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セクション01:傷心のツルギ

・フライト2までのあらすじ

 父に街へと呼び出されたツルギは、危険だからという理由で学園を退学させると告げられる。ストームやミミの提案でそんな父を見返してやろうとするも、緊急発進スクランブルの訓練はなかなかうまく行かない。

 それどころか、ストームは訓練中に不可解な行動を繰り返し、遂には暴走してしまう。その原因は……

「で、ストームはどうだったの?」

 病室で、ラームが心配そうに聞いてきた。

 ツルギが黙っていると、隣にいたゼノビアが代わりに説明した。

「大丈夫、ただの風邪よ。でもかなり悪化してたから、当分は絶対安静だって」

「そりゃ、熱で頭がおかしくなるくらいまで行ったんだからな……」

 ツルギはその話を聞きつつ、ベッドの中にいるストームを見ていた。

 ベッドの中でおとなしく眠っている彼女の顔は、どこか苦しそうだった。

「もしかして、今日飛んでた時もう――!?」

「ああ。ツルギの話だと朝から兆しがあったそうだぜ。でもなんでか知らねえが、体調悪いって事を隠してたんだとさ」

 バズがラームに説明している。

 ストームは、朝の時点で既に風邪を発症していた。恐らく、昨日ファインズ市に行った事が原因だろう。

 だが、ツルギにはその事を隠してずっと空元気を出し振る舞っていた。もちろん、フライト中も。

 結果、それが祟って今回の事件を起こし、こうやって病室送りとなってしまった。

「なあツルギ、そろそろ説明してくれよ。ストームが無理した理由に心当たりがあるんだろ?」

「……」

 バズに問いかけられたが、ツルギは答えない。

 正確には、答える気になれなかった。

「はあ、ツルギもずっとああなんだよ。余程恋人が倒れたのがショックみたいでさ。別にこのまま死んじまうって訳でもないのに」

「違うのよ、バズ。きっとツルギは、ストームの状態に気付かなくて今日のトラブルを起こした事に責任を感じてるのよ。そうよね、我が息子よ?」

「……」

 ゼノビアの言っている事は、間違いではない。自分がもっと早くストームの体調に気付いていれば、あの事件は起きなかったのだ。

 だがツルギは、その責任を感じる以上に責めていた。

 風邪である事を隠し、ずっと無理をしていたストームにも。

 そんなストームに無理をさせてしまった自分自身にも。

 これを、出張中の父さんが知ったら何と言うだろうか。

 お前は周りに負担をかけている邪魔者でしかない、と間違いなく言うだろう――


     * * *


 じりりりりりり、とベルが鳴り響き、ツルギは我に返った。

「ツルギ!」

 すぐさま、駆け寄って車いすのハンドルを握ったのはストーム――

「……え?」

「どうしたのです? 早く行きますよ!」

 に一瞬見えたが、違った。

 そこにいたのは、ミミ。彼女は大急ぎで車いすを押して待機室の外へ飛び出した。

 先に出たフィンガーの後を追う形で、アラートハンガーにあるミラージュの元へと向かう。

 しかしそのミラージュは、ミミが普段乗っている委員長専用機ではない。コックピットが2つ備え付けられており、塗装も通常のものだ。

 この複座型は、単座型のET型に対し、DT型と呼ばれる訓練用のものだ。訓練用とは言っても機関砲がない点を除けば武装もでき、単座型と同様に扱う事ができる。

 そんなミラージュの前に車いすを止めたミミは、すぐに整備士達と共にツルギを後席に乗せにかかる。

「回して!」

 ミミの合図で、電源車が始動する。

 ミラージュはイーグルと違い、電源車の支援がなければエンジンを始動できない。電源車が始動さえすればいつでもエンジンを始動できるのだが、整備士達はツルギの扱いに慣れておらず、コックピットの前まで持っていくだけでも時間がかかっている。

 フィンガー機が、先にエンジンを始動させ始めた。

 ツルギはようやく後席に入り、響き始めたエンジン音に耐えかねて慣れない灰色のLA100ヘルメットを被った。

 ミラージュのコックピットは、イーグルのそれよりも遥かに狭い。イーグルに慣れていたツルギには、かなり窮屈に感じた。

 計器盤を見ると、普段見慣れたイーグルのものと全く異なる計器盤がそこにある。

 基本、航空機は機種毎に全く異なる計器盤を備えているため、自動車のように共通の資格で操縦する事はできない。

 イーグルの資格は持っていてもミラージュの資格を持っていないツルギにとって、この見知らぬ計器盤には戸惑うしかない。

「キャノピーを閉めてください、ツルギ!」

「あ、ああ!」

 ミミの呼びかけを聞いて、ツルギは慌ててキャノピーを閉める。

 イーグルと違い手を伸ばして閉める手動式なので、この操作にも少し戸惑った。

 ミミがハンドシグナルを送り、ようやくエンジン始動。

 イーグルのものと形も表示も異なる液晶ディスプレイが、次々と起動した。

「やはり思いの外手こずってしまいましたね……」

「ごめん、ミミ。こんな僕がいるせいで――」

「いいえ。ツルギには何の罪もありません。その事はお気になさらず」

 機体のチェックをしながら、ミミはツルギとそんなにやり取りをした。

 ミミが悪くないと言われても、ツルギには自分の存在がこのアイスチームの負担になっている事は、火を見るよりも明らかだった。


 ――1人で戦闘機にも乗れないような人間が、実戦で使えるはずがない。

 ――所詮は障害者だ。できない事は何をどうやってもできない。


 フロスティと父の言葉が、脳裏でよみがえる。

 自分の存在が、チームにとって大きな足枷となっている。だからこそ、ストームも無理をして倒れてしまった。

 そんな存在が、これ以上いて歓迎されるだろうか。

 ツルギは、そんな事を考えずにはいられなかった。

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