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セクション09:姫様は空中給油が苦手

 右翼側にいたミミ機は、未だにドッキングを果たせていなかった。

『もう、どうして……っ!』

 ミミは焦りと苛立ちを隠せない様子だ。

 すぐ前には伸びているドローグがあり、それをキャノピーの右斜め前にある『く』の字型のパイプ――プローブに差し込もうと試みている。

 ゆっくりと、慎重に機体を近づける。

 しかし、どうしてもぶれる。機体もそうだが、何よりドローグのバスケットもだ。そのせいで、どうしても狙いを定められない。

 タイミングを見計らい、このっ、と思いきって機体を進めるミミ。

 しかし、定まったと思った狙いは逸れて、バスケットはプローブに差し込まれる事なくその左を通り過ぎてしまった。その位置は、ちょうどキャノピーの真正面。

 そのままバスケットはミミの目前に迫り、ごん、とキャノピーに当たった。

『きゃっ!』

 驚いて思わず声を上げるミミ。そのせいか機体の姿勢がぐらり、と崩れた。

 そのまま、バスケットはキャノピーの上を滑って真上に流れていった。

『ああもう、また失敗……! こんな所で、無様な姿を見せる訳には――!』

 やむなく、ミミ機は態勢を立て直しつつ、減速して後退。再チャレンジを試みる。

『やれやれ、あんな調子じゃ永久に終わりそうにないぜ』

『無礼者っ! 姫様の悪口を言うのは慎みなさい! この色黒筋肉ダルマ!』

 フィンガーの声が割って入る。

 反対側にいるフィンガー機に目を向けると、既にプローブにしっかりとドローグを接続し、給油中だった。

『姫様、早くしないと燃料が切れちゃいますよ?』

『わ、わかってますっ! ああもう、どうしてうまく行かないのですかっ!』

 ユーリアの忠告に言い返しつつもトライするミミだが、やはり機体もドローグも安定せず、うまく行かない。

「姫様、まだ給油できてないの?」

 ストームがそんな疑問を口にした。

「いや、ミラージュの方式はイーグル(こっち)のやり方に比べて難しいんだよ。安定しにくいホースに自分から接続しなきゃらならないからって習っただろ?」

「へえー」

「それに、ミミは――」

『い、今それを言わないでくださいツルギ!』

 ツルギが言おうとした事を、ミミに止められた。

 余程神経質になっているらしい。そうか、いくら何でもこれを人前で言うのはさすがに、とツルギは思ったが。

『「ミラージュ姫」唯一の弱点は空中給油なんだよな』

 バズがそれを勝手に代弁してしまった。

『バ、バズ! それを言わないでと言ったでしょう! 余計にできなくなりますっ!』

 ミミが我慢できないとばかりに怒鳴り始めた。マスクの下では顔を真赤にしているだろう。

『この色黒筋肉ダルマ! 姫様の悪口はいい加減に――!』

 フィンガーも釣られてか怒鳴り始める。

『そうカッカするなって。別に悪口言うつもりはねえよ。完全無欠より弱点が1つくらいあった方がかわいいぜ?』

『か、かわいいとかそういう問題では――!』

『だからさ、誰にだって1つ2つはつきものの弱点で劣等感に――うわっ!』

 そのままからかい続けたバズであったが、それが急に機体の姿勢が崩れた事で止められてしまった。

『ごめんなさい、姫様。兄が行き過ぎた発言をしてしまって』

 とっさに謝るラームの声。

 バズを止めたのは、他でもないパートナーのラームだった。

『お、おい止めるなよラーム! これからがいい所だったのに!』

『兄さんの事ですから、ここでナンパしようとするのは見え見えです。兄さんは本当に見境がなさすぎるんですから』

 不機嫌そうな声でバズに注意するラーム。

 こんな時に何やってるんだよ、とツルギは呆れながら聞いていた。

 とはいえ、話を振ったのは紛れもなく自分自身であるので、ツルギは自分の発言の軽率さを少し反省した。

『お客様、満タンになりましたのでブームを切り離しますよ』

 そんな時、ウィ・ハブ・コントロール号に接続されていたブームが切り離された。

 その瞬間、一瞬だが白いジェット燃料がノズルから強く吹き出した。

「ブラスト1、給油かんりょーう!」

 ブームから離れたウィ・ハブ・コントロール号は、そのまま右へ急旋回し離脱する。

 空中給油では、始める前は母機の左側で、終わった後は右側で待機するのがルールになっているのだ。

