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解答欄

「すいません、わざわざ集まっていただいてありがとうございます」

 僕は、全員をロビーに集め、言った。

「なんで私たち全員を集めたわけ? もしかして、犯人がわかったから、推理小説やミステリよろしく推理ショーでもやろうってわけ?」

 憮然な、イライラとした口調で夢埜さんが言う。

 僕は、

「ええ、そのとおりです」

 簡潔に、そう答えた。

「どうやってやったって言うんですか!? 確かに他殺が間違いない以上犯人はいますが、すべて『ヒト』には不可能だったじゃありませんか!」

 四方八さんが目を見張らせて問うのに対し、

「そう焦らないでください。今からそれを説明しますから」

 すると、四方八さんが、

「推理小説の手法で申し訳ないのですが、優里さんの事件はありきたりな方法で密室でなくなるのではないですか?」

「そうですね……よくある方法としては、実は窓が開いていたとか、扉の影に隠れていたとか、外側から鍵を操作する方法があったとかですかね?

 それらに関しては不可能です。

 これだけの人数がいる中で、窓が開いていることに気づかないわけがありません。外側から鍵を操作する方法は、ないこともないですが、まず間違いなく何かしらの痕跡が残るものです。

 これらの理由から、推理小説的手法は通用しません。

 では、どのようにやったのか?

 実は、非常に単純明快で、僕らは目くらましをされただけなのです。陳腐かつ馬鹿らしい手法。ありきたりな推理小説的手法にすら、とてもではありませんが及ぶ物ではないのです」

「い、いったいどんなことを?」

 そんなことを仕使さんが言う。

 僕は一息入れ、

「犯人は外に出て、キチンと部屋の鍵で鍵をかけただけだったのです。


 つまり、鍵のタグだけを交換しておき、あたかも部屋の中の鍵が本物の鍵であるかのように、目立つよう引っ掛けておいただけなのです。


 馬鹿にするのもほどがある、下らないトリックです。ですが、ここまでのすべての事件が不可能な犯罪であるため、勝手に『不可能犯罪』だと思いこんでしまったのです」

「ふはは、ペテン師がペテンにはまるとはな。まったく、いただけないな」

 疑衣さんは自嘲する。が、彼のその表情からは何も見えない。

「続けます。

 第一の事件。これは、電話線と吊り橋の切断後の、犯人の消失が問題でした。

 ですが、考えてみてください。電話線と吊り橋を切断するのは、どうなのでしょう?

 ……そう、無理なのです」

 僕がそう言うと、

「無理? なら不可能犯罪だと認めるのか?」

 空岸さんの言葉に、

「いいえ。僕が言ったのは、殺害後に切断するのが無理だと言ったのです。


 すなわち、電話線と吊り橋を切断してから、殺害したのです。


 これなら、不可能ではありません。血は、自分のものでもなんでも、替えがきくでしょう

 このまま続けて、第二の事件です。

 これの問題は、頭蓋骨の貫通作業と、静音性の両立が不可能な点につきます。

 しかし、深夜の間、唯一静かでなくてもいい時間があることを、僕らは知っています。ほら、これです!」

 そのとき、重厚な音が、館全体を震わせた。

 それは、――鐘の音。

 12時に鳴る、大音量だ。

「さて、もうお気づきでしょう。犯人は、この音に乗じて、ハンマーを叩きつけたのです。そして、これができるのは、ただ一人」

 一息。

「犯人は、友紙 優里さん。そう名乗ったあなた、――友紙 優希さん、あなたです」

 僕が言うと、

「ちょっと待って! 私が犯人だって言うの!?」

 優希さんは激昂し、憤怒の形相でこちらをにらむ。

「ええ。まさに推理小説的手法です。『双子の入れ替わり』。これをおこなったのですね」

「確かに、初対面なら入れ替わっても気づかないかもしれないわ。でも、実生活で入れ替わりはばれてしまうわよ? それでは、犯行をしましたと言っているような物じゃない?」

 優希さんが反論する。

 対し、僕は、

「あなたたちは、ここに来る時点で既に入れ替わっていたのです。

 僕らの知る優里さんこそが優希さんであり、僕らの知っている優希さんこそが優里さんなのです。

 つまり、優希さんは優里さんとしてこの館を訪れ、第一、第二の殺人を起こす。そして、第三の殺人で優希さんと名乗っていた優里さんを殺害し、元のように優希さんとしてここにいるわけです」

 一度、言葉を切り、

「あなたは、友紙 優里としてここを訪れ、殺人を犯していきます。

 まず、第一の事件では、自分の二の腕を切り、血のついたナイフで電話線と吊り橋のロープを切断します。

 そして、予め呼び出しておいた通間さんを襲い、殺害。

 悲鳴をあげて、人を呼ぶことで、不可能犯罪を作り上げました。


 次の事件では、『包帯を替えて欲しい』と言って薬師さんと二人になり、彼の動きを止めます。首の周りに濃い痣があったので、おそらく絞殺したのでしょう。

 しかし、それだけでは不可能犯罪になりません。ですので、部屋からナイフとハンマーを持ち出し、鐘の音にあわせてナイフを突き立てます。

 そして、あなたは何食わぬ顔でロビーへと戻りました。


 その夜。

 あなたは優希さん……実際には優里さんに、見張りが終わる頃に、部屋へ行くように言っておきます。

 優希さんの代わりに見張りになるのは、優里さん、あなたです。

 あなたは彼女の部屋まで行き、あっさりと殺害。

 鍵のタグを付け替え、彼女の遺体を飾り付けました。


 これが、この事件の全貌です」

 そこまで言うと、優希さんはふう、と溜息をつき、

「……定型文に従わせてもらうけど、証拠はあるのかしら?」

 どこか観念したような様子で言った。

「そうですね……凶器なんかは、きっと崖の下でしょうし。――ですが、あります。あなたの腕を見せてください。腕に傷があるのは、優里さんであって、優希さん、あなたではないはずだ。それでも腕に傷があれば、それは入れ替わっていた証拠です。入れ替わりさえ立証できれば、あとはあなた以外に不可能な犯行ですからね」

 お手上げ、と言うように肩をすくめ、

「あーあ、どうしてばれちゃったのかしらね。それで、動機でもしゃべればいいの?」

「いえ、最後まで僕がしゃべりましょう。あなたは間違っているところを指摘してくだされば結構です。――あなたの動機、それは『芸術』ですね?」

 すると沙織ちゃんが驚き、

「そ、そんな理由で!?」

「そんな理由とは失礼ね。私にとっては大問題よ。それこそ、人を殺すくらいには」

 沙織ちゃんをにらみつけて、優希さんは言った。

 僕がそれに続けて、

「優希さんは、芸術家としても動いていたのですね。そうでなければ、僕が未完成の作品を触りそうになったとき、あんな声を出すことはできません。そして、あなたの考える最高の芸術とは、人間のオブジェ、死体での表現なんですね。だからこそ、殺す場所、殺し方、殺す時間にこだわり、不可能にもこだわった。違いますか?」

「大・正・解。題名タイトルはそれぞれ、『<チ>に伏す者』、『死体に絡む呪縛』、『否定された女神』。どれも傑作のはずだったのにね。……犯行がバレては贋作以下の価値しかないわ」

 言いながら首を振る。

 そして彼女はおもむろにポケットに手を突っ込み、言った。

「――題名タイトル、『笑う変人わらうマーダー』」

 彼女はポケットから取り出したナイフで、自分の首を切り裂く。

 彼女の首からは大量の血が吹き、その死に顔は、狂笑に満ちていた。


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