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セクション02:エリスでの実習

「それでは、授業を始める。知っての通り、先の津波によりファインズ分校が完全に復旧するまでにはしばらく時間がかかる。しばらくは慣れないエリス分校の教室での講義となるが、学園としての設備がないロタ基地の奴らよりはマシだ。しっかりと聞くように」

 いつものように、フロスティの授業が始まる。

 普段とは少し違う、やや狭い教室での授業。戦闘機科があるファインズ分校より生徒数が少ないエリス分校の性質をそのまま表している教室と言えた。

「今回の内容も、緊急発進(スクランブル)と迎撃の実習だ。基本的な内容は前回と同じだ。この基地にある待機所で待機し、ベルをランダムに鳴らして緊急発進(スクランブル)を行う。離陸後はフリスト諸島上空へ移動し、そのまま仮想敵(アグレッサー)機を迎え撃つ迎撃実習に移行するのも同じだ。だが、前回は生徒が仮想敵(アグレッサー)役を務めたのに対し、今回は我々教官が行う。貴様らが手抜きをすればすぐに見破るからな、そのつもりで挑め」

 スクリーンに映し出されているのは、普段見慣れたファインズ周辺の地図ではなく、ファインズとは正反対にあるエリス市周辺の地図だった。

 スルーズ最大の都市であるエリス市は、平凡な都市でしかないファインズと比べると、まさに大都会という言葉がふさわしい都市だ。スルーズの物流の中心地でもあり、空軍の輸送機部隊が配置されているのもそれに由来する。

 地図にはいくつもの民間航空路がエリス市を中心として放射線状に延びており、エリス市が民間の航空輸送においてもどれだけ重要な都市であるかが見てとれる。

「そして今回は、ファインズとの環境の違いにも気を付けろ。知っての通り、エリス基地はスルーズのハブ空港であるエリス国際空港に隣接しているため、周辺空域は非常に混雑している。基本的に民間機が入らないフリスト諸島の空域とは正反対だ。離着陸の際はこちらに優先的に空路が開けられるが、旅客機とのニアミスも充分に考えられる。管制官の指示は一言たりとも聞き逃すな。決して旅客機の迷惑にならないように飛べ。もし万が一の事があれば、旅客機に乗る何百もの民間人を危険に晒す事になるからな。わかったな」

 フロスティは相変わらず、生徒達を見下した態度で説明を続けた。


 授業を終えたツルギ達は、休み時間を利用して待機所へと移動する。

 慣れないエリス基地の案内役は、先日知り合ったユーリアが買って出てくれた。

「しかし驚いたな。輸送機部隊の基地にも緊急発進(スクランブル)用の待機所があるなんてな。もしかして輸送機も緊急発進(スクランブル)するのか?」

「はい。スパルタンを保有する第12飛行隊は、辺境の島々への急患輸送も行っていますから」

「空飛ぶ救急車って訳か。それなら納得だ。いくつもある小さな島に急いで行くには飛行機が一番早いもんな」

 先頭を歩くバズが、ユーリアと話をしている。

 それを背後から見ているラームは、不愉快そうにバズの背中をにらんでいた。

 傍観者のツルギとしては、その空気が気まずい。おかげで考え事に集中できない。

「おっ、ありゃウェッジテイルじゃねえか。そうか、ここは早期警戒部隊もいるんだったな」

 バズが、ふと駐機場(エプロン)に駐機しているE-737ウェッジテイルの姿を見つけた。

 ツルギ達もいつも世話になっている、早期警戒管制機。近くで見ると、小型旅客機をベースにした機体や背部に背負った棒状のレーダーの形状などがよくわかる。

「って事は、ピース・アイちゃんにも会えるかもしれないって事か! これはわくわくしてくるなあ! 地震と津波に感謝しねえと!」

「ピース・アイちゃんって、誰です?」

「オペレーターの女の子だよ。『こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです!』っていつも言う」

 声を高くしてユーリアの前で演技してみせるバズ。お世辞にも本人の声と似ているとは言えなかったが。

「ユーリアちゃんは知らないか? 俺、本名知らないんだ」

「……ルナちゃんですね。でしたら、今ここにはいません」

「え? ここにいない?」

「早期警戒機の任務は長いですから。ですからルナちゃんは一度飛ぶと1日2日くらい戻ってこない日も多いんです」

「うーん、そりゃ残念だな。ならその機会を狙うしかないか。情報、ありがとな」

「いえ、どうしたしまして。でも狙うって――」

「そのお礼と言っちゃ何だが、放課後暇なら俺と一緒に――いてててて!」

 調子に乗ってナンパしようとしたバズの耳を、ラームが思いきり引っ張る。

「お話はそのくらいにして、そろそろ入りますよ兄さん!」

「おい! ちょっと! 待ってて! まだ話は――」

 ラームに無理やり引っ張られて待機室へと入っていくバズ。

 そんな光景を見たツルギは、思わず苦笑するしかなかった。一方のストームはおかしそうにくすくす笑っていたが。

「あの人、私と何がしたかったんだろう……?」

 ユーリアはそんなバズの姿を不思議そうに見ていた。

「まあ、悪い人じゃないんだけど、あの人の悪い癖って言うか――」

「遊びたいって言うんだったら、そうしてもいいかなって思ったんだけど……」

「ええ!?」

 ユーリアがバズのナンパに乗る気だった事に、ツルギは驚いてしまった。

 バズのナンパが成功したのを、今まで見た事がなかった故に。

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