1 目覚め
『フルートの流れる日常』綾野祐介
1 目覚め
目覚めると見知らぬ場所だった。なんだ
か真っ白でどこが境界なのか判らない。
フルートの音が少し煩い。
そして、僕はアザトースになってた。
なぜアザトースになってたか?そんなこと
はこっちが聞きたいよ。
どうしてアザトースになっていると判った
のか?それは、うーん、どうしてなんだろう
ね。何故かそう気が付いてしまったって感じ
かな。そもそもアザトースって何?
鏡がないから自分の顔はわからないけど、
何か混沌とした不定形のぷよぷよした物体に
は違いない。自分でもどこが体で手で足なの
かも自覚できない。
「ナイアルラトホテップ君は居ないかな?」
なぜ、その名前が出てきたのかも判らない
し、どこが口で、その口からでた言葉なのか
も判らない。発音していない気もする。
「こちらに。我が主よ、いかがなされました
か?」
そこには何もなかったはずの場所にいきな
り現れた黒づくめの男が片膝を立てて傅いて
いた。この男の人がナイアルラトホテップと
かいう名前なのかな?
「いやさ~、なんか起きたらこの格好でさ、
自分でも状況がよく判らないんだよね。君、
何か知らない?」
彼に対しての口調はいつもの僕の口調とは
少し違う。似てるけどね。
「少し待ってください。ああ、なるほど何故
か地球という星の人間に中身が変わっていま
すね。」
でしょう。僕はただの高校生1年生。進学
校でもない普通高校で普通の成績を収めてい
る、将来安月給のサラリーマン感あふれたモ
テない高校生なんだよ。この仕打ちは誰の仕
業なの?
「何が何だか判らないんですけど。ねえ、ど
うしたら元に戻ります?」
立場としては、彼よりアザトース(僕)の
方が上みたいなんで、とりあえず全部任せて
一気に解決だ!