第9話 ボクシングガールの死闘 前編
須賀愛香里 VS 桃山アズミ。
この一戦は新人のデビュー戦では、
異例の話題性があり、
テレビで生中継されることになった。
「練習通り、やれば勝てる」
そう言いながら、試合直前、
トレーナーの畠山さんは、私の背中を、
バジン、
と、叩いた。これが結構、痛く。
「痛い、試合前の大事なカラダですよ」
「あっ、ゴメン、ゴメン。つい気合が」
それをカメラで撮影していた、
ユーチューブの制作スタッフの山下さんが、
「トレーナーが、一番気合が入っています」
ナレーション風に言って、一同は爆笑した。
そして、いよいよ試合が始まる。
リングに上がると、観客席の最前列には、
菜七子、徳井さんは、蓮太郎が並んでいた。
「これより本日の第一試合を行います」
と、リングアナウンサー。まずは、
私が紹介された。
「青コーナー、銀河一可愛いアイドル・ボクサー」
ここで一旦ためて、
「桃山アズ〜ミ〜ィ!」
観客席からの拍手と声援が沸き上がる。
「アズミー、頑張れーッ!」
「行け、アイドルボクサー」
私は、その声援に右手を挙げて応え、
その後、深々とお辞儀した。
「続きまして、赤コーナー」
その間も愛香里は、私に鋭い視線を向けている。
「令和の拳闘女王、須賀愛香里〜ッ!」
観客席の反応は、私の時より薄い。
愛香里は不服そうな表情を見せて、
私を、グッと睨みつけた。
そして、いよいよ、
カアーン!
ゴングが鳴る。死闘の始まりだ。
互いに、ババッと前に出て、
バヂゴォーンッ!
いきなりのクロスカウンター。
私が右、愛香里が左のストレートパンチ。
強打が交差して、相打ちになった。
「ぐうあっ」
一歩後退した私を、愛香里が追撃する。
バシ、バジン。
左右のワンツーから、
バヂンッ!
強烈なボディブローを食らった。
「ぐはっ」
一瞬、怯んだ私だが、
「負けてられない」
と、反撃の連打を打つ。
バシ、バシ、バシーン。
だが、愛香里はブロックを固めて防御し、
距離を潰してくる。そして、その距離から、
バジン、バジンッ!
左右のボディブローを叩き込まれる。
「上手い、巧すぎる」
私は改めて、愛香里のテクニックに感服した。