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セクション13:副会長登場

 突如、空気を切り裂く音と共に、両機の間に()()()弾丸が走った。

「うわっ!?」

 驚いた2機は、互いに攻撃する事なくすれ違った。

「な、何今の!?」

『まさか、実弾……!?』

 それは、明らかに実弾だった。

 しかし、ここに実弾を搭載している機体など存在しない。

 では、一体誰が――?

 そう思っていると、突如としてロックオン警報が鳴り響いた。

『動くな、そこのイーグル! こちらはその気になればいつでも君を実弾撃てる!』

 落ち着いた少女の声が無線で響いた。ツルギにとって、聞き覚えのある声だ。

『あ! 兄さんあれを!』

 ラームが声を上げた。

 第三者がいる事に気付いて振り返ると、いつの間にか1機のミラージュの姿を見つけた。

 離脱したフィンガーの機体ではない。パイロットのヘルメットの色が違う。フィンガーのものはオレンジ色だが、このパイロットは紺色だ。

「え? え? え?」

 ストームも振り向いて、その機影に気付いた。

 すると、すぐ真上を別の機影が覆った。

『副会長の射撃は正確だからね、逃げようったってそうはいかないっすよ?』

 それは、もう1機のミラージュだった。

 側面にゆっくりと滑るように移動すると、パイロットの姿が見えた。緑色のヘルメットから、やはりフィンガーではない事がわかる。

「な、何なのあんた達! いきなり出てきて何する気――うわっ!」

 反論しようとしたストームであったが、直後にキャノピーの真上を通り抜けた弾丸に驚いてしまう。

 弾丸は、ウィ・ハブ・コントロール号の2枚の垂直尾翼の間を通り抜けていた。

『聞こえていなかったなら繰り返す。こちらはその気になればいつでも君を()()()撃てる!』

 落ち着きながらも威厳に満ちた声。

 それには、さすがのストームも黙り込むしかなかった。

『その声は、ミステール?』

『やれやれ、実弾射撃実習から戻ってみれば、何の騒ぎだい? 後で説明してもらうよ、姫』

 ミミの問いに、後方のミラージュのパイロット――ミステールは声を緩めて答えた。

『うわ、生徒会副会長のお出ましだ……!』

『はあ、助かりました……』

 驚きの声を漏らすバズと、安心した様子でつぶやくピース・アイ。

『チーター、このイーグルを基地へ誘導する。強制着陸の実習通りにやって』

『ラジャー』

 ウィ・ハブ・コントロール号は、2機のミラージュに側面から挟まれてしまう。

 身動きが取れなくなったウィ・ハブ・コントロール号は、しぶしぶ帰路に着くしかなかった。


     * * *


 帰還したツルギ達を待っていたのは、フロスティからの厳しい注意だった。

 教室で並んで席に座らされた3人に、容赦なくフロスティの罵言が浴びせられる。

「全く、貴様らは何をやっているのだ! 時間を急ぐあまり許可なく離陸を強行したかと思えば、急に気を失って実習中止になっても続行を強行するなどと――おい、聞いているのかストームッ!」

「……あ、聞いてる聞いてる」

 どこかぼんやりとしていた様子のストームに、不愉快そうな表情を見せるフロスティ。

「そしてミミ! 止めようとしたとはいえ、暴走したストームの行動に悪乗りして事態を悪化させるなど、生徒会会長として、いや、一国の王女としてあるまじき行為だ!」

 ミミは顔をうつむけたまま、黙り込んでいる。

「何より全ての原因は、ストームの行動を止められなかったツルギ、貴様にある! 貴様が厳重に注意しストームの行動を抑制していれば、この事件は防げた!」

「も、申し訳ありません……」

 そしてツルギも、ただ頭を下げる事しかできなかった。

「ツルギは何も悪くない! なんでツルギが責められなきゃならないの!」

 だが、急にストームが反論してきた。

「黙れストーム! これは貴様らの連帯責任だ!」

「ツルギが何か悪い事したって言うの? 何もしてないじゃない!」

「おいストーム、落ち着け!」

 立ち上がって続けるストームを、ツルギは慌てて制止する。

 止めるのに力がいると思ったが、意外とあっさりストームは引っ張られて座ってしまった。

「ったく、操縦資格のない人間をWSOとして乗せるなどと……これだからこの空軍はレベルが低いのだ……! アメリカのようにWSOにも操縦資格を持った人間を乗せれば、こんな事にはならなかっただろうに……!」

 フロスティは吐き捨てる。

 それは、遠回しにツルギにWSOの資格がないと考えている事を示していた。

「で、貴様もなぜ実弾で威嚇射撃などという手段で止めようとした、ミステール?」

「その点についてはお詫びします、教官」

 フロスティの隣に立っていたミステールは、冷静に謝罪する。

 ここでも、ミステールは落ち着いた雰囲気を保っていた。

「ですが、危険な行為に走った生徒を戒めるのは、生徒会副会長として当然の務め。あの行動が、2人を止める最も有効な手段だったと思っています」

「……まあ、貴様の事は大目に見てやるとしよう」

 フロスティは、再び3人に顔を戻す。

「だが、パイロットとしてレベルが低すぎる行動をした貴様らにくれてやる点数などない!」

「ええー? 1点くらいくれてもいいじゃない!」

「こ、こらストーム!」

 今の立場にあるまじき発言をしたストームを、ツルギは慌てて注意する。

「文句ならちゃんと規定通りに飛べるようになってから言え! いいか、今度またこのような事をしたら、問答無用で落第(エリミネート)させてやる!」

「いいよ、やってやろうじゃない! すぐにあんたを見返して、ぎゃふんと言わせてやるんだから!」

「ストーム! 少しは立場を弁えなさいっ!」

 再び席を立ち上がって反論するストームを、ミミが押し留める。

 まるで売られた喧嘩を買うような物言い。

 ストームはやはり、どこか考え方がおかしくなっているようにしか見えなかった。

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