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セクション01:ツルギの災難

 そのニュースは、世界中を駆け巡った。

 スルーズ航空008便がハイジャックされ、あわや空軍に撃墜されそうになった『スルーズ航空008便撃墜未遂事件』は、スルーズ史上過去に例を見ない航空事件として、マスコミを騒がせた。

 ツルギ達は、そんな事件後の報道によって、事の顛末を知った。

 スルーズ時間の深夜、定刻通り某国の空港を飛び立ったスルーズ航空008便は、その日も何事もなく朝にスルーズのエリス国際空港へ到着するはずだった。

 だが離陸してから数時間後、008便はたった1人のハイジャック犯によって恐怖に陥れられる事になる。乗客の1人――それがツルギの父である――を連れ出してコックピットへ向かい、機体の制御を支配する事に成功したのだ。

 ハイジャック犯の指示で全ての無線通信を切られた008便は、ハイジャック犯に命令されるがままにスルーズのオルト市へと進路を変え、その結果フリスト諸島周辺の軍事訓練空域に接近する事となった。

 その目的は、オルト市の市街地に008便を墜落させる事。巨大な飛行爆弾と化した008便の中で、乗客の誰もが生きて地上に帰れないと思っただろう。

 それからは、もう説明するまでもない。

 ツルギとストームの乗るウィ・ハブ・コントロール号によって008便は救われ、ハイジャック犯も逮捕された。

 乗員・乗客には急激なフライトによる負傷者が出ただけで、死者はゼロ。それは、まさに奇跡だった。

 なお、ハイジャック犯の正体はスルーズ人ではなく、スルーズのかつての植民地にして現在も密接な関係を持つアフリカの国、カイラン共和国の人間だった。

 チケット購入の際の用いたプロフィールは全て偽造されたものだったという用意周到さを持ちながら、その動機については未だ黙秘し続けているという。

 その謎が解けるには、もうしばらく時間がかかるだろう。

 そして、事件を見事解決したツルギとストームに待っていたものは――


「ほらツルギ! 見て見て! 始まったよ!」

 ストームが、ベッドで寝ているツルギに携帯電話で映したテレビ番組を見せてくる。

 だが、当のツルギはあまり乗り気ではなかった。

「いや、いいよ……ストーム1人で勝手に見りゃいいだろ……」

「いいからいいから!」

 そんなツルギの意見も全く気にせず、こてんとツルギの隣で横になったストームは、一緒に見ようとばかりにテレビの画面をツルギに見せてくる。

 結果として、否応なしにテレビ画面がツルギの目に入ってしまう事になった。

 流れていたのは、週末に放送されるニュース番組だ。

 その映像に移っていたのは、制服姿のツルギとストームその人だった。

『この日、ハヤカワさんとエイミスさんの2人は、危険を顧みずに008便を救った功績を称えられ、スルーズ功労勲章を授与されました』

 アナウンサーの説明が流れた。

 映像の下にあるテロップには、『008便を救ったのは車いすパイロット』と英文で書かれている。

 場所はエリス基地の広場。フラッシュの光を浴びる中、画面の中のツルギとストームは、胸に銀色の勲章を付けてもらい、勲章を与えた相手――学園の生徒会長たるミミに教科書通りの敬礼をしていた。

 画面に映るツルギの姿は、いかにも軍人らしい井出達で、自分自身とは思えないほど立派でかっこよく見えた。

 そんな自分を見ていると、何だか恥ずかしくなる。

「うーん、やっぱりツルギってテレビ映りもいいんだね。かっこいいよ――あっ!」

「もういい……こういうのは、あんまり見たくない……」

 1人感想を漏らすストームの前で、ツルギは素早く携帯電話の画面を消した。

 画面が携帯電話のホーム画面に戻る。壁紙はロイヤルフェニックスのホークの画像だった。

「ええー、どうして?」

「だって、その、自分がテレビに映るなんて恥ずかしいから――げほっげほっ!」

 説明する途中で、ツルギは咳き込んだ。

「それに、今の僕はおとなしく寝ていたい身なんです……」

 咳き込んだ反動で落ちかけたタオルを再び額の上に乗せる。

 既にぬるくなってきている。そのせいか頭に再び熱っぽさを感じてきた。

 今ツルギがベッドで寝ている理由。それは、風邪を引いたからである。

 あの事件以降、あちこちから取材を受け続けるてんてこ舞いな日々を送った反動からか、それとも先に風邪をこじらせていたストームから移されたからか。

 理由はともかく、ここ数日ツルギはひどい熱と咳に苛まれ、しばらく授業を休まざるを得なかった。

「そっか……じゃあ早く元気になってもらうしかないね」

 ストームはそうつぶやくと、起き上がってタオルを取る。

「あたしから元気のおすそ分け」

 そう言って、額にそっと口付けた。

 途端、熱がさらに上がったような感覚がして、頭の中が真っ白になる。

 ストームが看病をすると、こういう事があるから困る。こんな事をされると、風邪を引いてよかったなんて、変な考えが僅かでも頭をよぎってしまう。

「おう、羨ましい限りだぜ。俺も一発、風邪引いてみようかな」

 そして、予期せず耳に入ったその声で現実に引き戻された。

 見れば、部屋にはいつの間にかバズとラームの姿があった。

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