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セクション06:テイクオフ!

 ファインズ基地には、平行に並んだ2本の滑走路がある。

 どちらも長さは3000メートル級で、戦闘機から大型輸送機までさまざまな機種が離着陸できる。

 駐機場から見て、内側の滑走路にイーグルが、外側の滑走路にミラージュが入る。

『アイスチーム、滑走路31Rからの離陸を許可する』

『離陸許可、了解。アイスチーム、離陸します』

 直後、2機のミラージュのエンジンノズルから、赤いアフターバーナーの炎が伸びた。

 滑走路を同時に駆け出したミラージュは、地上での並びを保ったまま、離陸した。

 並びはそのまま編隊となり、車輪(ギア)を格納するタイミングも同時。まさに教科書通りの編隊離陸である。

『ブラストチーム、滑走路31Lからの離陸を許可する』

 そして、遂に自分達の番が来た。

 離陸の時も、ツルギは結構緊張する。それはなぜかと言うと――

「ウィルコ! それじゃブラスト1、レディ、セット、ゴーッ!」

 元気よく了解の返事をしたストームは、サンバイザーを下ろしてから、左手でスロットルを最大まで押し込んだ。

 アフターバーナー点火。バズ・ラーム機と共に、ウィ・ハブ・コントロール号は滑走路を力強く走り始めた。

 そして、ゆっくりと浮かび上がるのだが、なぜかウィ・ハブ・コントロール号だけは機首を大きく上げず、結果としてバズ・ラーム機が先に上昇してしまう。

『あ、あれ? どうしたストーム?』

 バズとラームが困惑している。

 それでも無視して、車輪(ギア)を格納するストーム。

 嫌な予感がする。

 ツルギがそう感じた直後。

「それっ!」

 ストームが、急に操縦桿を引いた。

 ウィ・ハブ・コントロール号は一気に急上昇。翼端が雲を引く。

「う――っ!」

 ツルギの体が、Gによってシートに強く押し付けられた。同時に、全身が耐Gスーツによって締め付けられる感覚。そして、グレーアウトが起こり視界も狭まっていく。

 それを、反射的に息んでこらえる。僅かでも遅れていたら意識を失っていたかも知れない。

 そのまま垂直まで機首を上げた所でGは治まり、視界も元も戻ったのも束の間。

 間髪入れずに機体は左へ横転(ロール)し始めた。

「うわああああっ!」

 ぐるぐると回り続ける空。

 予期せぬ機動に、ツルギは思わず声を上げてしまった。さながら、ジェットコースターに乗った時のように。

 6回ほど回った所でようやく止まり、ウィ・ハブ・コントロール号はそのままさらに機首を上げて背面飛行に入った。

「決まった! 以上、ストーム&ツルギによる『ハイレート・クライム・スペシャル』でした!」

 機体を水平に戻しながら、得意げに叫ぶストーム。

 ウィ・ハブ・コントロール号ははもう、かなりの高度まで上がっていた。見下ろすと雲がもう眼下に見え、学園もかなり小さくなってしまっている。

「何が『ハイレート・クライム』だ! いきなりやるからびっくりしたじゃないか!」

「だって、こういう時間も有効活用して練習しなきゃ!」

「たまには普通に離陸できないのか!」

「普通の離陸じゃつまんないでしょ!」

 コックピット内でそんなやり取りを始めたストームとツルギが乗るウィ・ハブ・コントロール号は、そのまま大空を悠々と駆け抜けていく。

 それに少し遅れて、バズとラームのイーグル、そしてミミとフィンガーのミラージュ2機が合流した。

『何をやっているのですかストームッ! 編隊離陸をせずに堂々とアクロバットなどと――!』

 ウィ・ハブ・コントロール号の左に着いたミミ機のコックピットからは、ヘルメットとマスクで表情が隠れていてもわかるほど怒っている様子のミミが見える。

「いいじゃない! 別に『編隊離陸しなきゃいけない』なんて決まりはどこにもないでしょ? あたしはあたしの好きな離陸をするだけ!」

「そ、それはいくら何でも問題じゃ……?」

 ストームの答えに、ツルギは思わずそうつぶやいてしまった。

『まあまあ、いいじゃねえか姫さん。別に事故にはならなかったし、こっちも凄いもの見られたしな。こういうのは慣れだよ、慣れ』

『そういう問題ではありません、バズ! ツルギ、あなたもリーダーとして何か言いなさいな!』

「え……!?」

 突然話を振られ、声を裏返してしまうツルギ。

「別にツルギは嫌じゃなかったもんね?」

『何を言うのです! ツルギは悲鳴を上げていたではないですか!』

 後席に振り向いたストームに対し反論するミミ。それを見ているラームは困惑している。

 2人のやり取りのせいで、話に入れない。答えを考える時間が取れるのはいい事だが。

 確かに驚きはしたが、迷惑だったかと言われると、よくわからない。

 一体どう答えるべきか、考えようとした矢先。

『はーい、ブラスト&アイスチームの皆さんお静かにー! こちらは24時間いつもあなたを上から見守る早期警戒管制機、ピース・アイです! 機影はレーダーで確認してますよ!』

 突然、陽気なオペレーターの声が割って入った。

 空飛ぶレーダー基地たる早期警戒管制機、E-737ウェッジテイルのオペレーターだ。

 その声に驚いたストーム達は、慌てて私語を中断する。

『皆さん、口喧嘩するなとは言いませんけど、注意力散漫は事故の元ですよ? それに敵がいつ出てくるかわかりませんし。敵の情報は見つけ次第こちらが提供しますが、空中給油で事故を起こしたら大変ですよ? わかりました?』

「す、すみません……」

 なぜか、ツルギが真っ先に謝っていた。

『そういう訳で皆さん、空中給油機(タンカー)とのランデブーポイントに向かってくださいね! もちろん、安全運転でお願いしますよ! 速度と高度にはくれぐれも気を付けて!』

「……了解」

『……了解しました』

 言い方こそラジオパーソナリティのように陽気だが、ピース・アイの言葉は正論なので、ツルギとミミは反論せずに了解するしかなかった。

 4機の戦闘機は、指示通りに編隊を保ったまま目的のポイントへと進路を変えた。

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