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インフライト1

 時間は多少遡る。


「失礼します! フロスティ教官!」

 職員室に突如入ってきたミミの姿に、ちょうど喫煙中だったフロスティは驚いた。

「ミミか。こんな時に何の用だ?」

 タバコを灰皿に置くと気怠そうに回転いすを回し、ミミに体を向ける。

 ミミはすぐに姿勢を正し敬礼する。さすがは王女だけあり礼儀作法はなっているな、とフロスティは思う。

「その、用件は何でしょうか?」

「用件? 何の事だ?」

 全く身に覚えのない言葉。フロスティはすぐにその意味を問う。

「え、先程私を呼んだと聞いてきたのですが……」

「私は貴様を呼んでなどいないぞ。何かの聞き間違いじゃないのか」

「え――?」

 何の事だかわからない、とばかりに目を丸くするミミ。

 どういう事だ、とフロスティは視線で問う。

 そのまま、しばしの沈黙。

「――ああああああっ!」

 すると、ミミは突如として何か気付いたように目を見開き、大声を上げた。

 その大声にフロスティはもちろん、他の教官達も驚いて一斉にミミに視線を集めた。

「あのアバズレ女! 私を騙したのですねっ! おのれストーム! 今頃ツルギを――!」

 教官の前とは思えぬ怒りを表した態度を見せ、わなわなと右手の拳を震わせたミミは、すぐさま踵を返す。

 職員室の中とは思えない急ぎっぷりに、フロスティも我慢の限界だった。

「ミミ!」

 その声に呼び止められるように、ドアを開けて出ようとしていたミミの足が止まる。

「あ……申し訳ありません、教官!」

 過ちに気付いたのかすぐに謝ったものの、その後素早く出て乱暴にドアを閉めた辺り、フロスティにはミミが反省しているようには見えなかった。

「……全く、これだから子供は――」

 そう吐き捨てて、再びタバコを口に加える。

 王女とはいえ所詮は子供という事か、と失望しつつ。

 残りが短いタバコを吸いながら、フロスティはミミの言動を振り返る。

 彼女の言葉には、ストームとツルギの名が出ていた。フロスティにとって、一番気に入らない生徒の名だ。

 あの2人が、また何かやらかしたのだろうか。もし大きな問題を起こしていたなら、問いたださなければなるまい。

 そう考えつつ、フロスティは吸い尽くしたタバコを灰皿に押し当てた。

「俺も貧乏くじを引かされたものだな」

 そう自嘲しつつ、業務に戻る。

 電話機の受話器を取り、書類に書かれていた電話番号にダイヤルする。

 呼び出し音が数回鳴った後、電話が繋がる。

『はい、ハヤカワですが』

 電話に出た声は、初老の男性と思われるものだった。その英語にはやや日本語訛りがある。

「もしもし、ショウジ・ハヤカワさんですね? 私はスルーズ空軍航空学園のアーロン・カザモリと申します。あなたの息子さんのガイ君について、確認したい事があるのですが」

『……何でしょう?』

 その問いに、電話の主は少し動揺した息遣いを見せた。何か悪い事を聞かされると思ったのだろう。

「ガイ君が今どこの学科で何を勉強しているのか、把握していますか?」

『……いいえ。私自身、仕事で多忙なもので、なかなか連絡が取れなくて――ですが、きっと整備士科かどこかにいるのでしょう?』

 そうか、なら都合がいい。

 フロスティは、すぐさま事実を電話の主に伝えた。

「いいえ。彼は未だ戦闘機科の候補生です」

『え?』

「ですから、戦闘機科の候補生なのです。障害者でありながら、彼は今も戦闘機に乗って飛び続けているのですよ。あなたは親として、そんな息子の勝手を見過ごすつもりですか、ハヤカワさん?」

 そう告げたフロスティの口元は、不適に吊り上がっていた。

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