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セクション01:スクランブル!

 それに最初に気付いたのは、飛行中のE-737早期警戒管制機だった。

未確認機(アンノウン)を捕捉! 方位085、距離140、高度2200! 防空管制所へ通達します!」

 レーダーのコンソール画面の前に座るオペレーターの少女は、すぐに行動を開始した。

 キーボードを素早く叩きながら、ただちに無線で報告する。

『こちら防空管制所。ピース・アイ、未確認機(アンノウン)の捕捉を確認した。方位085、距離140、高度2200』

未確認機(アンノウン)はスルーズ領空へ接近中です! 戦闘機の緊急発進(スクランブル)を要請します!」

『了解した。戦闘機、緊急発進(スクランブル)!』

 かくして、防空管制所から戦闘機発進の命令が下った。


 暗闇の中、不吉なサイレンの音が突如として響き渡る。

『SCRAMBLE』と書かれた赤いランプが点灯し、黄色く光るパトライトが激しく回る。

 途端、待機室からツナギ姿の整備士達が雪崩の如く一斉に飛び出してきた。

 その中に混じって、まだ10代後半にしか見えない少女の姿があった。

 腰に届かんほどに伸びた金髪を揺らしながら、整備士達と共に暗闇の中へと飛び込む。

 直後、暗闇の中に光が差し込む。シャッターが開き始めたのだ。

 すると、少女を待っていた存在が光の下に姿を現していく。

 美術品のごとく洗練された、三角の翼。その下に備えられたミサイルが、この翼が戦闘用である事を物語っている。

 少女はその翼――ミラージュ2000-5ETのコックピットに素早く飛び込んだ。

「回して!」

 少女の一声で、機体とコードで繋がれている電源車が整備士の手で始動。

 その間に、少女は素早く紫色のヘルメットを被り、円錐型の酸素マスクを装着。

 その頃にはシャッターが開き終わり、陽の光と共に青い空とコンクリート舗装の滑走路が見えてきた。

 整備員が、コックピットにかけられていたはしごを素早く外す。

 少女は手を伸ばしてキャノピーを閉め、立てた人差し指をくるくると回し合図を送ってから、エンジンに火を入れた。

 一斉に起動する計器盤のカラーディスプレイと、一斉に鳴り始める警告音声が、電源車から電力がしっかりと供給されている事を証明している。

 M53-P2エンジンの甲高いタービン音が響き始めると、尾部のエンジンノズルから陽炎が立ち上がり出した。

 エンジン始動完了。電源車へと繋がっているコードが外された。

 そしてすぐに、整備士と共に機体の最終チェック。準備体操をするように、主翼と垂直尾翼の舵をぱたぱたと動かすミラージュ。

 エンジンが始動したからと言って、自動車のようにすぐ発進という訳にはいかない。本来は『プリタキシーチェック』と呼ばれる10分にも渡るチェックを行わなければならないが、今回は予めそれを全て終わらせた状態にしているので、最小限のチェックで済ませる事ができる。

 整備士達が機体各部の安全ピンを抜き、兵装担当員もミサイルの安全ピンを抜いた。

 最終チェック、完了。全ての準備が整った。

「ファインズ管制塔(タワー)、こちらアイス1。緊急発進(スクランブル)のため移動を許可願います」

 少女は落ち着いた声で、管制塔へ移動の許可を求める。

『アイス1、移動を許可する』

「移動許可、了解」

 移動許可が下りれば、ようやく発進だ。

 前方に立つ整備士のハンドシグナルを合図に、ミラージュはゆっくりと動き出した。

 外へ出る。その瞬間、敬礼で見送る整備士に、少女も敬礼で答えた。

 翼を広げた不死鳥の紋章が目立つ紫色の旗が描かれた尾翼が、陽の光に照らされ輝いていた。


 少女の名は、フローラ・メイ・スルーズ。

 ヨーロッパは大西洋上に浮かぶ島国、スルーズ王国の麗しき王女。

 そして、スルーズ空軍の若きファイターパイロット候補生の1人でもある。

 そんな彼女が駆るミラージュは、僚機であるもう1機のミラージュを引き連れ、最寄りの誘導路から滑走路へと入る。

『アイス1、滑走路31Lからの離陸を許可する。姫様、幸運を』

「離陸許可、了解。そして、ありがとうございます」

 本来は向かい風で離陸するのが基本だが、緊急事態の今は風向きに構っていられない。

 滑走路に入ってすぐに、スロットルレバーを一気に押し込んだ。

 ノズルから赤いアフターバーナーの炎が吹き出し、爆音で大気が震え出す。

 止まる事なく加速し始めたミラージュは、そのまま鳥のようにふわりと空へ舞いがった。

 車輪(ギア)を格納。同時に、一気に機首を上げて勢いよく上昇した。

 地上を見下ろすと、離陸した基地がみるみる小さくなっていくのが見えた。

 基地は、それ全体が海に浮かぶ1つの島になっていて、その中にはなぜか軍事基地らしからぬ学校の校舎が建っていた。

 だが、眺めている暇はない。予め指示された周波数に無線を入れる。

「アイス1、離陸完了しました」

『はい! こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです!』

 どこか陽気そうなオペレーターの声が、無線で入った。

『姫様、感度良好です! レーダーでも確認しましたよ! 方位085、高度2200へ向かってください!』

「アイス1、了解。行きますよフィンガー! スルーズ家に栄光あらん事を!」

 僚機と合流したミラージュは、すぐに指示された方向へと旋回し、音速の速さで未確認機(アンノウン)へと向かっていった――

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