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セクション04:いざフライトへ!

 この学園で、ツルギ達が学ぶもの。

 それは、戦闘機を操り戦うために必要な技術全てだ。

 3年かけて本校で学ぶ基本的な操縦技術に加え、戦闘機科が存在するファインズ分校では、最後のステップとして戦闘技術など実戦に必要な技術を実践形式で学んでいく。

 この分校で、さらに3年間の実習をクリアできた者だけが、晴れてスルーズ空軍のファイターパイロットとなる事ができるのだ。

 今日もツルギは、いつものようにフライトに向けた支度を行っていた。

 緑色のフライトスーツ、耐Gスーツ、耐Gベスト、そして救命胴衣ライフプリザーバーと、必要な装備を身に着けていく。

 そして、ロッカーに最後に残った灰色のHGU-55ヘルメットをマジックハンドで取る。

 これらは全て、いざという時には自らの命を守る装備だ。どこかおかしな所はないか目で見て確認する。

「これでよし、と」

 フライトに必要な装備は全て揃えた。

 そして、軽く深呼吸し気持ちを整え、心の準備も完了。

「それじゃ行くか――」

「わっ!」

 直後、突然誰かの大きな声が耳元でした。

「うわあっ!?」

 驚いたツルギは、反射的に身を引いて声がした方向を見た。

 そこには、いつの間にかツルギを見てくすくすと笑っているストームの姿があった。既に青いフライトスーツを身に着けており、準備万端の状態だ。

「ス、ストーム! 入る時は声をかけてくれって言ったじゃないか!」

「ふふふ、ちょっと脅かしてみようかなって思って」

「脅かすって……せっかくフライトに向けて気持ち整えていたのに台無しにするな!」

「いいじゃない、こういう時は力入れすぎちゃダメだよ?」

「この前迷子になったばかりなのに、よくそんな事が言えるな……」

「平気平気! あたしは同じ失敗繰り返さないから!」

 相変わらずの緊張感のなさに、ツルギは呆れてしまう。

 少しは緊張感持ってくれよ、と思わずにはいられないが、そういう所もストームらしいけど、とも思ってしまう。

「『スルーズ空軍空戦10箇条』の第9条忘れてないよな? 『空では何が起こるかわからない。片時も油断するな』だぞ」

「わかってる」

 明らかにわかってないような返事をするストーム。

「そんな事気にしなくても大丈夫だよ。ツルギはあたしが守るから」

 そして、ストームが満面の笑みという不意打ちをかけてくる。

 突然の事に動揺し、一瞬言葉が出なくなるツルギ。

「……そ、そう言って事故られたら、リーダーとして責任取らないからな! い、行くぞ!」

 ツルギは熱を帯びてきた顔を隠すようにストームから逸らしつつ、車いすを動かし更衣室の出口へと向かった。

 あっ、ちょっと、とストームが後に続く。

「ツルギ、そんなに照れなくてもいいんだよ?」

「て、照れてなんかないっ! 少し不安になったから言っただけだっ!」

 そんやり取りをしながら、駐機場(エプロン)へ出る。

 今日の天気は、晴れ。多少雲はあるが、フライトには絶好のコンディションだ。

「ようツルギ! フライト前からラブラブだな!」

 そこには、フライトスーツ姿のバズとラームの姿もあった。

「う、うるさいっ! ほら行くぞ!」

 からかってくるバズにツルギはそれだけ言い返して先を急ぐ。

「はいはい。わかりましたよ、ツルギリーダー」

 バズはわざとらしくそう言ってラームと共について来る。

「相変わらず羨ましい2人だぜ。俺もあんな風になりてえよ」

「……その、兄さんは、私が相手じゃ嫌ですか?」

「え? お、おいちょっと――!?」

 さりげなくバズの大きな手を握り、バズに寄り添ってくるラーム。予想外の行動にバズは驚いていたが、ストームの相手をするツルギは気付いていなかった。

 4人が目指す場所は、もちろん自分達が乗る機体だ。

 駐機場(エプロン)にずらりと並ぶ、ダークグレーに塗られた大型の戦闘機。それが、ツルギ達の搭乗機――F-15Tストライクイーグルである。

 スルーズ空軍が誇るこの最新鋭戦闘機は2人乗りで、前席に操縦と武器発射を担当するパイロット、後席にレーダーや武器の操作を担当する兵装システム士官ことWSO(ウィソー)が座る複座戦闘機だ。この4人の中では、胸に金色のウィングマークを付けたストームとバズがパイロットで、銀色のウィングマークを付けたツルギとラームがWSOを担当する。

