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アナステシアの影宰相〜冤罪で死んだ元議員秘書、【黒革の手帖】で異世界を裏から異世界を支配する〜  作者: 月神世一


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15/20

EP 15

最強の用心棒、誕生

翌日。

ポポロ村の広場は、昨日までの宴会場から一転、熱気渦巻く「練兵場」へと変貌していた。

ドォォォォン!!

大気が震えるような衝撃音が響く。

村人たち、そして獣人王国の兵士たちが固唾を飲んで見守る中心で、二つの影が激突していた。

「速いな! だが軽いッ!!」

虎将軍タイガが吼える。

その丸太のような腕が、振るわれるだけで風圧を生む。

「くっ……!」

対するは、村長キャルル。

彼女は愛用の魔導脚甲『紫電』を装着し、目にも止まらぬ速さでタイガの周囲を旋回していた。

銀色の残像。

プラチナの髪が彗星の尾のように流れる。

「はぁぁぁッ!!」

キャルルが踏み込む。

『月影流・鐘打ち』。

遠心力を極限まで乗せた回し蹴りが、タイガの首筋を狙って放たれる。岩をも砕く一撃だ。

だが。

バシィッ!!

乾いた音が響いた。

タイガは一歩も動かず、その蹴りを「左手の掌」だけで受け止めていた。

「なっ……!?」

「悪くない。……だが、殺気が綺麗すぎる」

タイガはニヤリと笑うと、掴んだキャルルの脚を軽く払った。

それだけで、キャルルの身体は独楽こまのように吹き飛ばされ、数メートル後ろに着地した。

「うぅ……びくともしない……」

キャルルが悔しそうに唇を噛む。

「当たり前だ。俺は『疾風師団』を率いて30年、戦場を渡り歩いてきた。……嬢ちゃん、お前の技は洗練されているが、それは『決闘』の技だ。『戦争』の技じゃない」

タイガは腕組みをして、仁王立ちになった。

「殺すか、殺されるか。泥にまみれ、卑怯な手を使ってでも生き残る……その執念が足りん。それでは王族の騎士ごっこだ」

厳しい言葉。だが、その瞳には慈愛にも似た光があった。

彼はキャルルの才能を認め、育てようとしているのだ。

「……教えてくれる?」

キャルルが顔を上げる。

「俺の指導は厳しいぞ? 泣いて逃げ出すかもしれん」

「逃げない! ……私、もっと強くならなきゃいけないから。村のみんなと、若林のおじさんを守るために!」

その言葉に、タイガは満足げに頷いた。

「いい目だ。……よかろう。クーデターまでの間、俺が直々に鍛えてやる。ついて来い!」

「はいッ! 師匠!」

わっと歓声が上がる。

最強の将軍と、最強の素質を持つ村長。

この二人が師弟関係を結んだ瞬間、ポポロ村の武力は飛躍的に跳ね上がった。

***

その様子を、俺は村長宅のテラスから眺めていた。

隣には、電卓を叩くニャングルがいる。

「……えげつない光景やな。あのタイガ将軍が、新入りのコーチやっとるで」

「最高の『用心棒』でしょう?」

俺はコーヒーを啜った。

「彼らはただ飯を食らっているわけじゃない。その強靭な肉体と戦闘技術を、村の自警団に還元してくれている」

広場の隅では、モウラ率いる自警団の若者たちが、獣人兵士たちから槍の指導を受けていた。

「腰が入ってねぇ!」「もっと低く構えろ!」と怒鳴られながらも、彼らの目は輝いている。

正規軍の、それも精鋭部隊からの直接指導など、金を積んでも受けられない。

「村の防衛力は、この数日で数十年分進化した。……これなら、帝国軍が攻めてきても撃退できる」

「せやけど若林ハン、食費が馬鹿にならんで? 昨日のバーベキューだけで、村の備蓄の半分が消えたわ」

ニャングルが領収書の束を見せてくる。

確かに、2000人の胃袋はブラックホールだ。

だが、俺は涼しい顔で答えた。

「必要経費です。……それに、ただ消費させるだけじゃありませんよ」

俺は指を鳴らした。

すると、村の外から数台の荷車が入ってきた。

引いているのは、筋骨隆々の獣人兵士たちだ。

荷台には、近隣の森で伐採した巨木や、鉱山から採掘した鉱石が山積みになっている。

「な、なんやあれ?」

「『食後の運動』ですよ。彼らには、訓練の合間に土木工事と資源採集を手伝ってもらっています」

俺はニヤリと笑った。

「彼らのパワーなら、重機並みの仕事ができる。開墾、整地、資材運搬……。人間の労働者100人分を、兵士1人がこなす。……カップ麺と米だけで動く、最高に燃費の良い『重機』だと思いませんか?」

ニャングルがポカンと口を開け、そして爆笑した。

「カッカッカ! アンタ、ほんまに鬼やな! 将軍をガードマンにして、兵隊を土方ドカタに使うとは!」

「人聞きが悪い。彼らも『身体が鈍らなくていい』と喜んでますよ」

事実、兵士たちは楽しそうだった。

飢えに苦しんでいた日々とは違う。働けば、腹一杯の飯が食える。

その単純なサイクルが、彼らの精神を安定させていた。

「……それに、もう一つ。彼らには重要な任務がある」

俺は視線を鋭くした。

「獣王国のクーデター。……これが成功すれば、ポポロ村は『次期国王の最大の後援者スポンサー』になる」

「投資のリターンは、国一つってわけか」

「ええ。ハイリスクですが、ハイリターンだ」

その時、テラスの下から声がした。

「おーい! 若林のおじさん!」

汗だくのキャルルが手を振っている。泥だらけだが、その顔は晴れやかだ。

隣には、腕組みをしたタイガがいる。

「若林! 昼飯はまだか! 訓練をしたら腹が減ったぞ!」

「今日は『カレーライス』だと言っていただろう! 楽しみにしているんだぞ!」

……やれやれ。

最強の将軍も、今やただの食いしん坊だ。

「はいはい、今用意させますよ」

俺は苦笑しながら立ち上がった。

ポポロ村は変わった。

三国の狭間で怯える弱小村ではない。

大陸最強の武力と、異界の物資を有し、裏から世界を動かす「独立国家」への道を歩み始めたのだ。

だが、光が強くなれば影も差す。

俺の【黒革の手帖】が、微かに震えた気がした。

(……そろそろか)

獣王国内部で、不穏な動きがある。

タイガのライバル、あるいは敵対勢力。

「狼」の匂いが近づいている。

俺は空を見上げた。

次の満月まで、あと10日。

決戦の時は近い。

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