最終話 ボクシングガールの死闘 後編
試合が始まると、やはり須賀愛香里は強かった。
そして第1ラウンド終了直前に、
ガツンッ!
強烈な右ストレートを打ち込まれ、
私は、ダウンする。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
レフリーがカウントを数えるなか、
「アズミ、立て、まだ頑張れるぞ!」
トレーナーの畠山さんの声が聴こえ、
なんとかカウント8で立ち上がった。ここで、
カアーン。
第1ラウンド終了のゴングがなる。
ゴングに救われた私だが、コーナーに戻ると、
「大丈夫だ。落ち着いて行こう」
と、畠山トレーナーは言った。しかし、
「私と、愛香里ではボクシングの実力が、違う」
「大丈夫だ。弱気になるな、勝てる、勝てるぞ」
「いいえ、愛香里にボクシングでは、勝てない」
愛香里の強さを痛感した私は、
心が折れそうになっている。
だが、畠山トレーナーは、
「アズミ、ボクシングで勝てないのなら、空手だ」
と、言った。空手?
私は、その真意を知りたくて、
畠山トレーナーの顔を見たが、その時、
カアーン。
ゴングがなり、第2ラウンドが始まった。
「空手だ、アズミ。だけど蹴るなよ!」
畠山トレーナーはリング下から叫んでいる。
そして、客席の最前列からは、
「アズミ、行けーっ、頑張れーっ!」
菜七子の声援が聴こえ、蓮太郎も、
「桃山、負けるな、頑張れ!」
声援を送ってくれた。ここで私は、
「空手、そうか空手か!」
愛香里から少し距離をとって、
空手の構えを見せた。
「うおおおおおーっ」
その構えを見た観客が、沸き上がる。
「何をする気だ?」
と、愛香里は警戒しているが、
私は静かに空手の型を見せ、精神を集中させる。
「ふざけるなーッ」
と、愛香里が突っ込んできたが、
「セイアーッ!」
私は、正拳上段突きを出し、
ズドオンッ!
愛香里の顔面を、打ち抜いた。
「ぐあがぁっ」
真後ろに倒れる愛香里。
バタァン!
その危険な倒れ方を見たレフリーは、
「ストップ、ストップ!」
カウントを数えずに、試合をストップした。
カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン!
ゴングが打ち鳴らされ、
レフリーが私の手を挙げる。
「勝者、桃山アズミ!」
私は熱すぎる、一瞬の夏、を駆け抜けた。