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セクション05:ラームの痛み、ツルギの痛み

「それで、ストームはどうなの?」

「ああ、やっと寝てくれたよ。外に出ようとしたら『どうしても一緒に行く!』って聞かなくて――」

「それで食堂に来られなかったんだ……」

「ごめん、バズやラームには心配かけた」

 夜。

 部屋でツルギは、ストームを心配してやってきたラームとテーブルを挟んで話していた。

 ラームはチョコレートを食べながら話を聞いていたが、どうも落ち着かない様子だった。いや、落ち着かないからこそチョコレートを食べているようにも見える。

「ねえツルギ君。兄さんも聞いてたけど、ストームがどうして風邪引いても無理するのか、心当たりがあるの?」

 どきり、とその問いに動揺するツルギ。

「ストームの話聞いてると、何だかどうしてもやらなきゃいけない事があるから倒れてる場合じゃない、って感じがして……もしかして、何かあったの?」

 ラームは、ツルギ達を取り巻く状況を薄々察しているようだった。

 ツルギは少し迷い、目を泳がせる。

 今までは何となく話しにくく、当事者ではないバズとラームには伝えていなかったが、これ以上隠していても仕方がない。

「実は――」

 ツルギは重い口を開き、ラームに説明した。

 父に呼び出されて、退学させると告げられた事。

 そんな事はさせないと、ストームが父を見返す事を誓った事を。

「そんな、退学させられるなんて――」

「ごめん、バズやラームにももっと早く話すべきだった。そうしていれば、きっとこんな事には――ラーム?」

 謝ろうとしていた時、ツルギはラームの様子がおかしい事に気付いた。

 箱からチョコレートを取り出す手が止まっている。

 その手は、僅かだが震えていた。

「やっぱりこれも、私が不幸を呼んだせいなのかな……?」

 ラームは、悲しそうにつぶやいた。

「い、いや! ラームは別に、何も――」

「わかってる。でも、私の知らない所でも関わった人が不幸になっていたなんて考えたら、そうとしか思えなくなって……」

 ラームは、顔をうつむけて話し続ける。

 その目は、僅かに潤んでいるように見えた。

「ここ最近、私達ずっとトラブル続きだよね……私達だけじゃない。この学園自体も、新年度になってからアクシデントやインシデントが増えたって問題視されてるそうなの……間違いなく、私が来たせいなんだ……私が『悪魔の子』だからなんだ……」

 どんどん自分を責めていくラームが、見るに堪えられない。

「そ、それは考えすぎだよラーム!」

「そうかもしれない。兄さんにもそう言われた。でも、こうやって現実を見せつけられたら、お前が『悪魔の子』だからだって言われている感じがして、どうしても胸が苦しくなって……弱いよね私、10年以上もこうやって生きてきて受け入れなきゃってわかってるのに、まだ受け入れられてないなんて――」

 ラームは右目を覆う眼帯に手を伸ばす。その下に本来あるはずの右目は、抜け落ちている。

 それはまるで、傷口をえぐっているようにも見えた。

「い、いいからそれ以上考えちゃダメだ! 悪いのは、全部僕なんだ。僕が、ストームに迷惑をかけたからこうなっただけで、その――」

「……私達、人に迷惑をかけ続けなきゃ生きられないのかな?」

「え?」

 そんな時、ラームのその言葉が胸に突き刺さった。

「私もツルギ君も、普通ならあるべきものがないから、周りに迷惑をかけちゃう……しかも、絶対に治す事ができない……だから、一生その痛みに苦しみ続けるしかないのかな……? 一生痛み止めがないと生きていけないのかな……?」

 ラームは、そんな疑問を口にした。

 ツルギは、動く事のない自分の下半身を見下ろす。

 ラームは、これを決して癒えない傷跡に例えた。

 傷は一生痛み続ける。痛み止めを使えば一時的に痛みは治まるが、切れればまた痛み出す。

 それはまるで、障害を乗り越えて夢を取り戻すも、今また障害が原因で苦しんでいるツルギ自身の状況を表しているようだった。

「できるなら、()()()()になりたい……誰にも迷惑をかけなくて、友達もいっぱい作れて――」

「ラーム……」

「ツルギ君も、元の体に戻って歩けるようになりたいって、思ってるんでしょ……?」

「……できるものならね。でも、戻らないものは戻らないんだ。我慢するしか、ない」

 ラームの気持ちに同情したツルギは、そう答えずにはいられなかった。

「でも、我慢するって事は、受け入れられないからでしょ? もし我慢しきれなくなったら、どうなるのかな……?」

 その疑問が、さらにツルギの胸を貫く。

 受け入れられないのなら、傷付くしかない。そのまま傷付き続ければ、遅かれ早かれ壊れてしまう。


 ――まずは今の自分を受け入れろ。


 かつてファングに言われた言葉を思い出す。

 自分は、本当に今の自分を受け入れられているのだろうか。

 そう考えると、自身がなくなってくる。

 もしかしたら、受け入れられたつもりになっているだけなのではないのだろうかと思ってしまう。

「……暗い話にしちゃってごめん」

 すると、ラームは急に立ち上がった。

「兄さんにはこういう事言えないから、つい話しちゃったけど……聞いてくれてありがとう」

 ラームは話して少しは落ち着いたのか、少しだけ笑みを浮かべた。

「いや、どういたしまして」

「こんな事しか言えないけど――ストームの事、お願い。お休みなさい」

 そう言って、ラームはチョコレートの箱を手にし、部屋を出て行った。

 時計の秒針の音だけが、部屋に響き続ける。

 1人残ったツルギは、はあ、と大きく息を吐いた。

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