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セクション13:離陸が先か津波が先か

『津波到達まで、あと5分! 急げ!』

 直後、残り時間が迫っている事がアナウンスされた。

「ゼノビアさん! これお願いします!」

 ツルギが告げると、ゼノビアはうなずいてトランシーバーを預かる。

「それじゃ、レディ、セット、ゴーッ!」

 ストームの合図で、一同は一斉に駆け出した。

 ストームがはしごを駆け上がり、ツルギがゼノビアに支えられつつこれに続く。

 ツルギを抱きかかえたストームは、急いでツルギを後席に座らせる。不思議と、ミスはなかった。

 そして、ストームが前席に飛び込むと、エンジンスターターを始動。

 次々とディスプレイが起動していく中、ツルギは急いでシートベルトを締め、機器のチェックを始めた。

 そして、遂にエンジンタービンが回り始め、空気取り入れ口が自動で傾く。

「すー、はー。うーん、久しぶりの酸素はおいしい!」

 大きく深呼吸をしたストームが、そんな感想を漏らす。

 そんな事をつぶやくあたり、ストームが普段の調子に戻っている事がわかる。

『右エンジン始動、確認! いいエンジン音ね!』

 正面に立つゼノビアの声が通信で入る。

 同様に左エンジンを始動させ、問題なく始動していく。

「キャノピー・クローズ、ナウ!」

 ストームがキャノピーを閉める。

 ここまでは、かなり順調に進んでいる。以前の緊急発進(スクランブル)実習の時のドタバタがまるで嘘のように。

 そして舵を動かすなど最終チェックを手早く行い、離陸準備が整った。

「ファインズ管制塔(タワー)、離陸許可――なんて言ってる場合じゃないか。それじゃ、行くよ!」

 ストームは移動の許可をしなかったが、ツルギは止める事はなかった。

 なぜなら、既に駐機場(エプロン)はもぬけの空であり、最後の戦闘機がまさに離陸しようとしていたからだ。

『我が娘・息子達よ! ウィ・ハブ・コントロール号をちゃんと空に飛ばすんだよ!』

「ママも急いで逃げてね!」

 ゼノビアからの通信が切れると、ゼノビアがハンドシグナルを送り始めた。

 ウィ・ハブ・コントロール号はその指示通りにゆっくりと動き出し始め、格納庫を出た。

 後は、滑走路へ向かうのみだ。

『離陸したのはこれで全部か?』

『待て――まだ1機いるぞ! 誰の機体だ?』

 管制官の声が無線で入ってくる。ウィ・ハブ・コントロール号の移動に気付いたようだ。

「ファインズ管制塔(タワー)、こちらブラスト1! パイロットが復帰したので直ちに離陸します!」

 ツルギはすぐに、管制塔に向けて連絡する。

『了解、ブラスト1! 君達が最後だ! 急いで離陸しろ!』

「ウィルコ!」

 ストームが返事をすると、ウィ・ハブ・コントロール号はゆっくりと誘導路に入っていった。

 向かうのはもちろん、最寄りの滑走路である31Lだ。

 だが、そんな時。

『津波の到達時刻だ!』

 管制官が声を上げた。

「え!?」

 もはや時間切れになってしまった事に、ツルギは驚いた。

 すぐに海に目を向ける。

 すると、こちらに迫ってくる大きな波が、こちらに迫ってきているのが見えた。

「まずい! もう津波が来る! 急いで!」

「もちろん!」

 そう言った時、ウィ・ハブ・コントロール号はようやく滑走路に入った所だった。

「風向き――なんて気にしてられないね! 行くよツルギ!」

 ストームがスロットルレバーを一気に押し込むと、アフターバーナーが点火し、ウィ・ハブ・コントロール号が加速を始めた。

 だが、そんな離陸滑走を見届ける余裕はツルギにない。ひたすら迫りくる津波に目を向ける。

『見ろ! もう津波が来てるぞ!』

『急げ! 飲み込まれるぞ!』

 管制官も、津波に気付いたようだ。

 遂に、津波が岸にたどり着いた。

 津波はツルギのイメージと違い、この世のものとは思えないように黒く染まっていた。

 黒い波が、一瞬で基地のフェンスを突き破る。

 まだ離陸できない。

「間に合え、間に合え――!」

 祈るようにツルギはつぶやく。

 そして、上陸した津波は隣の滑走路31Rを飲み込んでいく。

 まだ離陸できない。

『がんばれ! もうすぐだ!』

 管制官も固唾を呑んで祈っている。

 とうとう31Rを黒く侵食した津波は、次第に離陸滑走中のウィ・ハブ・コントロール号がいる31Lを飲み込まんと迫ってくる。

 戦闘機すら飲み込みかねない高さの波が目の前に迫り、ツルギの体が戦慄する。

 まだ離陸できない――!

「間に合ってくれーっ!」

 飲み込まれる。

 そう思ったツルギは、目を閉じて思わず声を上げていた。

「この――っ!」

 その時、ストームの声と共に、機首が急激に上がった。

 途端に感じる、激しいG。

 31Lが津波に飲み込まれた直後、ウィ・ハブ・コントロール号は急激な上昇角度で力強く空に舞い上がっていた。

『やったぞ! 離陸成功だ!』

 津波がすぐ側に来ているにも関わらず歓声を上げる管制官の声を聞いて、ツルギは自分達が助かった事に気付いた。

「間に合った――のか?」

 目を開けたツルギは、機体の状態を確かめる。

 どこを見ても、損傷らしい損傷はない。ウィ・ハブ・コントロール号は、津波にかす当たりもせずに離陸できたのだ。

「うん、間に合った!」

 正面を見ると、ストームが得意げにサムズアップしている事に気付いた。

 それでようやく助かった事を実感したツルギは、思わず表情を緩めてサムズアップで答えていた。

 直後、ウィ・ハブ・コントロール号は雲り空に突入し、一瞬視界が灰色に染まる。

 そして数秒後、赤く眩しい光が差し込み、ツルギは思わず目が眩んだ。

 夕焼け空だ。

 そこでは、既に離陸を終えた他の戦闘機達が、大編隊を組んで飛んでいた。

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