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セクション14:軍人としての覚悟

「貴様らは、軍という組織が何をする所か、わかっているだろうな? 国防とか世界平和とかいう名目で、合法的に人を殺す所だ。つまり、お前達はいずれ人を殺し、人に殺される立場になる。スルーズ軍は海外派兵も積極的にしているからな。最近は戦闘機の派遣こそしていないが、戦場へ行く事は決して非現実的な事ではないんだぞ。夢を叶えるためとか言ったが、貴様らの夢は、その手を血に染めてでも叶えたいものなのか?」

 その現実的な言葉に、ツルギは反論できなかった。

「戦闘機は貴様らの夢を叶えるおもちゃではない。人殺しの道具だ。そんなものに夢を託すのは、悪魔との契約と何ら変わりない。夢だけで戦闘機に乗っていると、いつか必ず後悔する事になるぞ。そういう意味では、私は軍人の候補生として低レベルな今の貴様らを軍に送る気は毛頭ない。特にツルギ、お前はな」

 フロスティににらまれたツルギの体に悪寒が走る。

「ファングは貴様の夢の力とやらを認めたようだが、私は認めん。兵士というものは五体満足な人間がなるものだ。1人で戦闘機にも乗れないような人間が、実戦で使えるはずがない。そんな貴様を軍に送る事に、私は責任を持てない」

「何さ、ツルギが役立たずだって言うの? さっきはあたし達と戦って逃げたくせに」

「くっ、貴様――!」

「そういう事は、あたし達に勝ってから言ってよね! あたし達にも勝てないような教官が、あたし達の夢に文句言わないで!」

「ストーム、もういい!」

 徹底抗戦だとばかりに反論するストームを、ツルギは慌てて制止する。これ以上言われると、火に油を注ぐ結果になりかねない。

「お言葉ですが、教官」

 そんな2人の間に割って入ったのは、ラームの声だった。

「ツルギ君は私達ブラストチームにとって、欠く事のできないリーダーです。ツルギ君のリーダーシップがあってこそ、私達は成績を上げる事ができました。教官は障害者だからという理由で、そんな有能なリーダーを切り捨てるつもりですか?」

 ラームの左目は、怯まずまっすぐフロスティに主張する。

 それには、さすがのフロスティも冷静さを取り戻したようだ。

 見下した目でにらみ返すも、ラームは全く動じない。

 それに感心したのか、ふっ、とフロスティは鼻を鳴らした。

「――そうか。それほど言うならば、貴様らのリーダーがどれだけ使えるか、次の緊急発進(スクランブル)実習で試してやる。それができれば使えると認めよう。だが、できなければ次はないと思え。せいぜい予習をしっかりしておくんだな」

 明らかにそんなものできる訳ないだろうがな、と見下すようにそう告げた後、フロスティは背中を向けて一同の前から去って行った。

「何さ、あの教官! ツルギを物扱いするなんて!」

 ツルギを車いすごと起こした後、べー、とフロスティに向けて舌を出すストーム。

「ああいう男は女にモテないね、間違いなく」

 皮肉交じりにつぶやくバズ。

「ラーム、ごめん。助けられちゃったな」

 ツルギはとりあえず、状況を打開してくれたラームに礼を言う。

「ううん。私はただ、障害者だからってツルギ君を差別する事が、納得できなかっただけだから」

 振り向いたラームは、そう言って表情を緩めた。

 ラームは生まれつき右目がないという障害故に、不幸を呼ぶ『悪魔の子』呼ばわりされて忌み嫌われている。そのせいでほとんど友人はできなかったらしく、基本的にブラストチームの面々以外の人物と行動している所を見た事がない。

 そんな経験があったからか、ラームは障害者という言葉に敏感なのだ。

「そうか……」

 とはいえ、ツルギは複雑な気持ちになった。


 ――1人で戦闘機にも乗れないような人間が、実戦で使えるはずがない。

 ――貴様らの夢は、その手を血に染めてでも叶えたいものなのか?


 フロスティの言葉が、脳裏で繰り返される。

 戦場を経験していないツルギでも、自分達が危険な事をしている事は理解している。

 障害者となる原因を作った去年の事故で、ツルギはパートナーだった先輩を失った。自分が先輩を殺してしまったという感覚に苛まれ、夢を失い失意の底にあったツルギは、一時期退学も考えていた。

 ストーム達のおかげで夢を取り戻し、こうして復学できたものの、この2つの問いを真っ向から問われると、やはり悩んでしまう。

 自分は、本当にここにいていい存在なのか、と。


     * * *


 全ての授業が終わった後、ツルギは生徒会室で開かれる生徒評議会に出席した。

 クラスを代表する委員長として、どうしても参加しなければならない生徒会の会議だが、ツルギはその間ずっと上の空で、生徒会会長として議論を進めるミミが何の事について話しているのか全く耳に入らなかった。

 そして気が付いた頃には、いつの間にか生徒評議会は終わっていた。

「はあ、一体何しに評議会に出たんだか……」

 そうつぶやきながら、ツルギは受け取ったプリントを鞄に入れ、車いすを動かして生徒会室を出ようとした。

「ツルギ」

 そんな時、ふと背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこにはミミがいた。

「この後、時間があれば一緒にお茶しませんか?」

 ミミは扇子で顔を仰ぎながら、涼しい表情でそんな提案をしてきた。まるで、先程フロスティに怒られていたのが嘘のように。

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