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セクション07:スルーズ航空008便

『目視しました。旅客機です。情報通りスルーズ航空機です』

 望遠鏡でラームが旅客機の姿を確認した。

 白地に紫のラインが入った旅客機は、スルーズ航空の機体だとわかる。

『ピース・アイ、了解。ただちにコンタクトを取ってください。便名は008です』

 報告を受けたピース・アイから指示が入る。

「あれ? あの旅客機、翼が少ししなってるよ? あんな旅客機ってあった?」

 ストームがそんな疑問を口にした。

 見れば、旅客の細長い翼は上方にややしなっている。

 ストームの言う通り、確かにそんな旅客機は見慣れない。

『ありゃ新型の787だ。通称ドリームライナー。機体に複合材料をいっぱい使っているから、あれだけしなるんだそうだぞ』

「ふーん」

 バズが説明した。

 スルーズ航空最新の翼、B787ドリームライナー。

 機体に多く取り入れられた複合材料など、数多くの新技術が惜しみなく投入されたハイテク旅客機だ。それを肉眼で見るのは、ツルギは初めてだった。

 だがそんな機体を見ていると、妙に嫌な予感がする。

『……ん? そういやドリームライナーの事、さっきどこかで話さなかったっけか?』

 バズが思い出したように問いかけてくる。

 嫌な予感が、さらに高まる。

 まさか――

『待って! 008便が!』

 すると、急にラームが声を上げた。

 何かと思って見てみると、008便の動きに変化があった。

 ゆっくりと機首を下げ始めたのだ。その角度は、次第に急になっていく。

『おいおい、落ち始めてるぞ!』

「角度が急すぎる! あんなの普通の降下の仕方じゃない!」

 明らかに様子がおかしい。

 普通の旅客機なら、乗客のためにも急激に機首を下げるような事はしない。

 そうなっているという事は、この008便に何かが起きているという事だ。

「行ってみよう!」

「ああ!」

 2機のイーグルは、すぐに加速して008便の元へと向かう。

 あっという間に、008便に追いつくと、そのまま008便の左側に並ぶ。

 ツルギはすぐに、無線の周波数を切り替える。

 すると、008便のパイロットの声が聞こえてきた。

『おい見ろ! 空軍の戦闘機だ!』

『尾翼が青い……?』

『よそ見してないで操縦を続けろ! 構わず降下だ!』

 だがその声には、本来いないはずの第三者のものが混じっていた。

『パイロット以外に誰かがコックピットに……!?』

 ラームが声を上げた。

 コックピットを見ると、確かにパイロット以外にもコックピットの中で何者かが立っているのが見える。

 そんな事は普通あり得ない。旅客機のコックピットは関係者以外立ち入り禁止になっている。

 その中に第三者が混じっている理由があるとすれば――

「まさか――!?」

 最悪の結論が頭をよぎった直後。

『空軍の戦闘機に告ぐ! このスルーズ航空008便と乗客203人の命は、オレが預からせてもらっているぜ!』

 第三者の宣戦布告の言葉が、無線で流れてきた。

 その言葉で、一同は状況を理解した。

「ハイジャック!?」

 スルーズ航空008便は、空の上で音もなく乗っ取られてしまったのだ。

 通信が途絶えていたのは、何らかの目的でハイジャック犯が通信を切っていからなのだろう。

 予期せぬ緊急事態に、ツルギの全身に寒気が走る。

「旅客機を乗っ取って、何をする気なの!」

『ほう、その戦闘機にはお嬢さんが乗っているのか。いい声だな。だが軍のお前らには知る必要も教える必要もない。お前らが知ればいい事はただ1つ。こっちはこの旅客機が一瞬で吹き飛ぶ爆弾を持ってる。余計な真似をすれば、乗客全員の命はないって事だけさ』

 ストームが果敢に問いかけても、余裕を持った声で返すハイジャック犯。

 その声は、まるでハイジャック自体を楽しんでいるようにも聞こえる。

『こちらピース・アイ。ブラストチーム、何がありましたか? 状況を報告してください!』

『こちらブラスト2! ハイジャックだ! 008便はハイジャックされている! しかも爆薬持ちだ!』

『ハ、ハイジャック!?』

『驚いてねえですぐ連絡しろ! 実戦部隊に!』

『は、はい!』

 バズの慌てた報告に、ピース・アイも動揺している。

 それは、ツルギも例外ではない。

 今、自分達が相手にしているのは犯罪者だ。しかも、かなり危険な臭いがする。まだ候補生でしかない自分達で相手にできる人間ではない。

 これは、紛れもなく本当の実戦だ。

 なら、実戦部隊が到着するのを待つしか――

『なあ、ニッポンの親父さんよお。この爆弾で爆破されて大西洋の藻屑となるのは嫌だよなあ?』

『や、やめろ!』

 無線に突如、また新たな声が聞こえてきた。

 日本語訛りの英語だ。

『コックピットにまだ誰かいる!?』

『おっと、紹介し忘れてたな。人質の代表としてここに連れてきたニッポンの親父さんだ。この旅客機には、こいつも含む外国人がわんさかいるんだぜえ?』

 ラームの疑問に、得意げに答えるハイジャック犯。

『く、空軍の戦闘機! 頼むから、助けてくれ! このままだと、この旅客機は――』

「え――」

 コックピットに立つハイジャック犯のすぐ側で、誰かが手を振っているのが見える。

 彼のものであろう声に、ツルギもストームも耳を疑った。

 凶器を突き付けられているのか、怯えている様子で助けを求めるその声は、ツルギがよく知っているものだった。

 そう、幼い頃から聞き慣れている、忘れようにも忘れられない声。

 そして、つい先日も聞いたばかりの声――

「その声って、もしかして――!?」

「父さん!?」

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