青春に消えた思い出の1ページ
俺の前にふいに現れたあの女子。ばらばらだったクラスをまとめてくれた。あの人は今どうしているのかな。
俺の名は漣つばさ。公立高校の高1で野球部。勉強はあんまりだけど運動は自信ある。そんな俺が彼女と初めて出会ったのは新学期の初日だった。
クラス分けの貼り紙を見て教室に入ると中学の時の友達もいた。
「よう、つばさ。お前もこのクラスか。」
「そうだぜ。改めてよろしくな。」
「こっちこそな。」
俺は中学の時の連中と話していたときにふと、周りを見ると毛先が肩まで着くか微妙なところで、染めたりなど一切イジってないくらいきれいな髪の地味っぽそうな女子がいた。その人は本を熟読していた。俺は気になってはいたものの自分達の会話に戻った。
(キーンコーンカーンコーン♪)
チャイムと同時に先生が来た。
「さあ、新学期だぁ。みんな仲良く頑張れよ。じゃあ、プリント配るぞ。」
と、先生がプリントを配り始めた。
だが、あの女の子は前から配られたプリントに気づかずに小説を読んでいた。前の席の女子が
「これ、まわして!」
と、強めの口調で言った。しかし、その女子は気づいていない。前の席の女子は呆れた表情でプリントを本の上に滑らせるように渡した。流石にその女子も気づいてプリントを後ろにまわした。俺は正体不明の疑問が生じた。
翌日、この事がきっかけであの女の子へのいじわるが始まっていった。
翌日も先生はプリントを配った。だが、前の席の女子が来たプリントをその女子には配らずに一つ飛ばしてプリントを送ったのである。しかし、その女子は気づかずにいつも通りあの本を読んでいる。俺は偶然見かけてしまった。俺は1時間目始まる前にさり気なく余った紙をその女子の机に置いといた。彼女はずっと本を読んでいた。
このようないじわるが1週間続いた。その後は収まるかなと様子を見ていたが参加人数も増えて悪化した。
俺はいつもの連中に会話の最中さり気なく聞いた。
「あの女子ってどうかしたの?」
すると、こう返事が来た。
「お前知らない?確かあの人・・・」
俺は話を聞いて疑問が解決した。そして、クラスの悪い流れを断ち切る策を考え始めた。
そんな最中だった。
次の日、俺がいつもの連中と何気なく話していた。
すると、{ビリビリ}と紙が破れる音がした。しかも、複数枚。その後、{ドスン!}と音がした。俺はあの女子の事が一瞬で脳裏をよぎり席を確認した。席には男女が集まっていて確認が出来なかった。
「わりい。ちょっと行ってくる。」
俺は会話を抜け出して止めに入ろうと向かった。その間にも蹴られ、机やカバンの中身をあさられているあの女子。
俺はあの女子の席に着くやいなや割り込むように近づき落ちている教科書やノートなど拾ってあの女子に渡してあげた。受け取ろうとして顔を上げたその女子は悲しい目をしながら、頬を涙で濡らしていた。
「キーンコーンカーンコーン♪」
チャイムと同時に暴行を加えた連中は自分達の席に戻っていった。こんな事が何度も続いた。
俺は気がつくと、あの名前も分からない女子を守るためにはどうすればいいかと言うことで頭がいっぱいになっていた。
その日の夜も、日課のグローブ磨きや素振りをしながら考えていた。
すると、俺はふと思いついた。
「これでいってみよう。もし、直らなかったらあれをやるしかない」
翌日はいつもの連中にこの事を話して協力してもらうように頼んだ。さすがは、俺の友達。すぐに協力が着いた。
さあ、作戦実行だ。まあ、作戦といってもその女子の近くで集まって近寄りづらくしようとしたのだ。作戦は成功したように見えた。
しかし、彼らもバカではない。
昼休みになり、あの女子の付近に集まろうとしたらいじめる連中はあの女子を教室の外に髪を引っ張りながら連れ出したのだ。俺はいつもの連中をつれてそいつらを尾行した。
