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26 杉江と岡本

『フルートの流れる日常』綾野祐介



26 杉江と岡本



「ちょっといいかな。」


 七野修太郎が向坂健太と帰ろうとしたとき

転校生の岡本浩太が話しかけてきた。


「何?」


 代わりに向坂が応えた。修太郎に変な話を

させる訳にはいかない。


「ああ、安心してくれていいよ。僕は事情を

把握しているから。杉江とは知り合いだし、

分ったうえでここに来ているんだ。」


「そうなんだ。って言われても信用できない

よ、なんか怪しい。」


「う~ん、そう来たか。じゃ、七野君の家に

一緒に行く、っていうのはどうだい?杉江も

居るだろうし僕の話が本当かどうか確認でき

るだろ?」


「どうする、修太郎?」


「好きにするがいいさ。誰でもいいから、こ

の状態を何とかしてほしいだけだからね。」


 修太郎はテストというもので辟易としてい

た。勉強とはなんだ。少なくとも自分には必

要の無いものにしか思えない。それで点数を

付けられるとは、何の拷問なのだ。


「何?二人とも転校生君ともう仲良くなっち

ゃったの?」


 修太郎、健太と岡本浩太が連れ立って歩い

ていると君塚理恵が追い付いてきた。斎藤加

奈子は最近修太郎には近づいて来ない。


「そういう訳ではないんだけど、なんか一緒

に修太郎んちに行くことになっちゃったんだ

よ。」


「そうなんだ。面白そうだか 私も行くわ。」


 余計な者が増えた、という岡本浩太の眼差

しを理恵は無視した。


 七野家に着くと母親が出迎えた。


「あら、修ちゃん、今日はたくさんお友達連

れてご帰還ね。」


 母親は未だに気が付いていない。もしかし

たら気が付いていて芝居をしている、という

可能性もあるが少なくとも修太郎や健太には

分らなかった。


「浩太じゃないか、久しぶりだな。」


「久しぶりってほどじゃないけどね。まああ

れ以来だからそんな感じもするよ。」


「浩太が来た、ってことは綾野先生がらみか

な。ナイ神父でも行った?」


「なんでもお見通しだな。その通りだよ。現

状把握のために僕が来たんだ。」


 向坂健太と君塚理恵は蚊帳の外だった。旧

知の間柄であることだけは理解したが。


「たしかミスカトニック大学に?」


「そう。綾野先生の紹介で中途転入させても

らったんだ。なんだか図書館長と親しいみた

いで簡単には入れたよ。」


「そうか。僕もこの件が終わったらミスカト

ニック大学にでも行こうかな。」


「この件が終わったらぜひ。まあ、この件が

終わらないと、それどころの話ではないけど

ね。」


 元々関係した件が件だけに岡本浩太はある

程度の知識を有していた。それで図書館長の

計らいもあり稀覯書の閲覧、翻訳、解読の日

々に明け暮れていたのだ。そのおかげで、こ

の数カ月でかなり膨大な知識を得ていた。事

情が許せばセラエノにも行ってみたいと思っ

ていた岡本浩太だった。


「ナイ神父がセラエノに行って、そこでマー

ク=シュリュズベリィという人に会って解決

策を探してもらうよう依頼してきたらしいん

だけど知ってる?」


「話は聞いた。マークって人は綾野先生とア

ーカム財団を繋いでくれた人だって言ってた

から大丈夫なんじゃないかな?クトゥルーの

件の時はラバンって人と一緒に最後現場に居

たらしいんだけど僕はちゃんとあってないん

でよく判らないけどね。」


「そうか。僕にも原因も解決策も見当すらつ

かない状況なんで、今回の件は新山教授たち

の力は借りられないから財団にも協力してほ

しいとは思っていたんだ。僕から言わなくて

も神父は手回しが早いね。」


「状況が状況だけに綾野先生も財団の人も今

回は協力しないと、とは仰っていた。それと

他にもし希望があるのだとしたら桂田を探す

ことが役に立つかもしれない、とも。」


「桂田利明か。ナイ神父に打開策がないのに

ツァトゥグアに何かいい考えがあるとは思え

ないけど。」


 向坂健太や君塚理恵はもちろん、七野修太

郎ですら置き去りにして話を進める二人に、

手持無沙汰の三人はTVゲームをやり始める

始末だ。七野修太郎は、その辺りでは十分地

球に馴染み始めていた。


「さすが、なんでも知ってる感じだね。杉江

お前って一体者なの?」


 堪らず聞いてしまった。


「僕かい?僕は杉江統一。それ以上でも以下

でも以外でもないさ。ただ、ナイアルラトホ

テップやアザトースとは旧知ではあるけどね。」


「旧知、ってそんな人間はあり得ないって。

まあ言いたくないのなら仕方ないけど。」


「言いたくないって事じゃなくて、聞いても

仕方ないって感じかな。まあ今回の件では信

用してもらっていいよ、ナイ神父や、その連

絡役も含めてね。」


「ああ、火野とか言う青年か。でも彼は一度

橘教授のお父さん、帝都大学の橘軍平教授を

訪ねて来て、亡くなられたのがそのあとすぐ

だったらしいよ。何か関わっていたのなら許

せない。」


「そんなこともあったのか。まあ、彼は彼で

複雑な立場だろうから仕方ないんだろうさ。」


「彼も複雑な立場なのか。」


「そうだよ。本来星の智慧派に居ていい人間

じゃないさ。まあ、神父の気まぐれだろうけ

ど。彼との付き合いは長いけど未だによく掴

めないんだよ。」

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