セクション10:迎撃するのは……
『おーい、俺達も忘れるなー!』
そこに、ようやくバズ・ラーム機が追いついてくる。
『あれ? ブラスト2少し遅かったですね? 機体のトラブルでもありました?』
そこで、ピース・アイがようやくブラストチームの状況に気付いたようだった。
『いや、こちらは問題ありません。ただ――』
『ただ?』
『ブラスト1がちと乱暴に離陸しただけだ』
『乱暴に? どういう事です?』
バズもラームもさすがに言いにくいらしくぼかして答えたために、ピース・アイは理由を理解していないようだ。
まあそれが、ツルギにとって幸運な事ではあったが。
「敵機をレーダーで捉えた!」
そんな中、遂にレーダーに機影が映った。
数は2機。高速で正面から向かってきている。
そしてレーダーは、レーダー波反射特性からその機種を弾き出した。
その結果は――
「これって、ミラージュ!?」
ミラージュ2000。
ミラージュという事は、相手は教官ではなくBクラスの生徒という事になる。
実習で相手する仮想敵機は、必ずしも教官が乗るヘルヴォル社の機体とは限らない。生徒同士で腕を競い合わせる意味で、生徒が仮想敵役を務める事もあるのだ。
『ブラストチームへ。こちらアイス1、これより手合わせ願います』
すると、急に無線で聞き慣れた声が聞こえてきた。
途端、ツルギは驚いた。
『お、おい! まさか相手って――!?』
バズも驚きを隠せない様子だ。
『間もなく接敵します! 気を付けて!』
ピース・アイが警戒を促す。
直後、正面に2機のミラージュが飛行機雲を引きながら現れた。
「ミミ――ミミなのか!?」
『いかにも。今回は私が相手です!』
直後、2機のミラージュは、ウィ・ハブ・コントロール号の真横を高速で通り過ぎた。
先頭の1機の垂直尾翼には、スルーズ家の王旗。
それは紛れもなく、ミミこと王女フローラ・メイ・スルーズの乗機である事を示していた。
『あの教官……! 姫様をよりによって仮想敵に回すなど――!』
『黙りなさいフィンガー。ツルギ、お父様を見返すためにも、いい勝負にしましょう!』
ミラージュの編隊が、驚きで動かないイーグルの編隊に向けて旋回を始める。
『すぐ応戦を! ブレイク!』
驚いている場合ではない。
ラームの呼びかけで、2機のイーグルはすぐに編隊を解いて散開する。
見ると、アイスチーム駆るミラージュの編隊も後を追って二手に分かれたのが見えた。
ウィ・ハブ・コントロール号を追うのがミミ機、バズ・ラーム機を追うのがフィンガー機だ。
「そっか、姫様を撃墜すれば、あたし達も汚名返上って事だね! なら、僚機もまとめて全部撃墜してやるまでっ!」
マスターアームスイッチを入れたストームは、すぐさまヘルメットのバイザーを下げ、機体を急旋回させた。
襲いくる高Gに、ツルギは息んで耐える。
「ミサイル発射! ばーん!」
正面に捉えずしてロックオンしたストームは、すぐさま見えないミサイルを発射。
ミミのミラージュはすぐさま反転し、フレアを散布して回避した。
『そういえば、あなたと空で戦うのは初めてでしたね。その実力、見せてもらいますよストーム!』
ミミ機は軽やかな機動で、ウィ・ハブ・コントロール号の背後を取らせまいとする。舞うような動きは、まさに『ミラージュ姫』の二つ名に恥じぬものだ。
対するストームも、得意のアクロバットを活かした機動で追いかける。
『畏れ多いぜ、かの「ミラージュ姫」が直々に相手してくれるとはな!』
『無礼者っ! あんたみたいな色黒筋肉ダルマの相手は、このフィンガーで充分よっ!』
『おう、そりゃ残念だ。だがかわいい子ちゃん相手なら誰だって歓迎だぜ!』
『に、兄さんっ!』
そして、早くもフィンガー機との巴戦に突入するバズ・ラーム機。
戦いは、ウィ・ハブ・コントロール号とミミ機、バズ・ラーム機とフィンガー機の2つに分かれて行われる形になった。
そんなバズ・ラーム機の状況を確認してから、ツルギは顔を戻しストームに呼びかけた。
「ストーム、相手は格上だから油断するな!」
「格上だからって関係ないっ!」
機体が左に傾いた。急旋回だ。
上昇旋回で振り切ろうとするミミ機に追いすがるウィ・ハブ・コントロール号。
ミミ機は振り切ろうと逆方向に切り返すが、ウィ・ハブ・コントロール号を振り切るには至らない。
互いの距離が、どんどん詰まっていく。
「ガン1発で決めてやるんだから!」
ストームが照準をガンモードに切り替えた。
照準器が、次第に大きくなっていくミラージュの姿に重なろうと近づいていく。
その時、不意にミラージュが旋回を止めた。
息切れか。理由はともかく、今が射撃のチャンスだ。
「いただきっ!」
『ふっ』
その時、ミミが少しだけ笑ったような気がした。
すると、ミミ機の動きに変化があった。
やや機首を上げたと思うと、デルタ型の主翼にある小さなエアブレーキを展開したのだ。
ミミ機との距離が縮まる速度が、さらに早まった。
「機関砲――」
「待て! 近づきすぎだ!」
とっさにツルギは声を上げた。
減速したミミ機の姿は、早くもキャノピーいっぱいにまで迫っていた。




