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セクション09:ロケットスタート

 一斉に待機室の外へ飛び出す。

 ツルギも動き出したが、車いすを一度後退させてテーブルから離した直後、急に後ろから車いすを押された。ストームだ。

 ストームに押された車いすは、バズとラームに続いて待機室を飛び出した。

 すぐ隣にあるアラートハンガーに向かうと、そこでも甲高いサイレンの音が鳴り響いていた。

 シャッターが開いていく中、一同は自らの機体へと大急ぎで向かう。

 この間、ストームが予行練習の時のように転びはしないかと心配したが、それはなく無事にウィ・ハブ・コントロール号の元へ辿り着いた。

 すぐにストームはブレーキを駆けて急停止。

「っと!」

 はしごの前で止まった時、ツルギは反動で前に飛び出しそうになった。

 それを何とかこらえたのも束の間、すぐさまゼノビアら整備士が駆け寄ってきて、ツルギの体を車いすから持ち上げる。

 整備士達に支えられつつはしごを上るツルギ。しかし急いでいるからか、途中で手が滑り一度止まってしまった。

 何より、整備士に支えながらである以上、どうしても速度が落ちてしまう。

 ツルギがやっとコックピットの前に辿り着いた時、バズ・ラーム機のエンジン始動音が響き始めていた。

 それからストームの助けでコックピットの後席に押し込められるが、急いで押し込められたせいで、またも両足が計器盤に引っかかった不自然な姿勢で座らされる羽目になった。

 慌てて両足を抱えて姿勢を正すツルギ。

 その間、ストームは前席に飛び込み、ようやくエンジンスターターに火を入れた。

 バズ・ラーム機のエンジンは、既に回り始めている。

 耳をつんざく金属音に耐えかねて、予め置いてあったヘルメットを慌てて被る。

『我が息子よ、大丈夫ー?』

 すると、ゼノビアからの通信が耳に入った。

 だが、答えられる余裕はなかった。姿勢を整えた後、大急ぎでシートベルトを締める。慌てているせいか、些細な箇所さえも間違えてしまう。

 だが、気持ちを落ち着かせる事ができない。

 とにかく、ロスした時間を何とか取り戻すそうと必死だったのだ。

「ツルギ、準備できてる?」

「誰かさんが変に押し込んだせいで、こんな有様だよ……っ!」

 思わず、そう吐き捨てていた。

 その後、離陸前のチェックに入るが、緊急発進(スクランブル)する機体は予めプリタキシーチェックを済ませた状態になっているため、簡便に済ませる事ができる。

 とはいえ、確認するべきチェック項目は安全のためにも1つも飛ばす事ができないので、ツルギをさらに焦らせる事になった。

 どこをちゃんとやって、どこをやっていないのかがわからなくなってきた。

「えーと、あれ!? これ飛ばしてる!? じゃ、こっちは大丈夫か!?」

『ツルギ、落ち着いて落ち着いて!』

 ゼノビアの声が、耳に入らない。

『おい、大丈夫か? 時間が迫っているぞ?』

 逆に、バズのその声だけが耳に入ってしまう。

「うわああああああっ! まずい、早くしなきゃ――!」

 もうタイムリミットは幾分もない。なのに、まだ移動許可さえも取れていない。

 もはやパニック状態寸前だった。

 このままでは成績に影響にしてしまう――!

「ママ、車輪止め外してる?」

『大丈夫よ、ちゃんと外してる』

 するとストームが、急にゼノビアに確認し始めた。

「じゃあ、すぐコード外してそこから離れて! ぶっ飛ばすから!」

『え?』

「早く!」

 ストームの催促で、ゼノビアからの通信が終わる。

 ぶっ飛ばす。

 その言葉に、ツルギは何か不吉なものを感じた。

「な、何をする気だストーム?」

「ファインズ管制塔(タワー)、こちらブラスト1! 時間ないからすぐ離陸しまーす!」

 その予感は見事的中。

 ストームは一方的に、管制塔に離陸を告げた。

『待てブラスト1! 勝手に宣言するな! ちゃんと許可を取れ!』

「そんな暇ないのっ! このままだと遅れちゃうもん!」

 ストームがスロットルレバーに手を伸ばす。

 まずい。ストームは許可なしに離陸を強行するつもりだ。交通整理役たる管制官の指示を無視する事は、まさに信号無視に等しい行為だ。

「ま、待てストーム! ちゃんと許可を――」

「しっかり捕まっててツルギ! レディ、セット、ゴーッ!」

 ツルギが制止するするのも聞かず、ストームはスロットルレバーを目いっぱい押し込んだ。

 アフターバーナー点火。

 機体は離陸時のごとく、いきなり急加速し始めた。

 それはまさに、ロケットスタートという言葉がふさわしい。

「うわあああああああっ!」

 体がシートに押しつけられた。

『あっ!?』

『ストーム!?』

 その行動には、バズとラームはもちろん、周囲の整備士達も驚きを隠せなかった。

 アフターバーナーが点火されたのはほんの数秒程度だったが、アラートハンガーを飛び出したウィ・ハブ・コントロール号は、まるでレーシングカーのごとく駐機場(エプロン)を駆け抜ける。

 近くで作業をしていた整備士達が、慌てて逃げ惑う姿が見えた。

 そしてその進路上には、あろう事かたまたま通りかかった燃料車の姿が――

「やめろおっ! ぶつかるっ!」

「大丈夫!」

 だが、ストームはそれを巧みなステアリング操作で回避。

 そのままアフターバーナーで加速した慣性を殺さず、そのまま一直線に誘導路へと入った。

『すげぇ……! あいつの前世、レーサーか何かだったのか?』

 バズが驚く声が無線で入る。

 そうしている間に、ほんの数秒で機体は滑走路へと入った。もちろん、許可は取っていない。

「はい、滑走路にとうちゃーく! それじゃ、このまま離陸するよ!」

『おい! やめろブラスト1! お前のしている事がわかっているのか!』

 管制官の命令など、どこ吹く風。ストームは、そのまま離陸を強行した。

 再びアフターバーナーを点火したウィ・ハブ・コントロール号は、再び力強く加速し始め、空へと舞い上がった。

 雲を突き抜け、あっという間に高度4万フィート――およそ1万メートルに達する。

「どうツルギ? あたしのナイスフォロー!」

「何がナイスフォローだ! 今のは立派な反則技だぞ! 反則技!」

 得意げなストームに対し、思わず反論するツルギ。

「だって、ああでもしなかったら間に合わなかったよ?」

「だからって反則技するのはずるいぞ! 将棋だったら即失格で負けだぞ! これで成績が悪くなったらどうするんだ!」

「……あ」

 そこで、ストームはやっと自分の過ちに気付いた様子だった。

「ストーム、しっかりしてくれ! 今日のストーム、なんか変だぞ? 朝から何だか――」

『はーい、そこまでー! こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです!』

 しかし、ピース・アイから入った通信で、はっと我に返った。

『おしゃべりしている暇はありませんよ? チャンネル1で敵機の位置情報をデータリンクで送ってますから、すぐに向かって迎撃してください!』

「りょ、了解! 今確認しました! ストーム、方位020だ!」

「ウィルコ!」

 こうなったらもう、乗りかかった船だ。

 開き直ったツルギを乗せたウィ・ハブ・コントロール号は、まだ見ぬ敵を目指し加速した。

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