5 ナイアルラトホテップ
『フルートの流れる日常』綾野祐介
5 ナイアルラトホテップ
「我が主よ。」
帰宅途中に歩いている時だった。黒ずくめ
の男が声をかけてきた。ナイアルラトホテッ
プだ。今頃来たのか、遅い!
「何用だ。今頃来てお前はこの状況を打開す
る術を持っているのか。」
「申し訳ありません、我が主。お探しするの
に手間取ってしまいました。今の所、原因も
何も判っておりませんので対処する術は皆無
と言っていいでしょう。我が主の今入ってお
られるその体の高校生も突然ことで成す術が
ないようです。今は玉座で我が主の外見のま
ま私の帰りを待っている状況です。」
望みの綱だった僕がこの有様だ。どのよう
にこの状況を打破すればいいのか。
「それではお前は何をしに来たのだ。さっさ
と元に戻る方法を探して来い。」
「そこは、少し考えていたのですが、我が主
は元の幽閉された状況をどのようにお考えで
したか?たとえば、この機会を利用し、幽閉
から逃れる方法を探す方がよいのではないか
とすら考えておりました。」
「この格好のままでか。力も何もない状況で
か。そんな自由に何の意味があるのだ。」
アザトースは腹立たしかった。一介の高校
生の生活に何の意味があるのだ。それで人間
の一生を全うしたとして、そこに意義を見出
せるものではない。我は万物の王アザトース
なのだ。
「それは、考えようです。我が主には永劫の
時間が与えられております。その一時をこの
ようなお姿で過ごすことも一興ではないかと
思うのですが、いかがでしょうか。私が何か
の解決法を見つけるまでのわずかな間、とい
うことで。」
「なるほど、それは少し面白そうではある。
では、お前は我を元に戻す方法を探すのだ。
我はその間に退屈しのぎをすることにしよ
う。」
こうしてアザトースの暇つぶしが始まった。