セクション12:和解
その日の夕方。
茜色に染まる空の下、ツルギはとある公園で父と向かい合って話をしていた。
「ガイ。本当に何と礼を言ったらいいか……ありがとう。お前があの時何もしてくれなかったら、私はもうこの世にはいなかった」
「いや、その……どういたしまして」
父からのお礼が照れくさくて、思わず目を逸らすツルギ。
「お前も立派になったな。軍の司令を無視して、危険なフライトをしてまで私達を助けようとしたその勇気、声からしてもう父さんの知るガイではなかったよ。だからいつの間にか、パイロット達にお前を信じるように言っていたよ」
「そんな、勇気だなんて……僕はただ、軍の指令で父さん達が殺される事が納得できなかっただけだよ……」
「その思いを行動に変えられる力を勇気と言うんだよ、ガイ。お前は本当に成長した。お前の事を心配していた父さんがバカだったよ。あそこまでできるなら、もう親として何も言う事はない」
「……じゃあ、僕は学園にい続けていいの?」
まさか生きて帰ってこられたから前言撤回、なんて言わないだろうかと思いつつ、ツルギは聞いてみた。
「何言ってるんだ。お前の居場所は、もう自分で決められるだろう?」
表情を緩めた父が、ツルギの真後ろを指差した。
何かと思って振り返ると、そこにはこちらに手を振るストームの姿があった。どうやら迎えに来たようだ。
「父さんは陸から見守る事にするよ。お前が仲間達と共に、立派なパイロットになれると信じてな。だが、あの時も言ったが、納得が行くまでやり続けろ。お前が決めた道なのだからな」
ぽん、と両肩に手を置く父。
その手が、初めて暖かいと感じられた。
それは、父のツルギに対する確かな信用の表れだった。
それが嬉しくて、自然と表情がほころんだ。
「ありがとう父さん!」
こんな声で父さんに返事した事が今まであっただろうか、と思えるほどはきはきとした声で、ツルギは返事した。
「いい返事だ。じゃあな、ガイ。体には気を付けるんだぞ」
そう言って手を離すと、父はツルギに背を向けた。
そのままツルギの前を去って行くように見えたが。
「……ああそうだ。あと1つだけ、あのストームって子に伝えておいてくれ」
ふと思い出したように、一旦足を止めて言った。
「……何?」
「いくら仲間を守るためだからって、大の大人を殴るような事はもうするなとな」
「……ふふっ、伝えておくよ」
その追伸がおかしくて、思わずツルギは笑ってしまった。
父はストームに対する態度も多少軟化したようだが、殴られた事は完全に許した訳ではないらしいと知って。
そして、今度こそ父はツルギの前を去って行く。
言いたい事は全て言ったと、その背中が告げている。
その背中に、ツルギは誓う。
父さんが認めてくれたんだ。だから、学園で自分の信じた通りに飛び続けよう。
父さんが言ったように、納得が行くまで。
具体的には、もう一度「かっこいい」と言われるように。
何も恐れる事はない。僕には、心から信頼できるパートナーがいるんだから――
「ツールギッ」
ふと、背後から抱きつかれ、ふくよかな感触を背中に感じた。
「パパとちゃんと仲直りできたみたいだね」
ストームだ。その顔はツルギの顔のすぐ右隣にある。
少し驚いたが、不思議と動揺はしなかった。
「ああ。これで、退学されずに済んだよ」
「よかった。最後まであきらめなくて」
「僕も本当に、そう思うよ。だからストーム」
「何?」
至近距離で目が合う。
顔が自然と熱を帯びるが、自然とそれが心地よく感じた。
「これからも、よろしくな」
「ふふっ、当たり前でしょ!」
そして、2人は互いに頬を寄せ合った。
ストームはツルギの右手に手を重ねて。
ツルギは、2人の絆の証であるドリームキャッチャーを握りしめて。
そうしていると、ツルギの頭に小石が当たった。
何かと思って振り返ると。
「おい、俺達の事も忘れるなよ!」
そこには、こちらに向けて笑みを見せるバズとラームの姿があった。
どうやらバズが、その辺にあった小石をツルギに投げたらしい。
からかっているつもりだろうが、ツルギはストームと顔を合わせて思わず笑っていた。
「じゃ、帰ろう。僕達の学園に」
「うん!」
互いの気持ちを確かめ合った2人は、学園への帰路に着くべくバズとラームの元へ向かう。
そんな2人の頭上を、轟音と共に一筋の飛行機雲が描かれていった。
ラストフライト:終




