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セクション01:最後の一日

・フライト3までのあらすじ

 ストームは風邪をひいていた。ツルギはストームを休ませようとするが、ツルギを助けたい彼女はなかなか休もうとしない。何とか休ませたものの、全ては自分の責任だと思い悩むツルギ。そんな彼を諭したのは、ゼノビアであった。

 そんな中、地震により津波警報が発令。津波が基地に迫る中、ツルギは回復したストームと共に、ウィ・ハブ・コントロール号をギリギリのタイミングで上空退避させる事に成功したのだった……

 夜が終わり、次第に明るくなっていく空。

 ツルギとストームはその中でも、ストームが覆い被さる形で互いの肌を重ね合わせていた。

 ストームが数日ぶりに風邪から回復した反動か、この夜は寝る間も惜しんで愛し合っていたのだ。

「とうとう、この日が来ちゃったか……」

「うん」

 しかし遂に、父が出張から帰ってくる日がやってきた。

 とうとうツルギは父を見返せるような成績を出せないまま、この日を迎えてしまった。

 状況は、まさに瀬戸際。

 このままでは、ツルギは学園を退学させられてしまう事を避けられない。

 こうしていられるのも、今日で最後になってしまうかもしれない。

「でも、あたしあきらめないよ。これで終わりになんかさせない。ツルギの夢も、今みたいに一緒にいられる時間も」

「そうだね。まだ時間はあるんだ。最後まで戦い抜かないと」

 ここであきらめてしまったら、本当におしまいになってしまう。

 こんな時だからこそ、力を振り絞らなければならない。自分の夢を、そしてストームとの絆を守るためにも。

「だからツルギ、あたしを信じて。あたしは夢のために飛び、夢のために戦い、夢のために勝つから」

「ああ。こんな時にストームが元気になってくれて、本当によかった。僕1人じゃ、何もできないから……」

 ストームを抱く腕に力を込める。二度と離れまいと胸に誓うために。

「僕も精一杯、努力する。だから、僕に力を貸してくれ。ストーム」

「当たり前でしょ」

 そして、2人は唇を重ね合った。

 そうすると、勇気が湧いてくる。まるで、ストームから分け与えてもらっているようだ。

 数分の激しい口付けの後、そっと唇を離す。

 未練がましい部分はあるが、体を動かせるだけのエネルギーは充分に溜まった。

「……さ、起きないと。ほら、ストームも服着て」

 体を起こしたツルギは、ストームに脱ぎ捨ててあったフライトスーツ一式を渡す。

 そして、ベッドから降りようとした矢先。

「あれ、車いす――あ、そうか」

 自分の車いすが、ファインズ分校に置きっぱなしにしてある事を思い出した。


     * * *


 昨日の津波によって、ファインズ分校は決して少なくないダメージを受けた。

 飛行場としての機能が復旧するには、しばらく時間がかかる。

 これにより、ファインズ分校は復旧するまでしばらく閉鎖される事になり、実習は急遽緊急退避した基地で行われる事になった。

 そのために必要な装備や人員を、輸送機部隊がファインズから運んできてくれた。

 その中には、ツルギにとって欠かせないものも含まれている。

「おはよう! 無事に逃げられてよかったわ、我が娘・息子達よ!」

「ゼノビアさんも無事で何よりです」

「ええ。2人を送り届けた後大急ぎで逃げたからね。はい、ツルギ。車いすよ」

 晴天に恵まれた、エリス基地の駐機場(エプロン)

 スパルタンから降りてきたゼノビアが、一緒に運んできたツルギの車いすを差し出した。

「ありがとう。これでやっと自力で動ける。ストーム、下ろしてくれ」

「え? いいの下ろしちゃって? ツルギはもっとこうしていたいんじゃないの?」

「うわ、ちょ、ちょっと――!?」

 だがツルギを抱きかかえているストームは、人目を気にせずにツルギを抱き寄せてきた。

 当然、心拍数が急激に上昇し始める。

「も、もういいんだ! 倒れていた間の成分は充分溜まったから! 早く車いすに座らせてくれっ! その方がストームも楽だろっ!」

「あたしは1日中こうしてても平気だけど?」

 ツルギはすぐにストームの体を遠ざけ、顔を熱くしたまま反論する。

 ストームはこの状況を楽しんでいるような顔だったが、少しは周りの空気も読んでくれと思わずにはいられない。

「相変わらずお熱い事で羨ましい限りだ」

 そんなストームとツルギの様子を、ニヤニヤと笑いながら見ているバズ。

「……」

「残念だったな、カローネ。向こうはもう予約済みって事だよ」

「もっといい相手を見つけなさい」

「そ、そんな事じゃないよー!」

 信じられないとばかりに目を見開いているカローネと、そんな末妹を慰める2人の姉。

「何なら、俺が三姉妹まとめて相手になっても――いててててっ!」

「欲張りすぎです、兄さんっ!」

 そして、ナンパをしようとしたバズは、ラームに耳を引っ張られていた。

 ちなみに、ストームら戦闘機科の生徒達は皆フライトスーツ姿である。制服はファインズに置いて来てしまったからだ。

「ふう……代替着陸(ダイバート)の度に車いすがないのはいろいろと問題だな……」

 久しぶりに車いすに座り、一安心するツルギ。

 必需品の1つであるマジックハンドもある事を確認していると、ふと車いすの背に自分の鞄がかかっていた事に気付いた。

「あれ、鞄もある……? そうか、昨日行こうとしてた時からそのままにしてた」

 開けて中を見てみると、筆記用具などの道具もちゃんと入っている。特に財布などの貴重品が入っているのは心強い。

 いつも前日の内に準備をしておくツルギであったが、それがこういう形で役に立つとは思いもしなかった。

「お、って事は財布もあるんだな? なら飲み物くらいおごってもらわねえとな」

「断る。想定外の出費を強いられたばかりなんだ」

 バズの言葉を丁重に断りながら、ツルギは携帯電話を取り出した。

 画面を見ると、メールを1件受信した知らせがあった。

「あ――」

 思わず手が止まる。

 こんな時にメールを差し出してくる人間は、1人しかいない。

 ツルギは恐る恐る、メールを開く。

 受信したのは数時間前。メールの差出人は、やはり父だった。

 だが、そこに書かれていた文を読んで、ツルギは目を見開いた。


 大変な事になった。乗っている旅客機がh


「……なんだこれ?」

 メールの文は、ツルギが予想していたものと違った。しかも、なぜか途中で途切れている。

 文が途切れたままメールを送るなんて、メールを使い慣れている父らしくない。しかしその割には訂正のメールは届いていない。

 そこまで急いでいたのだろうか。乗っている旅客機に何かあったのは間違いないが――

「どうしたのツルギ?」

 ストームが問いかけてきた。

「……いや、何でもない。そろそろ行こうか」

 ツルギはそうごまかすと、携帯電話を閉じてその場を後にした。

 父さんは一体何を伝えようとしたんだろうか、と妙に嫌な予感を感じつつ。

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