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セクション03:通学路

 朝食を終えた4人は、『キャンベラ通り』と呼ばれる大通りを揃って歩き通学する。

 その先に、4人が通う学校がある。

 それは、見てくれこそごく普通の高校だが、視線を移すと明らかに普通の学校にはない特徴を持っているのがわかる。

 校舎の隣に、巨大な飛行場があるのだ。

 異界を遮る壁のように並んで建つ格納庫の向こう側には、コンクリートで舗装された駐機場(エプロン)が広がる。

 きれいに並べられているのは、全て戦闘機。それが、ここが軍用の飛行場である事を証明している。

 どこにでもありそうな普通の学校の隣に、軍事基地があるという奇妙な光景も、ツルギ達にとっては既に見慣れた光景だ。

 ここは、ただの学校ではない。

 その名を、『スルーズ空軍航空学園・ファインズ分校』。

 スルーズの空の守り手たるスルーズ空軍が海に浮かぶ人工島の上に建設した、スルーズ空軍のパイロットなどを養成する専門学校。

 そしてツルギ達を含むこの学園の生徒達は、全て飛行場に並ぶ戦闘機達に乗り込む、『戦闘機科』のファイターパイロット候補生なのだ――

「はあ、なんで朝からこんなに疲れなきゃならないんだ……」

 校門をくぐったツルギは、大きくため息をついた。

「どうしちゃったんだろ、ツルギ? さっきは元気になったって思ったのに……」

「さすがにちょっとやりすぎたんじゃ……」

 前を歩くストームとラームは、何事もなかったかのようにそんなやり取りを交わしている。

 こういう時こそ万全な体調で入りたいものだが、朝から疲れた状態で校舎に入るなんて、嫌な予感しかしない。

「そんなんじゃ先が思いやられるぜ、ツルギよ」

 すると、隣を歩くバズが肩に太い腕を回してきた。

「お前の席の隣はストームなんだろ? 加えてお前はストームのパートナーだ。フライトの時なんか一心同体だ。あんなアタックくらいで精神消耗してたら――」

「やめてくれバズ、余計に疲れが増してくる……」

 がっくりと顔を落とすツルギ。ストームとお揃いのドリームキャッチャーが目に入る。

 すると、バズが肩に回していた腕を下ろした。

「ったく、らしくねえなあ。本当にらしくねえ」

「らしくねえって、何が?」

「いいか? お前はな、かなり恵まれてるんだぜ。なんてったって恋人と公私揃って添い遂げられるんだからな。なのにあんなに恥ずかしがるなんて損だぜ。お前は生真面目すぎるんだよ。もっとストームとの付き合いを楽しまなきゃ。アタックされたら、『僕も好きだ、ストーム!』とか言ってお返ししてやるとかさ!」

「……よく言うよ。人目も考えないであんな事されたら、すぐ精神が持たなくなるって。ストームにはもう少し恥じらいってものを覚えて欲しいよ」

「何だ、ツルギは恥じらうストームの方が好みなのか?」

「な――なんでそういう流れになるんだよっ!」

 バズの予期せぬ発言に、真赤にした顔を上げて反論するツルギ。

「ははっ、ジョークだよジョーク! お前本当にわかりやすい奴だなあ!」

 そんなツルギを見て、面白そうに笑うバズ。

 バズの手玉に取られた事に気付いたツルギは、真面目に反応してしまった自分が少し恥ずかしくなった。

「バカにして……」

 熱くなった顔を隠すように、再び顔をうつむけるツルギ。

 再び、ドリームキャッチャーが視界に入る。

 丸い網に鳥の羽が2つ付いた形状のこのお守りは、ストームからもらったものだ。

 事故により下半身不随となり、操縦能力を失ったツルギは、自分の夢を見失い失意の底にあった。

 そんな時に希望をくれたのが、新学期が始まった時に出会ったストームだったのだ。

 自分を振り回すほどひたすら夢を追いかけ、ツルギの夢も叶えてあげたいと努力するストームの姿に、ツルギは次第に惹かれていった。

 そして、その後起きた遭難事件をきっかけに互いの気持ちを確かめ合い、今に至るのだ。

 新学期が始まった秋から数か月経ち、今はすっかり冬だ。

 スルーズはその気候上、極端に暑くなったり寒くなったりしないので、外の風景や人々の服装はそれほど変わらない。

 だが、2人の生活は大きく変化した。

 すっかり恋人気取りなストームは、事ある度に一方的なスキンシップをしてくる。

 そのために相変わらず振り回されてばかり。部屋でもなかなか落ち着けない。

 ツルギは文字通り、目が回るような日々を過ごしている――

「それじゃ、ここで一度解散だな」

 そうこうしている内に、玄関の前に辿り着いた。玄関の前には、紫、白、黒に塗り分けられた三色旗――スルーズの国旗が高く掲げられている。

 唯一学年の違うバズとは、ここで一度別れる事になる。

「うん! また今日のフライトでね!」

「1人だからって女子をナンパしないでくださいよ、兄さん」

「へーへー。それとツルギ、幸運を祈るぜ!」

 バズはツルギに対してサムズアップしながらウインクした。

「何が『幸運を祈る』だよ……」

 呆れつつも、手を軽く上げて返すツルギ。

 バズは背を向けると、廊下に出て自らの教室へと向かっていった。そんな中でも、近くを通った女子に声をかけている姿に、ラームは不愉快そうな顔をしていたが。

「じゃツルギ、あたし達も行こっ!」

 すると、ストームがいつの間にかツルギの背後に回り込み、ハンドルを握った。

 突然の行動に、ツルギは嫌な予感がした。

「レディ、セット、ゴーッ!」

 そして、それは見事に的中。

 車いすは、走り出したストームによって一気に急加速したのだ。

「うわああっ! ちょっと! 廊下走るなって――!」

「今日も夢へのフライトが、あたし達を呼んでいるーっ!」

 風のように廊下を駆けていくストームと車いす。それに驚いて道を開ける生徒達。ツルギはジェットコースターの乗客のごとく、声を上げるしかない。

 そしてそんな2人の後を、ラームが控えめに駆け足で追いかけていった。

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