いじめる連中は立ち入り禁止のはずの屋上に入っていった。俺らは屋上には入らずドアの裏で状況を見ていた。
「おい。てめー。調子乗ってんじゃねーよ。」
「・・・。」
「なんか言ってみろよ。」
「・・・。」
「だから・・。もうだめだ。話にならない。」
その言葉の後に{ガシャーン}と強い金網の音がした。その後、鈍い音が何度もした。
俺はもう我慢の限界だった。俺らはその場を離れ職員室の担任の先生の元へ向かった。
しかし、担任は
「あいつら。僕から言っておくから次の授業の準備をしなさい。」
と、言って職員室に戻っていった。
「なんだよ。先生は。」
「使い物になんねーよ先生は。」
いつもの連中の言葉や屋上での音を聞いた俺は決めた。
「仕方ない、俺らで動こう。」
翌日、あの女子の姿を見ると顔面には大きな青あざと昨日の金網で切ったと思われる傷跡もあった。席に座るまでの歩き方も足を引きずっていた。俺はもう怒りを通り越え悲しくもあった。
当然、今日もあの女子への襲撃があった。しかし、俺たちは強引にあの女子を取り囲むように立って連れ出そうとしたのを防いだ。その際に、メモを渡した。
(今日の放課後、図書館前のカフェに来て。俺らがいるから。 つばさ)
その日の放課後、俺といつもの連中は告げといたファミレスで時間までジュースを飲んでいた。
すると、あの女子が来た。俺が(適当に座って)と書いたメモを見せるとあの女子は空いている席に座った。俺の連中の1人が
「なんで、メモなの。」
と、俺に聞くから仕方なく足を蹴飛ばして何事もなかったようにした。
席に座るとあの女子はメモを見せた。
(自己紹介がまだでしたね。私は平木いくの。)
俺らは(よろしく)とメモを渡した。すると、さっき蹴飛ばした奴が
(なんで、メモなの。)
と、書いたメモを渡した。すると、衝撃の返事が待っていた。
(いきなりびっくりさせちゃってごめんなさい。
実は私生まれつき耳が聞こえづらくて、3歳の時にほぼ聞こえない状態だったの。それから、両親は私に冷たくなって。7歳になった時に小学校で初めて友達が出来たの。そして、友達とよく遊びに行っていたの。ある日、遊びから帰った私にママがハサミを突きつけていた。確か、ママはなんか言っていたけど聞こえなかった。ママはハサミで刺そうとしたの。私はかわしたけど追っかけてきて最終的に喉を斬られちゃったの。近所のおじちゃん、おばさんがすぐに物音に気づいて来てくれて私はすぐに病院に連れていってくれて命は助かった。けど、声は…。ママは私を刺した後、自殺したってあとで聞いたの。ふと、振り返るとさ、パパはこの事件の前あたりから家に帰ってこなくなって。)
メモ両面に目一杯書いてあった話を見て俺らは全員涙した。
「そ、そんな事あったのか…。」
涙を見せながら、俺は言った。
「俺らであいつらを止めよう。」
連中は顔を見合わせると
「おう。」
それから、翌日。俺らは先生の元に向かった。そう、学級会を開いて話し合おうとしたのだ。先生も
「明日の6時間目はやることないからいいぞ。」
と、時間をくれた。
その日の部活を終え校門をでようとしたら、いくのが待っていた。いくのは
(このあと、良かったらお茶しない?奢るよ)
と書いたメモを俺に渡してきた。俺は、バックからメモ帳とペンを取り出して
(いいよ。)
と書いたメモを手渡した。いくのは笑顔を見せながら
(じゃあ、手に持ってる荷物貸してよ。自転車のカゴにいれてあげる)
と書いたメモを手渡してきた。
(お言葉にあまえてそうしようかな)
とメモに書いて渡した。すると、いくのは俺が持っていた荷物を強引に近い力で取ると自分の自転車のかごに入れて自転車を走らせた。幸い、そんな早くないから走って追いついた。
目的地のカフェに着くといくのは慣れたように席に座るとあるメモをウェイターに渡した。その様子を見た俺は
(ここは、いくのの行きつけの店なの?)
