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セクション07:スクランブルとは

「それでは、授業を始める。今日からいよいよ、緊急発進(スクランブル)の実習が始まる。これからその概要を説明する訳だが、その前に緊急発進(スクランブル)が何たるかを振り返っておこう」

 教壇に立つフロスティが、いつものように授業を始めた。

「まず、緊急発進(スクランブル)とは何か。我がスルーズの領空に侵犯してきた未確認機(アンノウン)に対処するため、素早く発進する事だ。未確認機(アンノウン)の正体は何らかのトラブルが発生した民間機である事もあるが、大抵は領空を脅かさんとする外国の軍用機だ。そいつらを素早く迎え撃ち領空から退去させる、世界中で毎日のように行われている実戦が緊急発進(スクランブル)なのだ。いいか、ここが重要だ。相手は人の土地に不法侵入した存在だ。たとえ民間機であろうと、指示に従わなければ警告射撃や強制着陸、そして撃墜も正当化される。緊急発進(スクランブル)とは国防の最前線であり、貴様らの行動うんぬんで国際問題に直結する緊迫した任務だという事を忘れるな」

 ツルギは、そっと隣の席に座るストームに目を向ける。

 ストームは机にあごを乗せた、だらしない姿勢で授業を聞いている。その顔色にはやはり元気さがない。

「ではここで聞くか。緊急発進(スクランブル)にはいくつかのレベルが存在するが、その中で最もレベルが高いものは何分で離陸しなければならないか。ラーム」

「はい、5分です」

「その通りだ」

 ちら、とストームの目がツルギに向いた。

 見ていた事に気付かれたツルギは、一瞬動揺した。

 すると、ストームは慌てて姿勢を正し、何事もなかったかのように授業を聞き始めた。

 明らかに様子がおかしい。いつものストームならこんな事はないはずなのに。

 本人は眠れなかっただけと言っていたが、単に少し眠れなかっただけでこんな状態になるものなのだろうか、とツルギは思わずにはいられない。

「スルーズの領土・領海は、お世辞にも広いとは言えない。そのため、仮に領空侵犯した相手が攻撃意志を持った戦闘機であった場合、数分でも対処が遅れると一瞬で本土全体に到達され、大きな打撃を受けかねない。そのためにも、緊急発進(スクランブル)にはスピードが求められるのだ。スルーズ空軍が高度な早期警戒管制機を配備しているのも、敵性航空機をできるだけ遠くから探知し、素早く対処できるようにするためなのだ――おい、聞いているのかツルギ!」

 フロスティに注意され、ツルギは我に返る。

「あ、はい! すみません!」

「学級委員たる者が、授業を聞かないとはいい度胸だな。それだけ今回の実習は余裕綽々という事か?」

「と、とんでもありません!」

「やれやれ、学級委員長の名が聞いて呆れる。これでは近い内に不信任決議をしなければなるまい。貴様を指名した奴がどんな間抜け面か、一度見てみたいものだ」

 生徒達の前で堂々と悪態をつくフロスティ。それにはさすがの生徒達も沈黙するしかない。

 明らかに教官とは思えない、見下した態度。

 ツルギに限らず、フロスティはどの生徒にも同じ態度しか取らない。故に生徒達からの評判は悪い。教官がこんな態度を取っていいものかと、ツルギは思わずにはいられない。

「教官! 今日の実習の流れはどうなるの?」

 その空気を絶ったのは、ストームの質問だった。

「おっと、話が逸れてしまったな。本題に戻ろう」

 予期せぬ援軍に驚いて隣に顔を向けると、ストームはツルギに向けてさりげなくウインクした。とはいえ顔色は悪いままで。

 黒板の前にスクリーンが下ろされ、プロジェクターにより基地周辺の地図が映し出された。

「実習の流れを説明する。今回行うのは、当然ながら5分待機の緊急発進(スクランブル)だ。実際に装備を整えた上で待機室にアラート待機し、緊急発進(スクランブル)を行ってもらう。ベルを鳴らすタイミングはランダムに行うから、気を抜くな。離陸後はフリスト諸島上空で迎撃戦闘の実習に移行し、仮想敵(アグレッサー)機との模擬戦を行う。離陸までのタイムリミットはもちろん5分間、時間を過ぎればその分仮想敵(アグレッサー)機が侵入する猶予を与える事になるからな、遅れれば戦況の悪化にそのまま直結する。故に、評価は緊急発進(スクランブル)と模擬空中戦、双方の合計で行われる」

 緊急発進(スクランブル)からそのまま空中戦実習になるのか。

 普段から実戦さながらの実習を行っているので当たり前な事であるが、今回は不安を拭いきれないツルギ。

 何せ、前日に行った予行練習では戦闘機への素早い搭乗ができなかったのだ。

 加えて、退学させようとする父を見返すためには、必ずいい成績を出さなければならないというプレッシャーもある。

 だが、やるしかない。ストーム達も応援してくれているのだ。

緊急発進(スクランブル)はファイターパイロットなら避けては通れない任務だ。これができなければ、ファイターパイロットにはなれないものと思ってかかれ。ストーム、どうした? 聞いているのか?」

「あ、大丈夫! ちゃんと聞いてるから!」

 突如フロスティに注意されたストームは、また机にあごを乗せた姿勢でいたようだった。

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