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アナステシアの影宰アナスタシアの影宰相〜冤罪で死んだ元議員秘書、【黒革の手帖】で異世界を裏から異世界を支払する〜  作者: 月神世一


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EP 13

将軍の胃袋を掴め

村長宅の応接室。

粗末な木のテーブルの上には、湯気の立つマグカップが二つ置かれていた。

中身はルチアナ通販で取り寄せた『ゴールドブレンド(瓶入り)』だ。

豊かな香りが、焼肉の脂っこさを洗い流すように漂っている。

「……ふぅ」

タイガ将軍は、椅子が軋むほどの巨体を預け、深々と息を吐いた。

その顔には、戦場で見せる鬼神の如き殺気はない。あるのは、極上の満腹感がもたらした賢者タイムのような静けさだ。

「美味かったか、将軍?」

「……認める。あのような暴力的な味は、生まれて初めてだ」

タイガは素直に頷き、コーヒーを啜った。苦味と酸味のバランスに、虎耳がピクリと反応する。

「だが、若林よ。……勘違いするな」

カップを置いた瞬間、彼の瞳に鋭い光が戻った。

「一飯の恩は忘れない。だが、それだけだ。我が軍は2000。今日の肉で腹は満ちたが、明日はどうする? 明後日は? ……略奪をやめれば、我々はまた飢えるだけだ」

「ごもっともです」

俺は頷いた。

軍隊において最も恐ろしい敵は、相手の兵士ではない。「飢え」だ。

補給線の維持こそが勝敗を分ける。ナポレオンも言っていた気がする。

「将軍。あなたは『略奪』で食いつないでいると言いましたね。ですが、それは効率が悪い」

「何?」

「村を襲い、食料を奪い、焼き払う。……一度奪えば終わりです。次の村を探して移動し続けなければならない。それでは兵は疲弊し、いつか動けなくなる」

俺はテーブルの下から、一つのダンボール箱を取り出した。

「もし……『お湯さえあれば、いつでもどこでも温かい食事がとれる魔法の糧食』があったら、どうしますか?」

「魔法の……糧食だと?」

タイガが怪訝な顔をする。

俺は箱を開け、中から一つのカップを取り出した。

発泡スチロール製の白い容器。蓋には『カップヌードル カレー味』と書かれている。

「これは?」

「我が故郷の軍隊(?)が誇る、究極の携行食です」

俺は魔法瓶から熱湯を注ぎ、蓋をして重石(バロスの置いていった万年筆)を乗せた。

「3分。……それだけで完成します」

「たった3分で? パンを焼くより早いぞ」

タイガは腕組みをして待った。

そして3分後。

俺が蓋をめくった瞬間。

ドワァッ!!

部屋中に、スパイシーで濃厚な香りが爆発した。

カレー粉と肉のエキス、そして揚げた麺の香ばしさ。

焼肉とはベクトルの違う、脳髄を直接刺激する「文明の香り」だ。

「な、なんだこの匂いは……!? 先ほどのタレとも違う、鼻の奥が痺れるような……!」

「どうぞ。フォークで麺を絡め取って」

促されたタイガは、恐る恐る麺を啜った。

「ズズッ……!!」

その瞬間、猛将の動きが止まった。

「……熱ッ! 辛ッ! ……美味いッ!!」

「カレーという香辛料を煮込んだスープです。冷えた身体を芯から温め、新陳代謝を高める」

タイガは夢中で麺をかき込んだ。

額に汗が滲む。

ハフハフと白い息を吐きながら、スープまで一滴残らず飲み干した。

「……信じられん」

タイガは空になった容器を、まるで聖遺物のように見つめた。

「軽い。片手で持てるほど軽いのに、腹にたまる。しかも熱々で、味も濃い。……これを兵士全員に持たせれば……」

将軍としての古傷が疼いたのだろう。

彼の目が、食欲ではなく「戦略的価値」を見抜いて光った。

輜重しちょう部隊がいらなくなる。重い食料を運ぶ必要がない。水さえあれば、雪山でも荒野でも進軍できる……!」

「その通りです」

俺はニヤリと笑った。

「この『カップ麺』。味は他にも醤油、シーフード、トマトチリ……数十種類あります。さらに、長期保存可能な『缶詰』、栄養満点の『カロリーメイト』。……私の村と手を組めば、これらを貴軍に無制限に供給しましょう」

「無制限、だと……?」

「ええ。あなたがポポロ村の守護者となり、私の『商売』を邪魔する輩を追い払ってくれるなら」

俺は身を乗り出した。

「略奪すれば、今日一日は満腹でしょう。ですが、私と契約すれば……あなたの兵は『一生』飢えることはない。……どちらが将軍として正しい選択か、明白ではありませんか?」

タイガは沈黙した。

目を閉じ、2000の部下たちの顔を思い浮かべているのだろう。

今日、久しぶりに笑顔で肉を食らっていた部下たち。

明日からまた、泥水をすする生活に戻れるか?

戻れるわけがない。

「……貴様は、悪魔か」

タイガが目を開けた。そこには、迷いはなかった。

「よかろう。ポポロ村には手を出さん。……その代わり、約束しろ。俺の部下を二度と飢えさせないと」

「契約成立ですね」

俺は右手を差し出した。

タイガはその巨大な掌で、俺の手を力強く握り返した。

骨が砕けそうな握力だが、そこには確かな信頼があった。

「さて、将軍。腹ごしらえも済んだことですし……」

俺は手を離し、懐から【黒革の手帖】を取り出した。

「そろそろ『本題』に入りましょうか。……あなたが抱いている、その燃えるような『野心』について」

「……!」

タイガの空気が変わった。

鋭い殺気が肌を刺す。

「何を知っている?」

「全てですよ。……レオン・ハート獣人王国の現国王、獅子王レグルスへのクーデター計画。そして、その資金が尽きて立ち往生していることも」

俺は手帖を開き、彼に見せつけた。

「私がスポンサーになりましょう、タイガ将軍。……いえ、次期国王陛下」

ここからが、本当の「悪魔の契約」だ。

食料エサで手懐けた虎を、今度は王座という獲物に向かって解き放つ。

俺の描いたシナリオ通りに。

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