『では次のお客様、こちらへどうぞ』

『了解だ! ラーム、しっかり監視してくれよ』

『ええ、兄さんがまたナンパしないように』

『いや、そっちじゃなくて……』

 続いてバズ・ラーム機がブームの下に進入してくる。

 そんな中で、ツルギはもう一度ミミ機を確認すると、ミミがじっとこちらを見ていた事に気付いた。遠くからなのに、視線が妙に冷たく感じる。

『……負けるものですか』

 ぽつりと、ミミはつぶやく。明らかな敵意が込められた声で。

『ストームなどに――ストームなどに、負けるものですかっ!』

 そして、正面に向き直って奮い立つように強く叫び、スロットルを強く押し込んだ途端。

 ミミ機のエンジンが急激にうなり、アフターバーナーが点火された。

『あっ!?』

 慌ててミミはアフターバーナーを切って減速するが、一瞬付いた勢いはすぐに止まらない。

 その勢いで、プローブがドローグに衝突するかのごとく接続された。

 そして、予想もしない事が起きた。

 衝撃でホースが大きくたわみ、あろう事かバスケットの根元からホースがちぎれてしまったのだ。

『きゃあああああああああっ!』

 ちぎれたホースからジェット燃料が吹き出し、ミミ機のキャノピーに直撃した。

 いつにない甲高い悲鳴を上げたミミの感情を表すように、ミミ機は姿勢を崩し、ふらふらと後退していく。

「あっ!」

『えっ!?』

『姫様っ!』

 それを目の当たりにした誰もが、突然の出来事に思わず声を上げてしまった。

 その驚きからか、どの機体も給油のために組んでいた編隊を崩してしまっていた。

『お、おじさまっ! 大変ですっ! 左のホースがちぎれましたっ! ……りょ、了解、ただちにホースを巻き取りますっ! お客様方、給油中止っ! 給油中止ですっ!』

 パニック状態になったユーリアの声が聞こえる。

 バスケットを根こそぎ奪われ、空力的な安定を失ったホースは、ジェット燃料を吹き出し激しく暴れながら巻き取られていく。

『姫様! 大丈夫ですか!』

『い、今一体、何が起きたのですか……!?』

 フィンガー機がミミ機の元へやってくる。ミミ機のプローブには、ホースからちぎれたバスケットだけがくっついており、その状態で飛ぶ姿は何ともこっけいなものだった。

『あっはははははは! こりゃ傑作だ! 姫さんがホース引きちぎりやがった!』

『兄さん! 笑ってる場合じゃありませんよ!』

 なぜか大笑いするバズと、それを注意するラーム。

『こちらピース・アイ。いきなり騒いでどうしました?』

「あ、こちらブラスト1、異常発生(パンパン)異常発生(パンパン)異常発生(パンパン)! アイス1とトライスターにトラブル発生! 給油を中止しました!」

 話を聞きつけたピース・アイには、ツルギが代表して対応した。

『トラブル――と言いますと?』

「給油に使うホースがちぎれちゃったの! ぶちって!」

『ホースがちぎれた? それってどういう事です?』

「どうもこうもないの! 本当にちぎれちゃったの! 接続した瞬間、ぶちって!」

『……すみません、状況がよく理解できません』

 そして状況は、なぜかストームが説明していたが、混乱しているのか、あまりに抽象的なのでうまく伝わっていない。

「とにかく、給油装置にトラブルが発生したんです! だから実習を中止して基地に帰還します、以上(オーバー)!」

 仕方なく、ツルギはそう言って締めくくった。

『おのれ……これも全てあなたの仕業ですね、ラームッ!』

『……っ!?』

『これも、あなたが呼んだ不幸なのでしょう……! あなたと共に飛んだから、私はこんな無様な事に……!』

 状況を確認すると、いつの間にかミミがラームに責任を押し付けていた。

『おいミミ、たかがこんな事くらいでカッカするなって――』

『バズは黙りなさい! どうしてくれるのですか、片目のない「悪魔の子」!』

 バズが仲介しようとしても、すぐに跳ね除けてしまう。

 ラームは黙ったまま、何も返事をしない。その右手は、眼帯で覆われた右目を覆っていた。

『え、もしかしてあなたが噂に聞く――?』

 ユーリアがそんな事を聞こうとした直後。

『警告! 警告! 敵性航空機複数が高速で接近中!』

 ピース・アイの呼びかけが、一同を一斉に静まらせた。

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