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セクション15:姫様とゆかいな仲間達

「え――どういう風の吹き回しなんだ? ミミはこの後生徒会の仕事があるんじゃ――?」

「心配はいりません。後はミステールがやってくれますから。ですよね?」

 ミミはそう言って、振り返る。

 そこには、席でペンを片手に書類を読んでいる女子生徒がいた。ロングヘアーをストレートに肩へと下げた彼女は、眼鏡をかけていて落ち着いた印象で、いかにもインテリ系と言った印象だ。

 彼女がミステール。生徒会の副会長だ。ツルギも数か月前の合同戦技テストの際に顔を合わせている。

「ああ、構わないよ姫。せっかくできた時間だ。2人で有意義に過ごしておいで」

 見た目を裏切らない、落ち着いた声と表情。

 その時、かちゃん、と机にペンが落ちた。ミステールの手からペンが落ちたのだ。

「――っと、落としてしまった」

 ミステールはそれを拾うと、手の上で回そうとした。だがペンは1回転もせずにミステールの手から滑り落ち、また机の上に落ちる。それを、うまく行かないなあ、とつぶやきつつ何度もトライしていた。

 彼女は国防長官の娘という、ミミとはまた別の意味でVIPな人物だ。ミミとは幼馴染同士で、良き相談相手になってくれているとツルギは聞いている。

 しかし、生徒会では最年長の6年生でありながら、なぜか副会長の地位に重んじてミミを生徒会長に指名し彼女を補佐している事から、巷では「姫様を陰で操る人物」「姫様は副会長の傀儡(かいらい)なのではないか」とも囁かれているのだが。

「あっ! それじゃあアタイもちょっくら用事があるから、ここでおいとましまっす!」

 すると、不意に隣に座っていた女性生徒が席を立った。ミステールとは対照的に、いかにも活発そうな印象があるショートヘアーの少女だ。

「それじゃ!」

 女子生徒は席から一目散に駆け出す。それこそ、短距離走のスタートダッシュのごとく。

 だが。

「うわああっ!」

 並びがずれていた机の脚に躓いてしまい、大きな声を上げて思いきり倒れ込んでしまった。

 そんな女子生徒を見たミステールは、やれやれとばかりに席を立った。

「チーター、いくら君が短距離走で負けなしの俊足とは言っても、生徒会室を走って抜け出そうとするのはいただけないね。躓いたのはそのバチが当たったんだ」

 穏やかな態度を保ちつつ、ゆっくりと女子生徒――チーターに歩み寄るミステール。

「さあ、席に戻って。君にはまだ会計としての仕事が残っているよ」

「ええー、いいじゃないっすかミステールさん! どうして姫様だけー?」

「勘違いしないで欲しいね。姫は評議会が終わった後を自由時間にするためちゃんと仕事を済ませておいたんだ。仕事ができる人って言うのはね、常に早め早めに行動できる人なんだよ、チーター」

