11 宇宙創造
『フルートの流れる日常』綾野祐介
11 宇宙創造
「宇宙について考えたことはありますか?」
杉江統一がいきなりそう問いかけた。
「そんな、いきなり何ですか。宇宙なんて興
味ありませんけど。」
「僕は少し考えたことあります。ちょと好き
なので。」
君塚理恵と向坂健太の間では少し温度差が
ありそうだ。
「宇宙がどうやって始まったか、はご存知で
すか?」
「ビックバンとか、そういうことですか?」
健太は確かに少し知識があるようだ。
「そう、そのビッグバンです。でも、そのビ
ッグバンが起こる以前には何があったと思い
ますか?」
「そっ、それは。何も無かった、というのが
最近の風潮ですよね。」
「そうですね。無が揺らいでインフレーショ
ンが起こってビッグバンが起こったと言われ
ています。無が揺らぐ、というのはなかなか
想像しずらいのかもしれませんが、無は少し
の刺激で大爆発を起こしたりするのです。そ
して、その刺激をするのが最初のアザトース
と旧神のどちらかで、その後の宇宙の基礎が
全く別のものになってしまうのです。マルチ
ユニバースという概念は判りますか?」
「多重宇宙、みたいなもんですか。」
もう理恵には全く付いていけない。
「まあ、そんなものです。アザトースと旧神
は、今まで数多くの宇宙を創造して来たので
す。そして、この宇宙はその一つ、という訳
です。今回は旧神が優位になるよう調整され
た宇宙ということになります。」
「調整、ですか。あの、少しは仰っている意
味が判りますが、それと修太郎の件がどう繋
がるのでしょう?」
「ああ、そうですね。お聞きになられたいこ
とは、それですものね。」
「そうよ、宇宙がどうとか、意味が判らない
わ。」
理解できないことを並べられてキレ気味に
理恵が入ってきた。
「さきほど言いました宇宙を創造する存在で
あるアザトースと旧神の一方であるアザトー
スが七野修太郎君の身体の中に入ってしまっ
ている、ということなのです。」
2人は、ただ唖然とするだけだった。




