屋の真上の住民だったとは…。知ってしまうと意識する。洗濯物を干すときもつい上を見上げてしまう。その後、何度か駅への道中で出会ったりもした。数か月後にはもう何年も知り合いだったような気さえしていた。


 そして知り合ってから1年後、同じ電車に乗り合わせた美子に彼が切り出した。

「明日から三連休ですね。何かご予定などは?」

「いえ、特に」

「では、うちでパーティーをやりましょう。クリスマスだし」

「いいですね」


 12月24日。美子が彼の部屋を訪れると、サンタの格好をした彼が出迎えた。

「メリークリスマス」

 彼はそう言って美子の左手を取り、そっと指輪をはめた。



美子さん、メリークリスマス!

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、私が主人公ならもっとお化粧して……意味ないですね。 ありがとうございます。気分が悪い男を手玉に取る話かと思ってましたが違ってよかったわ。 私の太い指にはまる指輪も用意してくれたのね、嬉…
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