25 岡本浩太
『フルートの流れる日常』綾野祐介
25 岡本浩太
ナイ神父がアーカム財団を訪れて数日後。
財団の会議室に岡本浩太は居た。いそぎ留学
先のミスカトニック大学から戻ってきたのだ。
「綾野先生、それは確か前にナイアルラトホ
テップが言っていたことが本当だった、とい
うことですか?」
「先生はよしたまえ、私はもう教師じゃない
んだからね。そうだ、いつかナイアルラトホ
テップがそんな話をしていたが、もちろんあ
り得ないと信用していなかった。こちらを攪
乱したいのだろう程度に思っていた。だから
対処もしていなかったし、頭からは抜けてい
たんだよ。それが、どうやら本当に起こって
いることのようだ。」
「先生の方が呼びやすいから、それでどうで
すか?人生の師匠、という意味でも構いませ
ん。そうですか。事実だったんですね。」
「まあ、好きにしたまえ。それでだ。どうも
その七野修太郎という高校生の元に杉江君が
住込みで居るらしい。監視役、というところ
だろうか。最近彼と連絡は取れているかね?」
「いえ、留学する前も、してからも一度も。
やはり、彼は何かの役割を与えられるような
存在なのですね。それにしても大変なことに
なっていますね、一体この後どうなるんでし
ょうか?」
「全く判らない。もちろん過去にそんな例は
ないからね。どんな稀覯書にも記載は無いだ
ろう。そこでだ、ナイ神父側の人間として杉
江君が付いているのなら、こちらの方も誰か
を傍においた方がいいのではないか、という
ことになったんだよ。君の出番だ。」
「なるほど、そういうことですね。判りまし
たすぐに向かいます。向こうに着いたら具体
的にはどうすればいいですか?」
「七野修太郎のクラスに転校生として入って
もらう。手配済みだ。」
「高校生ですか、まあ何とかなるか。」
岡本浩太はどちらかと言えば童顔なので高
校生で通用しなくもない。綾野には無理なこ
とだったので急遽浩太を呼び戻すことになっ
たのだ。
「では準備が出来次第出発します。」
21歳の高校一年生ではあったが、仕方な
い。
「今日からこのクラスの一員になる岡本浩太
君です、仲良くしてあげてね。」
担任から紹介されてクラスメートを一通り
見回した後浩太は挨拶した。
「岡本浩太です。諸事情で急遽転校してきま
した。デリケートな内容なのであまり詮索し
ないでくれると助かります。よろしく。」
一風変わった挨拶になってしまったが、浩
太としては七野修太郎に近づくための方便な
ので他のクラスメートとはあまり親しくする
つもりも時間もなかった。