「うう、ミステールさん厳しいっすよ……わ、わかりました! やりますよ! こんな仕事くらい、競争と同じくらいすぐに終わらせてやるっす!」

「急ぎすぎて精度を落とさないようにね」

 かくして、チーターは席に戻ってプリントとにらみ合いを始めた。

 こんな女子生徒が生徒会会計というのだから、世の中わからないものだとツルギは思う。

「くーっ、この仕事さえなければ、姫様に同行できるのにーっ!」

 その隣の席では、ネイルアートが施された爪を悔しそうに噛みながらツルギをにらみつけるフィンガーの姿が。

 生徒会でのフィンガーの役割は書記だ。これにミミを含めた4人が、スルーズ空軍航空学園の生徒会メンバーなのである。

「このジャップ! 姫様に変な事しようものなら、このフィンガーが許さないんだから!」

「それは野暮ってものだよ、フィンガー。殺されても文句は言えないね」

「……はあ。ミステール、後はお願いしますよ?」

「ああ、悪かった。それじゃ姫、幸運を祈るよ」

 フィンガーをなだめるミステールは、穏やかな表情でミミにウインクして見せた。

 だが、ミミがそんな生徒会の面々に気を取られている隙に、ツルギは背を向けていた。

「ツルギ? あの、どこへ――?」

「……ごめんミミ、今日はやめておくよ」

 ぽつりとそう答え、ツルギは車いすを動かした。

 途端、生徒会の3人が静まり帰る。

「どうしたのですかツルギ? ここに来た時から、様子が変ですよ?」

 だが、ミミにハンドルを握られて止められる。

「まさかあ今日、私の失敗のせいで――?」

「いや、ミミは何も悪くないんだ。問題なのは、もっと別の事だから――」

 ツルギは振り返らずに答え、再び車いすを動かす。

 ハンドルを握っていたミミの手は、あっさりとすり抜けてしまった。

「あ、あの――」

 ミミが何か話そうとしたが、無視して生徒会室を出る。

「それでいいのかい? 姫」

 その直前、ミステールがそんな事を言ったような気がした。


 生徒会室を出るや否や、はあ、とため息が出た。

 とにかく、すぐに部屋に戻って、1人になりたかった。

 そして、寮へ向かおうとした、そんな時。

「ダメですよ、ツルギ!」

 突然、その声と共に誰かが正面に仁王立ちで立ち塞がった。

「悩みは1人で抱え込むものではありません! 私が聞いてあげますから、一緒にお茶を飲んでリラックスしましょう!」

 それは、後を追ってきたミミだった。先程と違って妙に気合が入った様子で、ツルギに手を差し伸べてくる。

「え、いや、別にミミが責任持つ事じゃないって――」

「責任がどうこうという問題ではありません! 話し相手になってあげるだけですよ!」

 その気迫にツルギは引いてしまうが、ミミは一歩歩み寄ってくる。

 ツルギは思わず、車いすを後退させていた。

「いや、話した所でどうにかなるものじゃないし――」

「大事なのは話す事です! 私に悩みを聞かせてください!」

「いや、でも、遠慮しておくよ……!」

「私に話してくれてもいいでしょう? 私だと都合が悪い理由でもあるのですか?」

「いや、そういう訳じゃないけど――!」

「ならいいではないですか! ツルギの大好きな緑茶も用意してありますから! もちろん甘味抜きの!」

「いや、部屋にもあるからいいって――!」

 2人のやり取りは平行線のまま、続いていく。

 歩み寄ってくるミミから逃げるように後退を続けるツルギであったが、不意にかつん、と何かに引っかかって車いすが止まってしまった。

 振り返ると、そこは壁だった。廊下の突き当たりまで来てしまったのだ。

「私は引きませんよ! ミステール達が行かせてくれたのですからっ!」

 じりじりと迫ってくるミミ。心なしか、脅されているような感覚がしなくもない。

 しかし、こうなっては逃げる事など不可能だ。どうする、とツルギは考えるが、気の利いた脱出法が浮かばない。

「さあ、私と一緒に――」

「ツルギーッ!」

 そんな時、ミミの背後から声がした。

 彼女が振り返ると、そこにはストームの姿があった。

「……何の用です? 今、私はツルギと大事なお話中なのです。用件なら後にしてもらえますか?」

 その姿を確かめた途端、露骨に冷たい表情を見せるミミ。

「姫様もちょうどよかった! さっきフロスティ教官が呼んでたよ。大事な話があるって」

「え!?」

 だが、ストームの予想外の発言に、ミミは目を見開いた。

「早く行った方がいいと思うよ? 何かフロスティ教官、カンカンに怒ってたから」

「わ――わかりました! ツルギ、少しここで待っていてくださいね! すぐ戻ります!」

 ミミは長い金髪を翻してツルギに背を向けると、慌てて側にあった階段を下りていった。

 助かった。ツルギはようやく胸をなで下ろした。

 この間に、何とか言い訳を考えて――

「さ、ツルギ今の内に!」

 するとストームは、すぐに車いすのハンドルを握り、急ぎ足で車いすを押し始めた。

 まるで、その場から逃がそうとしているかのように。

「え? 今の内にって、何が――?」

「姫様がいなくなった今の内に逃げるの! バレたらすぐ戻ってきちゃうよ!」

「――まさかさっきの話、嘘だったのか?」

「そうだよ! 絡まれてたツルギを助けるためのね!」

 ストームは得意げにウインクしてみせる。

 ミミに伝言なんて妙だなと少し思ったが、まさかそういう意図があったなんて。

 助けてくれて嬉しいような、ミミに申し訳ないような。ツルギは複雑な気持ちになった。

「その――助かった。ありがとう」

「えへ、どういたしまして!」

 とりあえず、礼を言った。にこりと微笑んで答えるストーム。

 何はともあれ、ツルギはストームと共に寮へと戻る事ができた。

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