 ストームとツルギは、バズとラームと別れて自らの機体へ向かう。

 そのイーグルは他と異なり、垂直尾翼が青く塗られており、機首に付けられたコンフォーマル燃料タンクにはドリームキャッチャーと『WE HAVE CONTROL!』という筆記体の英文が描かれたパーソナルマークがある。

 009の製造番号(シリアルナンバー)が与えられたこのイーグルの名は、『ウィ・ハブ・コントロール号』。

 学級委員長たるツルギとそのパートナーであるストームに与えられた、『委員長専用機』だ。

「やあ、よく来たね我が娘・息子達よ!」

 その前に立って待っていたのは、髪をツインテールにまとめた小柄な女性整備士だった。

「ゼノビアさん、今日もよろしくお願いします」

 彼女の前で車いすを止めたツルギは、姿勢を正して教科書通りの敬礼をする。

「よろしく、ママ!」

 ストームも少し遅れてにこやかに敬礼する。

「はい、こちらこそ」

 ママと呼ばれた女性も笑みながら敬礼で答える。

 彼女――――ゼノビア・エアハートはウィ・ハブ・コントロール号の機付長(きづきちょう)を務めている。もちろん2人の実母ではなく、『ママ』とはパイロットにも整備士にも親身になるというゼノビアの自称に過ぎない。

「今日もウィ・ハブ・コントロール号はネジ1本に至るまで完璧にしてあるからね! しっかりその目で確かめてくるのだ!」

「はーい、ママ!」

 早速、ストームが機体の点検に向かう。

「随分と余裕なのですね、ストーム」

 その時、誰かの声がしてストームは足を止めた。

 振り返ると、そこにミミが立っていた。

 彼女もまた緑色のフライトスーツ姿で、左手には紫色のLA100ヘルメットを抱えている。だが右手には相変わらず広げた扇子を持っていて、顔を仰いでいる。

「今日は何の実習だか、わかっていますか? 難易度の高い『空中給油』ですよ?」

「それくらい知ってるよ」

 ストームが答えると、ミミはむっ、と顔をしかめて扇子の手を止めた。

「そんな軽口を叩いてもできるほど、甘いものではありませんよ空中給油は。余裕を見せる暇があったらイメトレでもしていたらどうです? またツルギを脱出させるつもりではないでしょうね?」

「別に大丈夫だよ! あたしはちゃーんとツルギを守って飛ぶんだからね!」

「あなたに守らせると不安だから言っているのですよ、ストーム」

「何さ、またやる気?」

 2人の鋭い視線がぶつかり合い、火花を散らす。

 やばい、また喧嘩になる。ツルギは慌てて止めようとしたが。

「こらぁ! 姫様に喧嘩を売るとは、いい度胸ねあんた!」

 間に入ったのは、ツルギでもゼノビアでもない第三者だった。

「そんな輩には、誰であろうとこの私、フィンガーが指一本触れさせないんだから! 姫様、こいつの相手は私が引き受けます! 姫様の手を煩わせるまでもありません!」

 ミミのパートナー、フィンガーだ。

 王女ミミのパートナーとは言っても、ごく普通の平民なのだが、彼女のそれらしからぬ態度の大きさに、ミミも唖然としてしまっている。

「覚悟ぉーっ!」

 フィンガーは拳を握りしめ、勢いよくストームに飛びかかる。

 突然の行動に、ツルギも止めようがない。

 だが。

「うわっと!」

 ストームは軽く身を翻しただけであっさりとかわしてしまった。

「え?」

 フィンガーが声を裏返した直後。

 ごん、と鈍い金属音が響いた。

 勢いあまったフィンガーが、ウィ・ハブ・コントロール号のボディに思いきり顔をぶつけてしまったのだ。

「う、く……よけるとは、卑怯、な――」

 そのままばたり、と大の字に倒れ込んでしまうフィンガー。

 場がしばしの沈黙に包まれる。

「こらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 その静寂を破ったのは、ゼノビアの雷鳴のごとき怒鳴り声だった。

 ゼノビアが詰め寄ったのは、伸びてしまったフィンガーではなく、ミミだった。

「姫様、人が整備した機体に何させるのよ! 傷でも付いたらどうするのよ!」

「え? ど、どうして、私が……!?」

「王女たる者、人もちゃんと管理できなきゃダメでしょ! あれ、1機1億ドル以上もするのよ! 簡単には買い直せないんだからね!」

「そ、その、申し訳ありません……」

 いつになく厳しく叱るゼノビアに、さすがのミミもたじたじだ。

「うん、これで一件落着だね!」

 安心したようにつぶやくストームに対し、どこが一件落着だよ、と呆れてしまったツルギであった。

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