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セクション04:スクランブルは果たせる!

 そして、その時はやってきた。

 まもなく昼食の時間に差しかかろうとしていた頃、緊急発進(スクランブル)を告げるサイレンが鳴り響いた。

 将棋をしていたツルギとラーム、そして観戦していた他の一同は、サイレンを聞いて素早く行動を開始した。

 真っ先に走り出したのは、ストームだ。

 だが、彼女はツルギの車いすを押さず、先に待機室を飛び出してしまった。

 一方のツルギはと言うと、ストームではなくゼノビアに車いすを押してもらいストームの後を追う。その間に、予めヘルメットを被っておき準備を整える。

 駐機場(エプロン)を出る。

 エリス基地にはないアラートハンガーの代わりに、駐機場(エプロン)に置かれている機体へ直接向かうのだ。

 真っ先にウィ・ハブ・コントロール号へ駆け寄ったストームは、すぐにはしごを駆け上がり、コックピットへと飛び込む。

 その後を追う形で、ツルギはウィ・ハブ・コントロール号の前に到着した。

 エンジンスターターが回り始めた。ストームは素早くヘルメットを被り始める。タイミングはバズとラームが乗り込んでエンジンを回すよりも少し早い。

 その間、ツルギはゼノビアら整備士の助けではしごを上り、コックピットへと入る。

 それ自体は今までと同じく時間がかかる。ツルギがコックピットに入った頃には既に右側のエンジンが回り始めていた。

 右側の空気取り入れ口(エア・インテーク)が傾いた頃、整備士が離れてはしごを外した。回っているエンジンは反対側なので、問題なく作業ができる。

『グッジョブ、ツルギ! 作戦通りに行ったね!』

 外を見ると、ゼノビアがやったねとばかりに親指を立てている。

「はい! ゼノビアさん達のおかげです!」

 既に、ウィ・ハブ・コントロール号は左側のエンジンを始動し始めている。

 作戦はうまく行った。

 普通、複座の戦闘機は後席から先に乗り込む。だが、ツルギの場合だとその場合どうしても後を詰まらせてしまい、結果として発進が遅れてしまう。

 そこで、先にストームを向かわせて片方のエンジンを回しておき、その間に乗り込む事にした。これなら、自分が多少遅れても発進を遅らせる心配がない。

「いいねこの作戦! ツルギって本当に頭いいんだね!」

「いや、ミミがヒントをくれなかったら、全然思いつかなかったよ。礼を言うならミミに言ってくれ」

「でも、ヒントを元に考えたのはツルギでしょ?」

 振り向いたストームが、ツルギに微笑む。

 まだマスクを付けていないので、ストームの眩しい笑顔がはっきりと見えた。

「……い、いいから早くチェックしろ」

 ストームの言葉が照れくさくなり、思わず目を逸らしてそう言い返していた。

 本当にストームは考える事が単純だな、と思いつつ。

 何はともあれ、チェックはてきぱきと進んでいく。

 今までの苦戦がまるで嘘のように、離陸準備は整っていった。

『ブラスト2、発進準備完了! ツルギ、そっちはどうだ?』

「こっちも準備完了した!」

 おかげで、バズのその問いにも胸を張って答える事ができた。

『よし、それなら安泰だな。じゃあツルギ、頼むぜ』

「え? 頼むって、何を――?」

『何言ってるんだよ、リーダーはお前だろ? こういう時はリーダーらしく、一発号令をかけてくれないとな』

「え……?」

 そうか。

 そういえばツルギは、まだそういうリーダーらしい事をしていないような気がした。

『ツルギ君』

「ツルギ」

 見れば、ラームやストームも、ツルギを見てその言葉を待っている。

 そうやって視線を集められると、その通りにせずにはいられなくなってしまう。

「……わかったよ」

 ツルギは軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、号令をかけた。

 できるだけ強く、一同の気が引き締まるように。

「ブラストチーム、出撃!」

「ウィルコ!」

『了解!』

 一同の心地よい返事が無線で響く。

 かくしてブラストチームの2機は、滑走路に向けて移動を開始。

 そんな2機を、ゼノビアら整備士達が手を振って見送っていた。


 エリス基地の滑走路から、アフターバーナー全開で離陸していく2機のイーグル。

 離陸後すぐに機首を上げ、空高く上昇していくと、早速通信が入った。

『はい! こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです! レーダーで確認しましたよ! 方位083、高度2300へ――あ、ちょっと待ってください。方位262からスルーズ航空機が接近中です。高度を500上げてください』

『って、いきなり旅客機かよ!』

 ピース・アイからの通信に、バズは早速驚いていた。

『10時方向注意。旅客機を目視しました』

 ラームは早速、望遠鏡で旅客機を見つけていた。

 その方向を見ると、確かに旅客機が下方を飛んでいるのが見える。

 白地に紫のラインを入れたスルーズ航空のカラーを纏ったその小型旅客機は、B737だ。スルーズ軍の早期警戒管制機E-737ウェッジテイルのベースとなった機体である。

 右斜め前へ飛んでいた旅客機は、2機のイーグルの真下をゆっくりと通り過ぎていった。

『通り過ぎました。すぐ近くを旅客機が多く飛んでいると思うと、緊張しますね兄さん……』

『全くだ。少しでも高度近いと向こうの空中衝突防止装置が鳴るからなあ。怖い怖い』

 バズとラームがそんなやり取りをしている。

 この空域には無数の見えないハイウェイが立体的に張り巡らされており、その中を旅客機が行き来している。

 2機のイーグルは、まさにその中を縫うように飛んでいるのだ。

『なあツルギ。もしかしてあれが親父さんの乗ってる奴じゃないよな?』

「え? いや、父さんが乗るのはドリームライナーだって言ってた」

『ああ、あの新型か。すまねえ』

 バズの問いに答えていたツルギは、急にあのメールの一文を思い出し、改めてメールの文の意味を考えてしまっていた。

『乗っている旅客機がh』のhは、何を入力しようとしていた事を表しているのか。

 答えを求めようとすると、なぜか嫌な予感に駆られる。

『ブラストチームの皆さん、データリンクを2チャンネルに合わせてくださいね』

「あ、すみません!」

 ピース・アイの指示で、ツルギは我に返った。

 今はそんな事を考えている場合じゃない。フライトに集中しないと、と言い聞かせながら。

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