セクション10:決死の救出作戦
「ツルギ、行くよ!」
だがその時、ウィ・ハブ・コントロール号が動いた。
ミサイルの前に立ちはだかると、アフターバーナーを点火し、素早く離脱。
すると、ミサイルがその炎に誘い込まれ、008便から離れてウィ・ハブ・コントロール号の後を追い始めた。
『な――!?』
予想外の行動に、一同は目を疑った。
降下していくウィ・ハブ・コントロール号の後を、ミサイルが追いかけていく。
速度の差は歴然だ。たちまちウィ・ハブ・コントロール号との距離が詰まっていく。
「ミサイルは?」
「ついて来てる! よし、フレアだ!」
ツルギの操作で、ウィ・ハブ・コントロール号は機首を上げつつフレアをばら撒いた。火の玉が、滝のようにウィ・ハブ・コントロール号から落ちていく。
海に落ちていくフレアに誘い込まれたミサイルは、そのまま何もない海面へと落ち、水しぶき上げて爆発した。
「やったあ!」
ストームがガッツポーズをとる。
『ひよっこ! 何のつもりだ!』
『ブラスト1へ! 任務の妨害はやめてください!』
直後、ミーティア1やピース・アイから苦情が入る。
マスクを付け直していたツルギは、すぐに宣言した。自分の意志が伝わるように、強く。
「ブラスト1より全機に告ぐ! 我々はこの任務を受け入れられない! 独自に008便の救出を行う!」
『な、何だって!?』
「008便、これから何があっても今の姿勢を維持し続けてください! 必ず助け出します! ですからこの指示を厳守してください!」
『てめえ、何をする気だ!?』
当然、008便のパイロットやハイジャック犯は困惑している。
『な、何を言ってるんだ! ひよっこのお前達に何ができるって言うんだ!』
『ブラスト1、それは命令違反ですよ! 軍法会議にかけられちゃいますよ!』
そして、ミーティアチームやピース・アイからは苦情が来る。
だが、それは承知の上だ。命令違反をして独断行動をすればこうなるのはわかっていた。
だから、ツルギは怯まずに告げた。
「わかっています。でも僕だって、事故の被害者なんです。大切な人を失って、二度と治らない障害を背負ったんです!」
かつてツルギは、事故によってパートナーだった先輩を失った。
そして、しばらく立ち直れないほどの深い傷を心に負った。
だからこそわかる。航空機事故で受ける痛みを。
「あたしだって同じ!」
それはストームも同じ。
ストームも洪水で家族を失い、天涯孤独の身となった。
そして、ロイヤルフェニックスと出会うまではその傷が癒えなかった。
だからこそわかる。大切な人を失う悲しみを。
「だからこんな事で――」
「たくさんの犠牲は出させない!」
ストームの言葉に、ツルギが続けた。
『ガイ……』
ツルギの父が、そう一言だけつぶやいた。
ウィ・ハブ・コントロール号は、降下しながら加速し、008便を追い越した。
目の前には、オルト市の市街地が見える。その中に、008便に先駆けて飛び込んだ。
結構降下したせいで、高度は100フィート――およそ30メートルにまで落ちている。そのため、下を見ると多くの市民達が空を見上げているのが見えた。
市街地の上空をこんな高度で飛べば、騒音などで迷惑をかけてしまうだろうが、そんな事を気にしている場合ではない。
『無茶するな! そうやって正当化しても、お前に何千もの人の命を預ける事を――』
上からの苦情がうるさいので、ツルギはためらいなく無線を切った。
無茶なのはわかっている。
かと言って、考えなしで動いた訳ではない。
ツルギとストームには、ちゃんと作戦があるのだ。
「いいかストーム、ある程度距離を取ったら、008便と正対するぞ。そこから正面交差して、衝撃波で機体を揺さぶる。わかってると思うけど、一歩間違えたら空中衝突だ。目視してからじゃ修正もきかない。それに、失敗したら008便は市街地へ一直線だ。失敗はできないぞ」
ツルギが作戦を説明する。
「チャンスは1回だけって事だね……!」
「できるか? 意義があるなら今の内に言ってくれ」
「ない! ツルギを信じてやってみせる!」
「……ごめん、変な事聞いちゃったな。じゃ、僕も君を信じるよ、ストーム! 行こう!」
「ウィルコ!」
ストームがはっきりと返事をすると、ウィ・ハブ・コントロール号は再び旋回した。
「く……ストーム、バイザーを――!」
体を押し潰さんと襲いくるGの中、ツルギは1つストームに指示した。
それに気付いて、ストームはヘルメットのバイザーを下ろす。
すると、008便の位置が四角で囲まれて表示された。
空戦実習のためIRIS-Tの模擬弾を装備していたのが幸いだった。これで008便をロックオンすれば、ストームのヘルメットのバイザーに位置が映し出され、目視できなくとも道しるべにはなる。
「ありがとツルギ! それじゃ、行くよ!」
オルト市の市街地を背にし、008便を正面に捉えたウィ・ハブ・コントロール号は、そのまま加速して上昇し始める。
ツルギもレーダーを使用して、008便をモニターする。
あっという間に詰まっていく距離。
間もなく、目視できる距離に到達。008便でも、空中衝突の警報が鳴っているだろう。
これからは、3秒で全てが決まる。
「1!」
ストームがカウントを始めた時、008便が見えてきた。
ここまで近づけば、相対速度が速すぎる故に修正しても間に合わない。
衝突するかしないかは、もう既に決まってしまっている。
「2!」
だが、やってくれるはずだ。
地面を這うほどの高度で『ファン・ブレイク』をやってのけたストームなら。
必ずできると信じよう――!
「3!」
そして、ウィ・ハブ・コントロール号は左90度に機体を傾ける。
直後、ウィ・ハブ・コントロール号と008便は、衝突してもおかしくないほどにまで肉薄し――




