セクション12:ストーム暴走!?
『早く機首を上げてストーム!』
ラームが呼びかけても状況は変わらず、どんどんその可能性が濃厚になっていく。
「返事をしてくれストーム――くそおっ! どうして、どうしてこんな――!」
力任せに計器盤を叩く。
こんな時にも、自分はストームを助ける事ができない。
その無力さに、ツルギは下半身不随となった自分の体を呪うしかなかった。
ふと思い出すのは、先日の父の言葉。
――それがお前の限界だ。これ以上続けたら、間違いなく死ぬぞ。
ああ、父さんの言う通りだった。
僕はこのまま、何もできずに――
「え? うわっ落ちてる!?」
そんな時、そんな声がしたと思うと、急に体をGが襲った。
機体の横転が止まり、引き起こされたのだ。
おかげで、ウィ・ハブ・コントロール号は雲の海に少し腹をかすっただけで済み、再び上昇を始めた。
それは、ストームが息を吹き返した何よりの証拠だった。
「ストーム……!」
「ツルギ、あたしどうしちゃってたの? なんでいつの間に落ちてたの?」
すぐさま振り返り問うストーム。
どうやら気を失った事に自覚はないらしい。
『ツルギ! 大丈夫ですか!』
そんな時、ミミの声がした。
見ると、ミミ機がこちらに近づいてくるのが見える。心配して後を追ってきたようだ。
大丈夫だ、と答えようとした矢先。
「……話は後だね。今は姫様を落とさないと!」
ストームはそんな事を言って、唐突に急旋回を行った。
急なGのせいで、ミミに対し答える事ができない。
ウィ・ハブ・コントロール号の機首が、ミミ機に向けられる。
「ミサイル発射! ばーん!」
そしてあろう事か、ミサイルをロックオンして攻撃した。
『っ!?』
予想外の攻撃にミミは驚いたものの、反射的に急旋回しフレアを散布。
『な、何をするのです!? 私はツルギを心配して来たので――』
「まだまだっ!」
ミミの呼びかけを無視し、ストームはさらにミミ機の背後を取ろうとする。
「お、おいストーム!? 何やってる!?」
「決まってるじゃない! 決着をつけるの!」
驚くツルギをよそに、さも当たり前のように言い放つストーム。
「待てストーム! 実習はもう――うわっ!」
止めようとするツルギだが、ウィ・ハブ・コントロール号が急加速したため口を塞がれてしまう。
『ストーム、何してるの!? やめて!』
『ブラスト1、もう実習は中止されています! 攻撃をただちに中止してください!』
「そんな話聞いてないよっ!」
ツルギの言葉をラームやピース・アイが代弁するものの、ストームは全く聞かない。
ストームは完全に、実習はまだ続いていると思い込んでいる。それも、ピース・アイの呼びかけも無視するほどに。
いつものストームなら、いくらなんでもこんな事はしない。明らかに様子がおかしい。
まるで、病で思考能力が麻痺しているかのような――
『くっ、あんなアクロバットやって頭のネジが緩んだのですかね……ならこちらも応戦するまで!』
すると、今まで追われてばかりいたミミ機が一気に急上昇。
そのままバレル・ロールを行い、ウィ・ハブ・コントロール号の背後に回った。
ロックオン警報が鳴る。
「ま、待て! ミミまで悪乗りしなくていい!」
『すみません、ツルギ。ですがこういう輩はこうでもしないと目覚めません! 機関砲発射!』
ミミ機が見えない弾丸を放つが、ウィ・ハブ・コントロール号はくるりと一回転した後旋回し回避。加速して振り切ろうとする。
『姫様もやめてください! 事態がこじれるだけです!』
『止めるためにやっているのです!』
ピース・アイも止めようとするが、ミミも話を聞き入れない。
かくして、あるはずのない第2ラウンドが始まってしまった。
2機は互いに背後を取り合おうと、巴戦に突入する。
ツルギはかかるGをこらえるしかなく、ストームを止めようと声を上げる事もできない。
『おい、誰かあの2人を止めろ! このままだとらち開かねえぞ!』
『ならば私が!』
そんな時、ウィ・ハブ・コントロール号の正面にフィンガー機が現れた。
『この卑怯者っ! 姫様に不意打ちをかけるなんて、このフィンガーが許さないっ!』
「邪魔しないでっ! ミサイル発射!」
だが、そんなフィンガー機にも容赦なくミサイルを放つストーム。
『えっ、うわあっ!』
フィンガー機は慌てて回避しようとしたが、僅かに反応が遅かった。
見えないミサイルはフィンガーに直撃し、フィンガー機は力なく雲の下へと消えていった。
『ああ……』
『こうなったらもう止められねえわ……』
ラームとバズがあきらめの言葉をつぶやく。
そうしている間に、ウィ・ハブ・コントロール号とミミ機は、正面から向かい合うヘッドオンの体勢になった。
「ストーム! いい加減にしろ!」
「はあ、はあ――もう少し待ってて! これで片を付けるから!」
『それはこちらの台詞です!』
空中戦はさらにヒートアップし、2人は完全に我を忘れている。
2機の距離は、瞬く間に縮まっていく。相対速度は音速を超えているだろう。
『ブラスト1にアイス1! いい加減に戦闘を――ん?』
その時、ピース・アイが何かに気付いたようだが、ツルギには気にかける余裕がなかった。
『このおおおおっ!』
「うりゃああああっ!」
互いに声を上げ、照準器に互いの姿を重ねる。
そして、お互いにトリガーを引こうとした、その瞬間――