と、書いたメモを渡した。
(ま、まあね。)
いくのから返事が来た。
(怪しいなあ笑)
俺は返事をすると、
(まあ、期待しといてよ。)
と返信が来た。そんなやり取りの中、いくのが注文したハニートーストと紅茶が2つ来た。俺は部活帰りで腹が減っていたということもあって早速食べた。口の中に甘いはちみつの味と香りが広がった。そこに香りいい紅茶を口に含むととてもいい気分になった。
勢いよく食べている俺を横目にいくのは食べながら俺にメモを渡した。
(実はね、ここは私の命を救ってくれた2人の経営しているお店なんだ。まあ、今日は2人はお休みなんだろうけど笑)
俺はメモを読んで納得した。
(だからか。美味しいのは。とても優しい味がする。ここを教えてくれてありがとう。)
俺は返事のメモを渡した。
(いえいえ。こっちこそ、争いごとに巻き込んじゃってごめん)
いくのは、俺たちの行動に気づいていたらしい。
(別にいいんだよ。気にすること無いよ。)
俺は返事をした。
(ところでさ。前から疑問に思っていたことがあるんだけど・・・)
俺は前から思っていた疑問をぶつけた。
(いつも読んでる本ってさ。どんな本なの。)
すると、返事が来た。
(あれね。実は詩集なの。ほら、私音が無い世界で生きて来たけど言葉って目で見るものなの。手話も目で見るけどその人の思いは分からない。でも、言葉って一つ一つに思いが乗ってる気がするんだ。ましては、詩って書いた人の思いが一番乗ってる気がするの。)
いくのらしい説得力のある一言に俺は何も言えなかった。
しかし、その後は話題が変わり話が弾んだ。
会計を済ませ店を出るといくのはメモを渡してきた。
(きょうはありがと。)
俺は家に帰ると部屋で翌日の学級会の資料をいつもの連中と連絡を取り合いながらまとめた。
翌日、俺は完成した資料をファイルに大切にしまい学校に登校した。
時間は俺にとっては異様に早く進んだ。1週間なんぞ待っている暇はない。いくのの傷も治り始めたしやるなら今しかないのだ。
{キーンコーンカーンコーン♪}
チャイムと同時くらいに先生が入ってきた。
「先生ー!きょうはなにやんの~。」
「え、フリータイム?」
クラスから学活ならではの声が飛び交う中、先生は
「静かに!よし。あとは漣に任すから」
と俺に後を託した。
俺は、いつもの連中を見た。さすがは親友だ。すぐに前に来てくれた。
「つばさ、なにやんの?」
周りの野次に気を取られることなく俺はファイルから昨日の紙を取り出して発表した。
「今日、先生からこの時間をもらってやることは体育祭のクラスキャプテンを誰にするかということ。誰か推薦する・立候補者はいますか。」
すると、案の定いくのをいじめている連中の1人が発言した。
「じゃあ、お前でいいんじゃね。」
そいつは、見かけは真面目そうなのだが性格がとことん悪い。俗に言うドSなのである。俺は
「それも案の1つとしてほかにありますか。別に俺はやってもいいけど独裁になると思うよ。」
と、切り返した。すると、いくのをいじめている連中の参謀的役割のやつが口を開いた。
「そうだ、平木いくのさんがやればいいと思います。いつも、えらそうに黙ってばっかりだしたまにはやるべきかと思います。」
この発言に、クラスの一部が盛り上がった。そう、この一部こそがいじめている連中なのである。
でも、実は俺はこの言葉を待っていた。
「俺実はさ、お前を含めたやつらが平木さんを蹴飛ばしたりしてんのを見たんだよね。この前。この前っつっても3日前。」
俺の連中がふと思い出したように言った。すると、そいつは
「言いがかりはよしてくれよ。証拠を出せよ。」
「そうだそうだ。証拠を出せよ。」
「何でも、批判すればかっこいいと思うなよ。」
男女にぎやかな野次が飛ぶ中俺は発言した。
「それ、俺も見たことある。てかさ、そういうのって{証拠を出せ}って言ったりその発言に反応すらやつらがさもう自白フラグ踏んでんじゃね」
一瞬ぎくりとした表情を連中は見せた。俺はこの学級会の本当の目的をあわせていじめている連中にとどめの一撃を加えた。
「さっき騒いだやつらって平木さんに暴行を加えている連中ってことはみんな知ってるよ。実はね、体育祭のクラスキャプテンなんてポジションなんて無いんだよ。」
教室の後方で静観していた先生が口を開いた。
「騒いだ連中、ちょっと職員室に来い。」
俺たちの作戦以上のいいハプニングが起きた。まさかの先生の追撃。いい意味で言えばだが、悪く言えばおいしい所取りをした。
その日の昼休み、いつもなら襲撃をするタイミングだがしこたま怒られたのだろう。もう襲ってこなくなった。
その日から、体育祭の練習が始まった。まあ、結果俺が仕切ることになった。
その日からである。いくのが俺に自分から接するようになった。また、いつもは定番の連中と遊んでいたが最近はいくのも一緒に遊ぶようになった。だけど、なぜか気にかかることなく自然に溶け込んでいた。
時は過ぎて、夏休みになった。夏休みも有志者が集まって練習をした。有志者とは言えど毎回クラスのほぼ全員が来ていた。当然のことながら、いくのを含めた俺らは練習後しっかり?と遊んだ。
そして、夏休みが終わり体育祭の前日になった。
俺の提案で下校前にグラウンドで最終調整として大縄跳びを行うことにした。
「せーの」
回し手の声が響く。
「い~ち!に~!さ~ん!・・・」
飛ぶ側の声も響く。
{パチン}
と、乾いた音が聞こえた。俺は音の元を見た。すると、いくのが引っかかっていた。いくのは音が無い分、目でタイミングを合わせなくてはいけなくて飛びやすいポジションにいる。引っかかって申し訳なさそうにしているいくのを見てメモを書いて渡そうとしたとき、ふといくのにプリントの裏を見せている人がいた。いじめていた連中の1人だった。プリントの裏がふいに見えた。
(ドンマイ!切り替えて行こう。)
俺は正直嬉しかった。表面上かも知れないけれどクラスがひとつにまとまった気がした。
(ありがとう!次いこう!)
