セクション02:にぎやかな仲間
「えっと……お見舞いに来ました、ツルギ君」
その場をごまかすように笑いつつ、なぜか敬語で挨拶するラームは、なぜか鍋を持っている。
「あ……」
「あっ、いらっしゃいみんな!」
先程の光景を間違いなく見られたと気付き固まってしまうツルギをよそに、ストームは何事もなかったかのようにベッドから離れて2人の元に駆け寄った。
「ねえラーム、それ何?」
「チキンスープ。風邪に効くスープだからツルギ君に飲んでもらおうって思って作ったの」
「チキンスープ? あたしも飲む飲む!」
「その代金として、例のものの閲覧権を請求する。なあツルギ?」
「……み、見る分なら好きにしろ」
ツルギは気まずさから思わず毛布を被って顔を隠していた。
こうやって2人でくっついている所を誰かに見られても全く意に介さないストームには、本当に少しは恥じらいってものを覚えて欲しいと思わずにはいられなかった。
「そう顔隠すなって。今日は特別ゲストも来てるんだぜ」
「特別ゲスト?」
バズの言葉を聞いたツルギは、毛布から顔を出す。
すると、バズの背後から誰かが姿を現した。
「こ、こんにちはツルギ様ー!」
少し緊張した様子で現れたのは、リンドブラード三姉妹の末妹、カローネだった。
「これが『スルーズ殊勲勲章』か……軍民問わず自らの危険を顧みずに人命を救った者に与えられるって言う……」
バズは手に取った勲章――スルーズ殊勲勲章を観察しつつ、つぶやいた。
「ね、かっこいいでしょ!」
「ああ、神々しい輝きだぜ。俺も、こんな勲章をもらえる軍人になりたいもんだ」
バズとストームが、勲章を挟んでやり取りを続けている。
一方のツルギは、ラームが作ったというチキンスープを飲んでみた。
おいしい。スープは濃すぎず薄すぎない適度な味付けで、具の野菜や肉も軟らかく味も染み込んでいる。
「どうかな? 久しぶりの料理だから、ちょっと自信がないけど……」
ラームが心配そうに聞いてくる。
「いや、文句なしだよ。とてもおいしい」
「よかった……」
素直に感想を言うと、ラームはほっと胸をなで下ろした。
「うん! ラームが作る料理って、おいしいよね!」
一緒に飲んでいるストームも、嬉しそうに感想を言う。
「よかったなラーム。腕が鈍ってなくて」
「はい! 今度は兄さんにも作ってあげますね!」
ラームは嬉しそうだ。
三食がしっかりと支給される軍の学校という環境にいる関係上、航空学園の生徒は料理を作る機会が少ない。
そのため、ツルギは他の生徒が作った料理を食べるのも、ラームは料理が得意という事実を知ったのもこれが初めてだった。
「ねえ、ツルギ様」
そんな時、カローネがおもむろに口を開いた。
見ると、何か大事な事を物申したいとばかりに表情が強ばっている。
「ツルギ様とストームって、恋人同士なんだよね……?」
「え!?」
「うん、そうだよ! ね、ツルギ!」
その問いに一瞬驚いたツルギに代わって、ストームが堂々と答える。
この事実は、もはや隠しても仕方がない。なのでツルギも否定はしなかった。
「なのに、フローラ姫様とも親しいんでしょ……? それに、こうやってスープを作ってくれる女の子もいて……」
だが、知らず自分が異性との関わりを多く持っていた事を指摘され、動揺した。
まさか、バズみたいな女好きな人だと思われてしまったのだろうか、と考えてしまう。
そんなツルギを見たバズは、これはもしや、と何かを期待している様子を見せている。
「いや――別に僕は、そんな、バズみたいな女好きな人じゃ、ないぞ……?」
「なぜそこで俺の名が出てくる」
慌てて反論したが、バズの突っ込みを受けてさらに動揺を強めてしまう。
変な誤解をされまいと、慌てて次の言い訳を考えていると。
「わかってる。でもカローネは、ツルギ様に恋人や親しい女の子がいても、ツルギ様の事を応援し続けるからー!」
カローネは胸の前で拳を作り、目を思いきり閉じてそんな事を告白した。
本人にとっては、余程恥ずかしい事なのだろう。
「そ、そうか、ありがとうカローネ……」
とりあえず女好きなどと誤解されずに済んだようなので、安心してそう答えると。
「え……!? ど、どうしよう……カローネ、ツルギ様に名前で呼ばれちゃったー……あは、あははは……!」
一瞬目を見開いたカローネは、急に恥ずかしそうに顔を逸らしたと思うと、頬に手を当てて幸福感に浸るようにつぶやき始めた。
あの、と声をかけてみても、返事がない。完全に自分の世界に浸ってしまっているようだ。
どうしたんだ、と思っていると。
「おいおいおいおいストーム、こりゃお前に対する宣戦布告とも解釈できるぞ? いいのか?」
「え、今の宣戦布告?」
「何とぼけてるんだよ。そんな事してたら、知らぬ間に愛するツルギを奪われちまうぞ?」
バズがストームに、物騒な話を振ってきた。
しかし当のストームには何の話なのか理解できていないようだ。
「ま、そうなったら俺が慰めてやっても――いてててて!」
「兄さんっ!」
「いや、今のはジョークだってジョーク!」
いつものように耳をラームに引っ張られるバズ。
「どうしようどうしよう……何だか貨物2トンくらい一気に運べちゃいそう……あは、あははは……!」
そして、相変わらず自分の世界に入り浸っているカローネ。
こうして、部屋がにぎやかになっていく。
そんな光景を見ていると、やっぱりここに戻れてよかったとツルギは思う。
ここにはいろいろな仲間達がいて、毎日がとても楽しい。苦しい時も力になってくれる。
こんな仲間達と一緒に飛べて、本当によかった。
そして、これからも――
ふと、窓から空を眺める。
今日もスルーズの空は、静かに青く広がっていた――
完




