セクション03:アイデア出てこい
「じゃあ、あたしがツルギを背負って走るってのはどう?」
「ダメだ、それじゃ背負うのに時間がかかって意味がない」
待機室で待機している間、ツルギはストームとテーブルを挟み打ち合わせをしていた。
何か、緊急発進のタイムを縮められるいい方法がないかを。
「やっぱり、ツルギだけコックピットに入って待機するしかねえんじゃねえのか?」
「ダメだよ! それだとツルギを仲間外れにしてるみたいじゃない!」
「それ以前に、寒い夜にそんな事されたらたまらないでしょ、ツルギが」
だが、いいアイデアは未だ出ていない。
バズやゼノビアも意見を出してはいるが、こういう時間が迫っている時に限っていいアイデアは出てこない。
「はあ、アイデアは考えても出ないって言うのは、本当なんだね……」
「何言ってるんだラーム! ここで考えるのをやめるな!」
ラームに至っては、考えるのをあきらめかけているのかそうではないのかわからない発言をしている。
だが、ラームの言っている事が正しいとしても、いいアイデアが出るのを待つ余裕はない。
「うーん……」
どうする。どこか考え方を変えないと、いいアイデアが出ずに終わってしまう。
そう悩んでいると。
「ツルギ、携帯鳴ってるよ」
ストームにそう言われて、ツルギは携帯電話が鳴っている事に気付いた。
すぐに鞄から携帯電話を取り出し、画面を見る。
「ミミだ」
電話の主として表示されている名前は、ミミ。昨日予告した通り、電話をかけてくれたのだ。
ツルギはすぐに、電話に出た。
「はい、もしもしミミ」
『ツルギですか? よかった、繋がって。もし携帯持っていなかったらどうしようかと思っていました』
受話器越しのミミの声は、安心したような声だった。
「……まさかミミ、エリス分校の番号がわからなかったのか?」
『ええ、恥ずかしながら……ですから仕方なく知っている番号に――』
「届いた車いすに鞄が入っててよかったよ。で。どう、そっちの調子は?」
『ええ、何も問題は起きていませんよ。ただ基地の実戦部隊の人達が、私が来た事で大騒ぎして――嬉しくもあり大変でもあります』
扇子をパタパタと振る音が、受話器から聞こえてくる。
『で、そちらは大丈夫ですか? その、もうあの日が来てしまいましたが……』
「……うん、まだ微妙って所。今は実習の作戦会議中なんだ」
『作戦会議?』
「ほら、緊急発進全然早くできないから。ミミと一緒にやった時も、僕は足を引っ張っちゃったじゃないか。だからうまく工夫できないかなって考えてるんだけど、全然いいアイデアが浮かばなくて――」
事情を説明していると、自然と声が沈んでしまう。
すると。
『うーん、私はそこまで悲観的になる必要はないと思いますよ』
ミミは、あまり悩む様子なく普段の穏やかな声で答えた。
「え?」
『だって、イーグルにはエンジンが2つあるでしょう?』
「……どういう、事?」
『ミラージュは単発ですから、タイムを縮めたくてもツルギが乗り込み終わるまでエンジンをかけられませんでした。でもイーグルは双発ですから、片方のエンジンを先にかける事ができるじゃないですか』
「え――」
途端、ツルギの頭に電撃のような感覚が走った。
それこそ、まさにひらめきの衝撃だった。
「それだ!」
ツルギは思わず、嬉しさで声を上げてしまった。
『え!?』
「ありがとうミミ! これなら行けそうだ!」
『ど、どういたしまして……ツルギのお力になれたのなら、嬉しい限りです……』
声に圧倒されたのか、妙に戸惑った様子で礼を言うミミ。
「それじゃあ、すぐに作戦会議を続けるから、切るね」
『あ、はい。実習お気をつけて』
電話を切る。
まさか、電話でミミがヒントを教えてくれるとは思ってもいなかった。
やはりゼノビアの言う通りだった。こういう時だからこそ、いっぱい人の力を借りるのは間違いではなかったのだ。
「ツルギ、どうしたの?」
「今の相手、姫様みたいだったけど……」
ストームやラームはきょとんとした様子で目を丸くしている。
ツルギは、すぐに報告した。
「みんな、さっき電話でミミがいいヒントをくれたよ」
「え、姫さんがか!?」
バズが驚いて目を見開いた。
「ああ。これなら特別な練習はいらないし、絶対に行ける。みんな、聞いてくれ」
ツルギは、ミミの言葉を基に閃いた作戦を全員に伝えた。
すると。
「なるほど! そりゃグッドアイデアだぜ!」
「そういう考え方はなかった……」
バズとラームも。
「うん、それなら間違いなくやれるわ!」
ゼノビアも。
「やってみようよツルギ!」
そして、ストームも。
全員揃ってそのアイデアに賛同してくれた。
「それじゃ、決まりだね」
こうして、今回の緊急発進実習の方針は決まった。
やはり、最後まであきらめなくてよかった。
これなら、間違いなく父を見返せる。自らの体のハンデも怖くないほどに。
いつになく自信が湧いてきたツルギは、そう確信していた。