いくのはメモを渡すと飛ぶ姿勢に入った。
その後も規則の時間まで練習は続いて、最後に円陣を組むことにした。すると、いくのはふと俺の隣に来た。俺は周りが円になっていることを確認して
「おっしゃー、テッペン取るぞー。」
と、叫んだ。同時にいくのにこの言葉を書いたメモを渡した。
「おー。」
声のそろった返事がみんなから返ってきた。
(うん、絶対勝つよ)
いくのからメモが来た。
当日、うちのクラスは惜しくも準優勝だった。しかし、クラスにはすべての力を出して戦ったせいか誇らしげな笑顔が広がった。
体育祭から日が経ち季節は冬になりクリスマス目前になった。町はクリスマス一色になり、クラスでもクリスマス特有の盛り上がりを見せている。
しかし俺はいつもの連中といつもどおり遊んでいる。
そんな、ある日。俺はいくのを含めたいつもの連中とボーリングをしていた。ボーリングを終えるとお開きにしようとしたらいくのはさりげなく俺のズボンのポケットにメモをさりげなく入れたのである。家に帰ってズボンを履き替えたときにそのメモに気づいた俺はそのメモの内容を見た。
(明日の夜、この前の喫茶店に来て。話があるの。 いくの。)
「なんだろう・・・。」
俺は疑問と妙な胸騒ぎを感じた。
翌日、いくのは学校に登校していた。そして、普段と同じように俺や俺の連中たちと接していた。
そして、下校して俺は指定された喫茶店に行った。店には、俺と従業員と思われる人しかいなかった。
約束の夜を迎えた。いくのは来なかった。しかし、俺の中で妙な胸騒ぎが最高潮を迎えていた時に一本の電話が入った。いつもの連中からだった。
「もしもし、どした?」
「つばさ、早く病院に来い。」
「なんでだよ。」
「いいから来い。いくのが・・・。」
いくのの病室に着くとベットに横たわるいくのの横に医師と看護士がいた。俺は、何がおきたか理解できなかった。戸惑いなど様々な感情が俺に降りかかってきた。そんな時、俺の連中の一人である竹中秋斗が事情を教えてくれた。
「落ち着いて聞いてくれ。いくのは横断歩道を渡っていたら暴走したトラックにはねられたんだ。どこに行こうとしていたか分からなかったけど手にはしっかりあれが抱えられていたんだ。」
「・・・。」
俺はふらっとベットの元に行きいくのに叫んだ。
「いくの。いくの。しっかりしろよ。話って何だよ。言わずじまいは卑怯だぞ。」
声が奇跡的に届いた分からないがいくのはかすかに意識を取り戻すとおいてある花束を指差した。
「あれか、あれに何があるか書けるか。」
俺が取り乱したように聞いた。しかし、心電図がピー・ピーと激しく鳴り出しいくのの意識も薄れてきた。
「いくの、しっかりしろ。いくの。またハニートースト食いにいくんだろ。」
俺が叫ぶも、いくのは反応が無い。
「いくの・・・。」
竹中やほかのみんなもうなだれ始めた。
すると、いくのは再び目を開くと病室の机にあるペンを取るとおれに渡そうとした。
「これを、俺にくれるのか。てか、あきらめんなよ。」
いくのは少ない体力で笑みを浮かべるとまた意識を失った。
俺は、全力でいくのに声をかけた。しかし、いくのの意識は戻らない。その時、ピーーと病室に響いた。
「い、いくの・・・。」
医者、看護士を除いた病室にいる人全員が泣いた。
俺は花束の中にあったメモの内容を見た。見て俺はさらに涙を流した。
(こんな、私だけど付き合ってほしい。)
この出来事の2日後。ふいにボーリングのときにみんなで撮った写真が出てきた。しかし、その写真にいくのの姿は消えていた。いや、その写真だけではない。彼女が写っている写真のすべてから彼女の姿が消えていた。