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セクション17:扇子VSスプーン

 翌朝。

 ツルギ達はいつものように朝食のために食堂に集まる。

「これが桂馬。動きはチェスのナイトと同じ。で、この飛車はルークと同じで、この角行はビショップと同じ動きだと思っていいよ」

「ケイマはナイト、ヒシャはルーク、カクギョウはビショップ……」

 ツルギは食事を取る中で、ラームに将棋の駒について自身のポータブル将棋盤を使い教えていた。

「で、将棋のほとんどの駒は、チェスの駒と違って成る事ができるんだ。敵陣に入ってこうやって裏返せば、別の駒に変わるんだ」

「他の駒になれるんじゃないの?」

「そこがチェスと違う所だね。まあ、ほとんどは金将と同じ動きになるから金将になれるって考えればいいよ。そうならない飛車と角行は動けなかった方向に1マス動けるようになるだけだから、覚えるのは難しくないと思う。あ、成れないのは金将と玉将だけだから」

「ふむふむ」

 トーストをかじりつつ、ラームはその説明を真剣に聞いている。

「随分楽しそうだな、ツルギ。ストームじゃ飽き足らず、ラームの好感度上げようって寸法か?」

「に、兄さんっ!」

「朝からよからぬ事考えてるみたいに言うなっ!」

 ラームの隣に座るバズに茶化され、ツルギは思わずラームと共に突っ込んだ。

「ははっ、ジョークだよジョーク。にしてもツルギの奴、昨日叱られて結構へこんでた割に元気だな。夕べ何かあったのか?」

「さあ、どうでしょうねー」

 バズの問いに、ジュースを飲みながら答えるストーム。

 ツルギの隣にあるストームの席は、なぜかツルギの座る車いすに密着するほど近づけられていた。

「こんなゲームができるなんて、ツルギって凄いよねー! あたしには全部同じに見えてわかんないよ!」

 ストームは将棋盤を覗き込みながら、感心したように言う。

「え? いや、確かに頭使うゲームだけど、そんな凄いゲームじゃないって――」

「ツルギってかっこいいっ!」

「あ――ちょっと、ストーム! 離れて! 邪魔になるからっ!」

 突然ストームに抱き着かれ、ツルギは激しく動揺して声を上げた。

 そんな2人の様子を、唖然とした様子で見つめるバズとラーム。

 そんな時。

「見つけましたよ、ストームッ!」

 突如として入った声に、2人の動きが反射的に止まった。

 見るとそこには、いつの間にかミミの姿があった。その姿に、ツルギは先程とは別の意味で動揺した。

「ミ、ミミ!」

「昨日はよくも私を騙してくれましたね! 私がいない間にツルギを連れ出したのは、あなたの仕業でしょう!」

 怒り心頭の様子で、閉じた扇子をストームに突き付けるミミ。

「へへん、そのとーり! 姫様やっと気付いたんだ?」

 途端、勝ち誇るように答えるストーム。

「昨日の時点で気付いてましたっ! 一体ツルギをどこに連れ出していたのです! 学園の怪しい場所を徹底的に探しましたが、どこにもいなかったではありませんか!」

「ん、あたし達の部屋だよ?」

「部屋!? そうでしたか、そういう選択もありましたか……絶対に人目に付かないプライベートな場所で、堂々とツルギとハッスルしていたのですね……! なんて卑怯な!」

「いいじゃない、あたし達の部屋なんだからあたし達の好きなようにしたって。それに姫様だって無理やりツルギを連れ出そうとしてたじゃない。ねえツルギ?」

「え? ま、まあ……」

 急に話を振られてツルギは戸惑ったが、なぜかそう答えていた。

 だがそれが、ミミの感情を逆撫でてしまったらしい。扇子を握る手がわなわなと震えている。

「く――っ、おのれストーム! ならばこちらも宣戦布告するまで!」

「いいじゃない、受けて立つよ!」

 ミミが扇子を構えて告げると、ストームもツルギから離れて席を立った。

「お、おいちょっと! こんな所で騒いだら――!」

「大丈夫、ツルギ。すぐに終わらせるからっ!」

 止めようとするツルギを無視し、ストームはミミの扇子に対抗してかスプーンを手に取ってナイフのように構えた。

「このおおおおっ!」

「うりゃああああっ!」

 互いに得物を振りかざす2人。

 かちん、と音がして扇子とスプーンがぶつかり合い、そのまま鍔迫り合いのようになる。

「そのスプーン、まさか使用済みではないでしょうね?」

「大丈夫、まだ使ってないからっ! ていっ、ていっ、ていっ、ていっ!」

 そう言ってストームは扇子を払い除けると、スプーンでミミの頭を何度も叩いた。

 予想外の痛さだったのか、ミミは怯んで後ずさりしてしまう。

「それを聞いて安心しました――っ!」

 負けじとミミも反撃に出る。

 振り下ろされたスプーンをかわした隙に、扇子でストームの頭を何度も叩く。

 それにはさすがのストームも怯んで後ずさりしてしまう。先程の攻撃をほとんどそのまま返される形になってしまった。

「いったあ……」

「どうしました? まさかもう降参ですか?」

 いかにも痛そうに頭を抱えるストームを、得意げに挑発するミミ。

「何を――っ!」

 しかしストームはすぐにスプーンを構え直し、再びミミに挑みかかる。

 2人が振りかざした扇子とスプーンが、再びぶつかり合った。

「こ、こら! やめろって2人共――」

 ツルギは2人の乱闘を止めようと呼びかけるが、2人は全く意に介さない。

 そんな時、急に懐で何かが震え出した事に気付いた。

 携帯電話だ。

「……っ、誰だよこんな時に――」

 取り出してみると、メール着信の知らせがあった。

 そしてそのメールを開いてみると――

「――え!?」

 途端、全身が硬直した。

 その時だけ、時間が止まったような錯覚を受ける。

「おい、どうしたツルギ? メールなんて見てる場合じゃねえだろ?」

 バズが呼びかけるが、その言葉が全く耳に入らない。

「どうしたのツルギ?」

 様子がおかしい事に気付くと、ストームとミミも乱闘をやめてツルギに駆けよってきた。

 バズとラームが加わった4人が、ツルギの携帯電話の画面を覗き込む。

「何これ? 読めない……」とストーム。

「これって、日本語?」とラーム。

「そのようですね……」とミミ。

「って事は、身内からか?」とバズ。

 だが4人がメールを見ている事も、ツルギは気付かなかった。

 ツルギはただ、自らの母国語で書かれたそのメールの文に釘付けになっていた。


 ガイへ

 君は学園の事で重大な隠し事をしていたようだね?

 その事について大事な話があるから、授業が終わったらファインズのカフェ・ブリーズに来るように。

 父さんより


「と、父さん――!」

 それは、ツルギにとって新たな波乱の幕上げを告げるものだった――


 フライト1:終

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