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黒い炎と氷の刃  作者: 雪華
闇の覚醒
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4話  歪む空間   其の二 〖挿絵アリ〗

 高い木の上からいとも容易く飛び降りた美兎が、煌牙の前でひざまずく。


「お待ちしておりました。団長」


 背中には細かい彫刻が施された、木製の弓を装備していた。金色の長い髪に、黒装束。香澄が抱いた美兎の第一印象は、身のこなしや服装から『くの一』だった。「キリッとした美人のお姉さん」という感じだが、兎の耳が金色のリボンのようで可愛らしい。


「先発隊の勤めご苦労だったな。レオパルドも一緒か?」

「はい。あちらでゴブリンの群れを狩っております。じきにこちらに合流するかと」


 美兎の言葉通り、間もなく厚手の鎧に大きな盾を持ったナイトがこちらに向かってやってきた。大地の一族は魔法が使えないため防御力を重視すると、どうしても重装備になってしまう。それでも、その鎧の重さも身体能力の高さでカバーし、こんな森の中でさえレオパルドは足を取られる事もなく、スタスタと歩いていた。


「団長! 参謀長に巫女姫も!」


 人懐っこい笑みを浮かべ、レオパルドが手を振った。レンもぴょんぴょん飛び跳ねて、レオパルドに手を振り返す。



挿絵(By みてみん)



「レオは金色の猫みたいで、日なたぼっこが似合いそうだよね」

「猫じゃないっす。豹っすよ」


 レンの言葉にレオパルドが笑って答える。一見すると人と見分けはつかないが、猫耳が特徴的だった。


「お初にお目にかかります。精霊騎士団に所属の美兎と申します」

「同じく、レオパルドだ」


 香澄に向かって二人が挨拶をすると、香澄も緊張しながら名乗り、頭を下げた。


「昨日精霊界に来られたと聞きました。なにか困った事があれば、すぐに言って下さいね」

「ありがとうございます!」

「でも、ま、そんなに違わないんじゃないっすかね? 人間界も精霊界も」


 いやいやいや。と、香澄はレオパルドの言葉に首を振る。


「だいぶ違いますよ。ここと、あちらは」

「へぇ」


 一通り挨拶が済んだのを見届けると、ルージュが口を開いた。


「森の状況は?」

「今のところ、空間の歪みは封印済みも含めて全部で十三確認しました。残りも森の精霊に封印をお願いしてあります。闇さえなければゴブリンも降りてこないでしょうし、一時は平穏が戻るかと」


 的確な美兎の報告を聞き、煌牙はふむと低く唸る。


「歪みは十三か。最初に封印したものは、綻びが出る頃だろう。森の精霊の負担を減らすために、黒炎で焼いておくか。美兎、古い場所から案内してくれ」


 何か言いたげなルージュをよそに、煌牙はレンの方に振り返る。


「レン、行くぞ」


 美兎の案内で、森の一族が最初に封印した空間の歪みにたどり着く。ゆらゆら揺れている空気に、木の根が絡みついているような形だ。それは、森の精霊の一般的な封印魔法だった。


「やはり、綻びが出ているな」


 煌牙の言うとおり、黒い霧が木の根の間から漏れていた。この黒い霧をたどって、またゴブリンが集まりかねない。


「封印魔法ごと焼いちまうか」

「やってみる」


 レンは一歩前へ進み出ると、先ほどと同じように、歪みに向かって黒い炎を放つ。あっという間に炎に包まれ、黒い霧すら残さず全て消し去ってしまった。安堵と疲労から、レンが大きく息を吐く。

 レンは戦場に立ったことがない。もちろん、一通りの訓練はこなしていたが、煌牙やルージュと違い、実戦経験は皆無だった。そのため、動かないとはいえ『敵』に対し、どれ程の力を使えばいいのか計りかねていた。


「よし! じゃあ次行こうか!」


 疲れを隠すように、わざと明るい声を出したレンは、煌牙の指示に従って次々と空間の歪みを焼き尽くす。が、九つ目を消し去った後、遂にフラフラとその場に座り込んでしまった。昨日、人間の召喚を行ったばかりな上に、空間を燃やすことは予想以上に魔力を消耗するようで、レン自身も座り込んでしまった事に驚いているようだった。


「レン、大丈夫?」

「うん。大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ」


 心配そうに覗き込む香澄に、レンは、はははと情けなく笑って答えた。


「あと何個だっけ? もうちょっと頑張るよ!」

「レン、ごめん。もっと早目に止めておけばよかった。ここでお終いにしよう。立てる?」


「頑張る」と言いながらも、一向に立ち上がれないレンに、ルージュが手を差し伸べる。


「立てるし、歩けるけど、帰りのワイバーンはルージュの方に乗りたいな」


 差し出してくれた手を取って、レンが冗談交じりにそう言った。その手があまりにも冷たく弱々しかったので、ルージュはそのままレンを抱き上げた。


「本当は立つのもキツイんだろ? 無理するなよ」


 これが煌牙だったら、「全然平気だし!」とバタバタ暴れて強がる所だが、ルージュだと不思議と甘えられた。


「ごめん。……本当はもう無理」


 レンが小さくつぶやきルージュの腕にその身を預ける。


 煌牙が人知れず拳に力を込めた。

 面白くない。

 全く面白くない。

 気安くレンに触れるなと怒鳴り散らしたい。

 弱音を吐くなら自分に言えと、辛いのなら自分を頼れと叫びたい。

 血が滲むかと思うほど、煌牙は更に自分の拳を握りしめた。


 ゆらり、と。

 煌牙のまわりの空気が、一瞬だけ歪んだように見えた――――


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