第8話 決戦への道のり
須賀愛香里との試合が決まり、
私はアイドル活動を最小限にセーブして、
連日、ボクシングジムでトレーニングしていた。
ジムでは畠山トレーナーの声が飛ぶ。
「アズミ、ガードだ、ガード」
そして、スパーリングのパートナーは、
「僕でよければ協力するよ」
と、撮影スタッフの山下さんが勤めてくれるた。
彼には元プロボクサーという経歴でもある。
このスパーリングは激しく打ち合いになり、
畠山トレーナーの指導も熱を帯びてきた。
「よし、いいぞ足を使え、バカ蹴りじゃない!」
そして、この動画を撮影しているのは、
クラスメートの蓮太郎だった。
「俺は映像の仕事に興味があるんだよね」
と、常日頃から言っていた蓮太郎を、
私は、友人ということで山下さん紹介して、
時々、助手として使ってもらっている。
スパーリングの後、その蓮太郎が、
私に声をかけてきた。
「桃山って、アイドルだけあってさ」
「まあ一、応アイドルだけど、何?」
「カメラ映りが、凄く、綺麗だよね」
私は、蓮太郎をからかうように、言葉を返す。
「えっ、もしかして口説いている」
「バカ、そんなんじゃねえって!」
その様子を見ていた山下さんが、
「痴話喧嘩も楽しい、青春カップルだね」
と、微笑みながら、冷やかした。このような、
トレーニングの日々は、
「終わってみると、あっという間だったな」
そして、まだ残暑の厳しい某日、
私は愛香里との試合の当日を迎える。
その朝は、マネージャーの徳井義雄さんが、
車で迎えに来てくれた。
「おはよう、アズミ。コンディションはどう?」
「徳井さん、おはようございます。絶好調です」
徳井さんの運転する車で会場に到着すると、
私は一人で、女子の控室にはいる。その控室に、
「アズミ、お疲れ様」
菜七子が、突然、入ってきた。
「えっ?」
私は驚いてしまったが、
「頑張ってアズミ。応援しているから」
いつもは意地悪な菜七子が、メンバーでは唯一、
試合会場に足を運んでくれたのだ。
「は、はい。頑張ります。菜七子さん」
「怪我だけには、十分、気をつけてね」
この時、私は、初めて菜七子の優しさを感じた。