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インフライト3

 某国のとある空港。

 出張から間もなく帰る事になる初老のビジネスマンは、ターミナルからこれから乗る旅客機をカメラのファインダー越しに眺めていた。

「スルーズ航空最新の翼、ドリームライナーか……」

 その旅客機の名は、B787ドリームライナー。

 世界の最先端技術が結集して生み出された、最新鋭の旅客機だ。

 白地に紫のラインをあしらったその機体には、『THRUSIAN AIRLINES』の文字が書かれており、スルーズのフラッグキャリアたるスルーズ航空の機体である事を示している。

 シャッターを押す。

 これから乗る最新鋭旅客機の姿は、しっかりとカメラに収められた。

 この写真をブログに乗せれば、記事も盛り上がるだろう。

 だというのに、どうしても気分が盛り上がらない。

 これまでなら飛行機をカメラに収める度に心が躍ったものだが、ここ半年間は飛行機を見るとむしろ心が沈んでしまう。

 その理由は、ただ1つ。

「ガイ……」

 彼はふと、自らの息子の名をつぶやいていた。


 息子の名は、ガイ・ハヤカワ。

 父の趣味の影響で自然と飛行機が好きになった彼は、スルーズに移住した際、ファイターパイロットを志してスルーズ空軍航空学園に入学した。

 まさか息子がパイロットを目指すとは思いもしなかったものの、父として息子がファイターパイロットとして活躍する姿を期待し、静かに息子の学園生活を見守っていた。

 だが、それはある事件をきっかけに一転する。

 ガイは、実習中に事故を起こし、下半身不随となってしまったのだ。

 一生治る事のない傷を負った事に、ガイ自身も心に大きな傷を負ったが、それ以上に父の心の傷もまた大きかった。

 趣味であった飛行機のウォッチングをする度に事故を起こした息子の事が脳裏に浮かび、以前のように素直に楽しめなくなってしまった。

 パイロットは危険な仕事。

 これまで知識としてしか持っていなかったその事実が、息子を通じて身を持って思い知らされる日々。

 学園に戻れば、彼はまたその危険な世界に引き返す事になるかもしれない。

 その不安のあまり、復学する事になった息子にこう言うようになった。

 本当に行くのか、嫌なら断ってもいいんだぞ、と。

 その時のガイは、復学の理由を『命令』としか理由答えず、嫌々ながらに行こうとしているようにしか見えなかった。

 その事に不安を抱きつつも、操縦能力を失った息子が再び飛行機に乗る事はないだろうと思い、彼を見送った。

 だがガイは、再び戦闘機に乗っていた。

 しかも、送り出した時以上に強い輝きを目に宿して。

 学園で彼の身に何があったのかはわからない。だが、復学によって大きく成長したのは明らかだった。

 障害者でありながら戦闘機に乗り続ける事には、もちろん反対した。

 だが、息子は食い下がった。まだ僕は飛べると。それを自惚れ、自信過剰と言って否定されても変わらずに。

 それは、単なるわがままではない。ガイの目には、自分の将来を自分で決めたいという確かな意志があった。

 彼はもう、子供ではなくなっている。

 子供は、いずれ親元を離れ自らの翼で巣立っていくもの。自分で責任を取れるようになれば、もう立派な大人だから尊重してやれと、同僚は言っていた。

 息子をこれ以上、危険な目に遭わせたくない。だから学園を退学させると言った。

 だが、冷静になって考えてみると、そんな理由で息子の意志を封じてしまうのは、親としてどうなのかとも思ってしまい、自分の判断が正しかったのか迷ってしまう。

 飛行機に乗っている間、よく考えてみよう。

 そう決めて、目の前の旅客機に乗り込むべくターミナルを歩き出した。


 それからしばらくして、彼の乗るスルーズ航空008便は空港から飛び立った。

 008便が突如として音信不通となってしまったのは、その数時間後の事である――

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