セクション11:タイガーじゃない!?
迫りくる見えないミサイルに、すぐさま反応する2機。
散開してすぐにチャフをばら撒く。短射程ミサイル用のフレアと同じように撒かれた金属片が、長射程ミサイルに対する囮の役目を果たす。
ミサイル警報が止んだ。旋回を保ちつつ、すぐに敵を確認する。
シチュエーション・ディスプレイには、ピース・アイが捉えた新たな敵機が映っていた。
2時の方向。ツルギはそこに目を向ける。
すると、雲の上を這うように1つの機影が現れた。
そのシルエット自体は、先程のタイガーと同じもののように見えた。
『またタイガーか! でも1機なら――ん?』
だが、バズが何か違う事に気付いた。
旋回して向かってくる敵機のシルエットは、タイガーとどこか違っている。
それがどこなのかわからないが、どこか違和感を覚えるのだ――
「ストーム、右から来る!」
「ウィルコ!」
ストームはすぐに敵機へ機首を向ける。
互いに向かい合うヘッドオンの状態になった直後、敵機がウィ・ハブ・コントロール号のすぐ横を通り過ぎた。
その瞬間、ツルギは白く塗られた敵機の容姿を目の当たりにした。
「タイガーじゃない!? 何だあいつは!?」
直後、思わず声を上げていた。
それは紛れもなく、タイガーと似て非なる全く別の戦闘機だった。
尾部には本来タイガーにはない大きなノズルが1つあり、そのために後部胴体が太くなっている。キャノピーや垂直尾翼の形も違う。
『嘘……!? F-20タイガーシャーク!?』
望遠鏡越しに見ていたラームが、その機体の名を口にした。
「何、それ?」
『試作のみに終わった、F-5の発展型――!』
その直後、ラームからの無線にミサイル警報音が割り込んだ。
『ちっ!』
バズ・ラーム機はすぐさま上昇しつつフレアを散布。
タイガーシャークもノズルから赤いアフターバーナーの炎を吹き出しつつ、その後を追いかける。
「バズ! ラーム!」
ストームはすぐにウィ・ハブ・コントロール号をタイガーシャークに向かわせた。
そして、ミサイルをロックオンする。
だが、タイガーシャークは狙いがわかっているかのように一気に切り返す。
あっという間にキャノピーの前を横切り、視界から消えてしまった。
「え?」
「どこだ?」
ストームもツルギも、タイガーシャークを見失ってしまった。
左右を確認するが、どこにも見当たらない。
『ブラスト1、6時方向注意!』
ラームの呼びかけで、はっと振り返る。
そこには、いつの間にか後方に回り込んでいたタイガーシャークがいた。
「いつの間に――!?」
驚く隙も与えまいとばかりに、ロックオン警報が鳴り響く。
ウィ・ハブ・コントロール号はすぐさま急旋回し、振り切ろうとする。
頭の血が下がる。体にかかるGで、視界が狭くなっていく。
それでも、息んで下がる血と薄れる意識を押さえ込み、タイガーシャークから目を離さない。パートナーが操縦に専念できるように。
ウィ・ハブ・コントロール号の翼はヴェイパーに包まれている。
それほどの急旋回にも関わらず、タイガーシャークはしっかりと後を追ってくる。
『野郎っ!』
すぐさまバズ・ラーム機がフォローに入ろうと、タイガーシャークの後方から接近する。
それに気付いたのか、タイガーシャークは太陽の中に飛び込むように急上昇。
『う――っ!』
バズはそれを目で追ってしまったようだ。
そのため適切な操縦ができず、ウィ・ハブ・コントロール号へ突っ込む形になってしまった。
「おい、バズ!」
『兄さん、速度が――!』
『って、うわっ!?』
バズ・ラーム機は何とか切り返し、ウィ・ハブ・コントロール号の真下を通り過ぎる。
間一髪。一歩間違えれば空中衝突していた所だった。
だが、安心している暇はない。
タイガーシャークは反転して再び襲ってくる。今度はバズ・ラーム機へ向けて。
「この――っ!」
すぐさま迎え撃つべく、ウィ・ハブ・コントロール号を向かわせるストーム。
タイガーシャークの背後を取った。
それには相手も気付き、振り払おうとすぐに急旋回を始めた。
後を追うウィ・ハブ・コントロール号。
「何なのこいつ、チョコマカと――!」
旋回を繰り返すタイガーシャークを前に、歯噛みするストーム。
視界から消えかねない旋回。ウィ・ハブ・コントロール号はそれに辛うじてついてきている状態だ。ツルギも旋回によるGにひたすら耐え続ける。
何という機動性なのか。この機動性は、普段戦い慣れているタイガーのものではない。
思い浮かぶのは、数か月前に倒したばかりの戦闘機、F-16Nバイパー。
その戦闘機も機動性がかなり高く、ツルギ達を何度も苦しめた。タイガーシャークの機動性は、そのバイパーと同レベルかそれ以上のように思えた。
気が付くと、目の前に雲が見えてきた。いつの間にか雲がある高度まで下がったらしい。
タイガーシャークは、その中にためらいもなく飛び込んだ。
その後を追う形で、ウィ・ハブ・コントロール号も雲へ飛び込む。
視界が白く染まった。
それはほんの数秒間続き、ほどなくして雲を抜け視界が元に戻る。
すると、追っていたタイガーシャークの姿がいつの間にか消えていた。
「え――!?」
「消えた――!?」
慌てて周囲を確認するが、姿はどこにもない。
まさに雲隠れだ、とツルギは思わずにいられなかった。
どこだ、どこだ、と何度も周囲を見回す。
『スルーズ空軍空戦10箇条』第4条に、「一度見つけた敵は、絶対に見失うな」とある。その言葉通り、敵を見失うのは即敗北に繋がる。
そういう意味では、雲に飛び込むべきではなかった。自分達は相手の策にまんまとはめられてしまったのだ。
反撃を防ぐためにも、何とか見つけなければ――




