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セクション09:ゼノビアの叫び

「ツルギも習ったでしょ! 戦闘機――いや飛行機っていうものはね、いろんなパーツで成り立っているのよ! 翼に胴体、エンジンにレーダー……今の飛行機だったらコンピューターだってある! そのパーツはみんな違う工場や会社で作られて、みんな異なる技術が使われているのよ! そんな戦闘機を、ツルギ1人でメンテナンスできる? 長さ4メートル以上もあるエンジンを1人で取り出して整備できる? メインコンピューターのプログラムがおかしくなったら、1人で修正できる? できる訳ないでしょ! パーツごとの整備技術全部なんて凡人にはとても覚えきれないし、できたとしても1人で全部やってたらそれだけで日が暮れちゃうもの! だからママ達整備士がいるのよ! ママ達がツルギ達パイロットに代わって手間のかかる整備を全部引き受けてるから、パイロットは思いっきり操縦に専念できるの! わかる? ツルギはね、最初から1人だけで飛ぶ事なんてできないの!」

 ゼノビアは主張する。息が荒くなるほどまでに。

「ママ達整備士だけじゃない! 戦闘機のフライトに欠かせない存在は他にもいっぱいいるでしょ! ここにいるユーリアちゃんだってそう! ユーリアちゃんが乗る空中給油機がいるから、いちいち他の飛行場に着陸しなくても空中で燃料補給ができて、長く飛んでいられるでしょ! そうやって支えてくれるものがあるから、戦闘機は思いっきり戦えるでしょ! ツルギはね、いつもいろんな裏方に支えられて、飛んでいるのよ……!」

 さすがに激しく言いすぎたのか、ゼノビアは一度言葉を止めて肩で大きく息をする。彼女にここまで強く主張されたのは、初めてだ。

「あの、ゼノビアさん、大丈夫……?」

 ユーリアが心配するが、ゼノビアは大丈夫とばかりに手で制止し、続ける。

「……とにかく、ママが言いたいのはね、1人で何でもできる人になろうなんて、思っちゃダメって事! そんな人なんてね、この世のどこにもいないの! 人間1人の力なんて、たかが知れてるんだから!」

 その言葉は、ツルギの考えを根本から覆した。

 ゼノビアは再び言葉を一度止めると、展示されている歴代主力戦闘機に目を向けた。

「……ママだって、何でもできる訳じゃないのよ。ママはね、本当は戦闘機のパイロットになりたかったんだけど、こんなに背が低いから乗れる資格がなかったの。そりゃ悔しかったよ。その時ほど、生まれの不幸を呪った事はなかったわ。だからね、せめて戦闘機に触れるお仕事に就いてやるって思って整備士になる事に決めたの。整備士ってさ、パイロットに比べたら地味でしょ? だから最初は妥協でしかなかったの。でも、実習していく内に整備士がいて初めてパイロットは飛べるって事に気付いて、いつの間にか無我夢中で勉強してたわ。だからママはね、整備士になって後悔してない。人は助け合って初めて何かができるって事に気付けたから……ちょっと話がずれちゃったけど、大事なのはね、世の中は助け合いって事。だからツルギは1人で何もできない事を気にしなくていいの。それは当たり前の事なんだから」

「ゼノビアさん……」

 ゼノビアに諭されて、ツルギは自分の考えが間違っていた事に気付かされた。

 考えてみれば、こうやって学園にいるのはストームが背中を押してくれからだった。

 他にも、教官として厳しくも自分を導き、去って行ったファング。

 そして、エンジンが壊れた時、修理してまた飛べるようにしていたゼノビア。

 ゼノビアの言う通り、多くの人に支えられたからこそ、自分はここにいた。

 だがここで、1つの疑問が浮かぶ。

「じゃあ僕は、どうすればいいんですか……? ゼノビアさんの言う事はわかりました。でも、だからって人の足を引っ張りすぎるのは――」

「だからこそ、よ。そういう時だからこそ、いっぱい人の力を借りるの。そして考えるの。ツルギが持つ1人じゃ戦闘機に乗れないってハンデを、どう()()()()()()かって」

「工夫して補う……?」

 その言葉に、ツルギは聞き覚えがあった。

 どこで聞いたのだろう、思い出せない。

 ツルギは記憶の引き出しを探り、答えを探す。

 すると、答えはあっさりと出た。


 ――所詮は障害者だ。できない事は何をどうやってもできない。できるのは()()()()()()事だけだ。いい加減、それに気付け。


「あ――!」

 それは、他の誰でもなく父の言葉だった。

 ゼノビアと同じ事を、他の誰でもなく父が言っていた事に気付き、驚かされた。今までその前の言葉ばかり気にして、すっかり忘れていたのだ。

「ツルギはきっと、やり方を間違えてるだけなのよ。今のツルギは軍という機械にはまりにくいパーツなのかもしれないけど、うまく工夫してはめればちゃんと機能してくれるはずよ。そのためのヒントは、他の人の力を借りなきゃ見つからないわ。だからもう、1人で何でもできるようになろうなんて、思わない事。わかった?」

 ゼノビアは、ツルギの頭をそっと撫でながら言う。

「……はい。何だか、説教されて初めてゼノビアさんが大人らしく見えました」

「む?」

 ゼノビアが露骨に表情を変えたのを見て、ツルギは自分が失言をしてしまった事に気付いた。

「あ! いや、今のは――!」

「ふふ、いつものツルギに戻って来たじゃない。ママが直してあげた甲斐があったわ」

 だが、ゼノビアは怒る事なく、むしろ嬉しそうに微笑んだ。

「また困った事があったら、いつでも言いなさい。ママはいつでも、我が息子の力になってあげるからね!」

 そしてゼノビアは頭を撫でていた手を離すと、任せなさいとばかりに自らの小さな胸をとん、と叩いた。

 そう言われると、とても心強い。ツルギはすぐに、

「……はい!」

 と、はっきり返事をしていた。

「あの、お2人はどういう関係なんですか? どう見ても親子には見えないんですけど……」

「あ、いや、ママって言うのはニックネームみたいなもので――」

 そして、そこで問うてきたユーリアに、ツルギは慌てて事情を説明したのだった。


     * * *


 部屋に戻ったツルギは、ストームの様子を見てみた。

 相変わらず眠っている。

 だが、枕元に置いていた風邪薬がなくなっていた。

 自分がいない間に、風邪薬を飲んでいたらしい。

 それは、ストームが風邪を治そうとしている気持ちの表れだった。

 その事に気付くと、自分もちゃんと看病せずにはいられない。

 ツルギは乾いていたタオルを再び濡らし、ストームの額に置き直す。

「ちゃんと、治してくれよ……君は、僕の翼なんだからな……」

 面と向かっては言いにくい事を、言いながら。

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