セクション14:いつもと違う訳
「ストームちゃんが教官に逆ギレ、ね……確かにいつものストームちゃんじゃないわね」
格納庫。
ツルギの話を聞いたゼノビアは、あごに手を当ててつぶやいた。
「あの様子を見てもわかるもの。何だかいつもより元気がなさそうだし」
ゼノビアは、整備中のウィ・ハブ・コントロール号の元に目を向ける。
そこには、箱を置いた荷台を使ってツルギを素早く運ぶ練習を行うストームの姿があった。
コックピットにかかるはしごの前で止まったストームは、苦しそうに息切れしている。普段のストームなら、かなり激しい運動を続けても息切れ1つしなかったのに。
「一体、ストームに何があったんでしょうか……? 僕、心当たりが全然ないんですけど……」
「いつもイチャついてばかりだから、デキたんじゃねえのか?」
すると、急に背後から顔を覗かせたバズが、面白そうにそんな事を言ってきた。
「な――変な事言うなバズッ!」
「ははっ、ジョークだよジョーク!」
「ニュアンス的にはバズのジョークも合ってるかもね。もしかしたら、生理が来て情緒不安定になってるんじゃないかしら」
ゼノビアの言葉に、バズは少し驚く。
「生理が来て情緒不安定って、どういう事ですか?」
「生理が来るとね、女の子は精神が乱れやすくなるのよ。自分でもコントロールできないくらい。もちろん個人差はあるけれど、些細な事で怒ったり泣いたりしやすくなるの。それに疲れやすくなって、体力的にも余裕がなくなってくる。今の話聞いてると、その可能性が高いと思うわ」
「生理、か……」
「ま、そうだったら男に取っちゃ難しい問題だが、パートナーとしてちゃんと支えてやれよ、ツルギ」
ぽん、とやや強くバズがツルギの肩を叩いた。
「生理……? そんな事全然ないよ……?」
すると、急にストームが顔を出した。
その顔色を見て、ツルギは唖然とした。
「ちょ、ちょっとストームちゃん!?」
ゼノビアやバズも、目を見開く。
「ど、どうしたんだその顔!?」
「平気平気……だって、ちゃんと、ツルギを乗せられるようにして、あいつを見返してやらなきゃね……」
目に見えて青白くだるそうな表情をしたストームは、声にも力がなく、姿勢もふらふらと安定していない。
今までストームが見せた事のない表情だ。間違いなく無理をしている。いい加減に止めさせないと彼女自身が危ないのは明白だった。
「いや、そんな事はいいから休んだ方がいいって!」
「それに、ツルギのパパも見返してやらなきゃならないし……ツルギを退学させる訳には、いかない、から……」
「だからって、無理な練習は体に毒だぞ!」
「大丈夫……ツルギはあたしが……守る、から――」
そして。
ストームは、その目を重く閉じたかと思うと、力なくツルギの目の前で崩れ落ちた。
「ス、ストーム!?」
「ストームちゃん!?」
思いもしない事態に、動揺するツルギ。
動けないツルギの代わりに、ゼノビアが倒れたストームの元へ駆け寄る。
「どうしたの! しっかりして我が娘よ!」
ゼノビアはストームの体を仰向けにし、おもむろに額に手を当てた。
「……ひどい熱! まさか、風邪でも引いてたの!?」
風邪。
その言葉に、ツルギはさらに驚いた。
朝から妙に元気がない節があったストーム。
ストームは、その時から既に風邪を引いていた事になる。
にも関わらず、何事もなかったかのように振る舞い、飛んでいた。
それから導かれる結論は、ただ1つ――
「とにかく、すぐ病室に連れて行かないと! バズ、手伝って!」
バズと共に、ストームを持ち上げるゼノビア。
運ばれていくストームを、ツルギはただ見送る事しかできなかった。
「まさか、ずっと風邪だったのを隠して――!?」
その事実に気付いてしまったから。
フライト2:終




