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セクション06:緊急指令

機関砲発射(ガンズ・ガンズ・ガンズ)!』

 そして、フロスティの叫びと同時に、2機は一瞬ですれ違う。

 それが、勝敗の決した瞬間だった。

「偉そうな事言って、何が悪い?」

 ストームが得意げにそう言ってヘルメットのバイザーを上げると、撃墜音と共にフロスティ機が姿勢を崩した。

 ストームは、向かい合った際に先手を取って短距離ミサイルを撃っていたのだ。

『ゲームセット! ウィナー、ブラストチーム!』

 ピース・アイが、ブラストチームの勝利を告げる。

『バカな……!? 私が、こんな奴らに負けただと……!?』

「冷静さを失った者から先に死んでいく、と言っていたのはあなたのはずですよ、教官」

 信じられないとばかりにつぶやくフロスティに、ツルギはそう言い放った。

『これが、ファングが認めた力なのか……!? 認めん、認めんぞ……! 次は必ず――!』

 そんな捨て台詞を言い残し、フロスティ機は離脱していった。

「終わった……」

「やったねツルギ! あたし達勝ったよ! やっぱりあたし達最強ーっ!」

「うわっ!」

 勝利の喜びを表すように、ウィ・ハブ・コントロール号はくるりと横転(ロール)した。

『凄い空中戦でしたね、兄さん……』

『ああ、こっちも思わず見入っちまったぜ』

 そこへ、バズ・ラーム機がウィ・ハブ・コントロール号に合流する。

『にしても、最後すげえ捨て台詞だったなあフロスティの奴。こりゃネタにできるぞ』

 くくく、と面白そうに笑い出すバズ。

『やりましたねブラストチームの皆さん! これで今日のフライトは――え? ちょっと待ってください』

 何か言いかけた所で、ピース・アイは急に言葉を止めた。

 そして、急に落ち着いた口調になって再開した。

『ブラストチームの皆さん、突然ですが緊急指令です。落ち着いて聞いてください』

「緊急指令?」

『たった今、この空域に通信を絶ったスルーズ航空機が接近中との情報が入りました。ただちにスルーズ航空機の元へ急行し様子を探ってください』

 突然の指令に、ツルギ達は戸惑った。

 普段と異なるピース・アイの口調が、張り詰めた雰囲気を作り出している。

『おいおい何だそりゃ? 抜き打ちのテストでもするって言うのか、ピース・アイちゃん?』

『いいえ、これはテストではありません。実習でもありません』

「実習ではない――!?」

 という事は、それは実戦任務であるという事を意味する。

 それを知った途端、ブラストチームの誰もが息を呑んだ。

『待てピース・アイ! こいつらはまだオペレーション・レディネスじゃない候補生なんだぞ! オルト基地の実戦部隊は何をやっている!』

 その指令に真っ先に噛み付いたのは、フロスティだった。

 フロスティの言う事はもっともだ。候補生でしかないツルギ達はオペレーション・レディネス――実戦任務が可能なレベルに達していないのだ。

『オルト基地は現在津波の影響で滑走路を閉鎖しています。既にロタ基地のミラージュ部隊に緊急発進(スクランブル)をかけていますが、今はブラストチームしか間に合わないとの事です』

『くそ、これだ……!』

 フロスティが歯噛みする。

『大丈夫です。あくまで実戦部隊が到着するまでです。到着したらバトンタッチしますのでご心配なく。ではブラストチームの皆さん、ただちに方位065へ。時間はありません』

「……」

 その指示に、素直に言葉を返す事ができない。

 何せ実習ではない実戦任務なのだ。失敗は許されない。しかも相手は、民間人が乗る旅客機。


 ――もし万が一の事があれば、旅客機に乗る何百もの民間人を危険に晒す事になるからな。


 フロスティの言葉が脳裏によみがえる。

『ピース・アイ! 私を代わりに――!』

仮想敵(アグレッサー)部隊にはエリスへ帰還命令が出ています。これは軍の仕事だ、教育専門のPMCが出る幕ではない、との事です』

『く……!』

 一方で、フロスティの提案はあっさり退けられてしまった。

 これで、教官の援護は期待できなくなった。

 できるものなら、断りたい。

 だが、それができるのは自分達しかいない。

 そう悩んでいると。

「ウィルコ! ただちに現場へ急行しまーす!」

 ストームが、快い返事で承諾した。

「ストーム!?」

「大丈夫! あたし達はフロスティ教官に勝ったばかりなんだよ! これくらい楽勝楽勝!」

 ストームは振り返ると、得意げにウインクしてみせる。

 随分と楽観的だな、と思っていると。

『ま、「大丈夫ですかー?」ってちょっくら声かけてくるだけだからな。何もなけりゃ問題ない』

 バズも、ストームと同じような事を言った。

『兄さんがそう言うのなら――行きます』

 そしてラームも真の通った声で同意。

『よし、という訳で賛成多数だ。行こうぜツルギリーダー!』

 バズが催促してくる。

 みんなはやる気充分だ。そんな仲間やパートナーを信じられなければ、リーダー失格だ。

 ストームだって言っていたではないか。あたしを信じて、と――

「わかった。行こう!」

 ツルギは、覚悟を決めてそう告げた。

「うん!」

 ストームがうなずくと、ウィ・ハブ・コントロール号は一度くるりと一回転した後、指示された方位へと旋回し向かっていった。

『ブラスト2、了解!』

 そして、バズ・ラーム機がそれに続く。

『不本意だが、頼んだぞブラストチーム。くれぐれもおかしな真似はするなよ。絶対にな』

 帰還するフロスティからの最後の通信が入る。

 相変わらず、自分達に期待していないようだった。

 だが、2機のイーグルは引き返す事なく緊急任務へと向かっていった。

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