第28話 「俺は未来の俺を探し出す」
俺は今考えていることを率直に答えることにした。
「俺は未来の俺を探し出す。それから、未来の俺から話を聞く。どうして居なくなったのか、美玲の前から姿を消してそれからどうするつもりなのか。聞きたいことも言いたいこともかなりある」
美玲は驚きはせずに淡々と話を続けた。
「君のことだからそうするだろうって思った。でも、どうやって探すの?」
俺は現状思いついている限りのアイデアを告げた。
「それは簡単だ、失踪した二〇二八年十一月十一日の早朝に時間移動して、未来の俺が家を出た直後から後を追いかける」
俺がこう言うと彼女は少しだけ笑った。
「あまりにも安直な考えね」
「ああ、考えた俺もそう思うよ」
「でも、そうするしかなさそう」
「そういうことさ。しばらくこっそりと追いかけて、それから未来の俺に話しかけてみる」
「もし途中で変に気づかれて、怪しまれて逃げられたらどうするつもり?」
「もしそうなったら、その時はその時でどうするか考える」
「もう一つ聞くけど、未来の君が失踪したのを無かったことにするの?」
「いや、そうはしない。本当に話がしたいだけだ。ただ、ついでになるべく早めに家に帰ってもらうようにお願いはするさ」
美玲は頷いた。それから一瞬どうするかを考えたようだった。
「わかったわ。それでいいんじゃないかな。私は一旦、二〇二四年に戻るけど良いわよね?」
驚いた。美玲のことだから、てっきりついて行くと言うのかと思っていた。
「珍しい。いつもならついて行くって自分から言うのに」
「そうね。でも、今回の事は最終的には健太の問題よ。私にはきっとどうにもできない問題だと思う。これは君自身でなんとかしないと。だから今回は君一人で行ってきなさい」
美玲はそう言うと俺の背中をぽんと押した。
「わかった。ありがとう」
俺がこう言うと美玲は少しだけ笑った。
俺たちはときの駅に到着した。駅舎の時計を見ると時刻は午後二十時半だった。俺と美玲はそれぞれの目的の時間への切符を発券する。俺は二〇二八年十一月十一日午前六時行き。
なぜその時間かというと、未来の美玲によれば、未来の俺は少なくとも朝七時よりも前に家を出たからである。美玲は二〇二四年十一月十四日午後十四時行きである。発券した切符を車掌に見せると車掌は俺の方を見てきた。
「失踪した日の健太さんに会って話を聞くつもりですね?」
車掌はいつも通り飄々としつつ、どこか心配そうだった。俺はそれが気になった。
「ええ。もしかして、俺がその時間に向かうことを心配していますか?」
「いや、それ自体は心配していません。失踪をした後の彼を追いかけて頃合いを見て話をしてみようというのは私も同じ立場だったらきっとそうします。それに家を出ていったという事実を消す訳ではないということもわかります」
「じゃあ、何が心配なんですか?」
車掌は悩まし気に答えた。
「いや二〇二八年のあなたは素直に話を聞いてくれるのでしょうか?」
車掌の言う通りだった。確かに仮に未来の俺と話ができたとしても、未来の俺がちゃんと話を聞いてくれるのか全くわからない。
「……どうでしょうか。車掌の言う通り、話を取り合ってくれないような気もします。ですが、どうなるかなんて一回直接会って話をしてみないとわからないじゃないですか。俺はもう、向き合わないことで大事なものを失いたくないんです」
俺がこう言うと美玲はすぐに反応した。
「私は彼の考えに賛成です。私も向き合わないことで大事なものを失いたくないです」
車掌は俺たちの話を聞き終えると車掌は頷いた。
「わかりました。そこまで言うなら、いいでしょう。切符を拝見します」
俺と美玲はそれぞれの切符を出した。車掌はすぐに切符を切って俺たちにそれを返した。
「五分後に一番線に参ります急行列車をお待ちください。健太さんは二〇二八年十一月十一日午前六時駅で途中下車してください」
俺たちはホームで列車を待っている。その間、俺と美玲は何も話さなかった。今回はそれほど気まずくはなかった。やがてアナウンスが流れる。
「まもなく、一番線に急行二〇二四年十一月十四日午後十四時行きが参ります。黄色い線の内側までお下がりください」
列車が目の前までやってきて停車した。ドアが開き俺たちは列車に乗り込む。発射メロディーが流れる。
「一番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
ドアが閉まり列車は発車した。俺たちは座席に座ってそれぞれ車窓からの景色を眺めた。そうしていると美玲が話しかけてきた。
「さっきはああ言ったけど、未来の健太と向き合うのは大変かもしれないって今になって思ってしまったわ。私だって未来の君に言ってやりたいことが沢山あるけどそれが伝わるような気がしない」
「俺も今更そんな気がしてきた。未来の俺が今の俺を見てどう思うのか不安だ。そもそも未来の俺は時間鉄道の存在を知らないから今の俺が現れること自体想定外だろう。それに美玲の言う通りで、話してもちゃんと伝わるのかわからない……」
「でも、話してみないとわからないのもまた事実よね」
「……そうだな」
一瞬嫌な予感がした。未来の俺自身に拒絶されてしまうのではないかと。俺はすぐにその気持ちを振り払うように頬をはたく。
「まあ、当たって砕けろだ」
「……そうね」
すると、車内アナウンスが流れた。
「まもなく、二〇二八年十一月十一日午前六時、二〇二八年十一月十一日午前六時。お出口は左側です」
どうやら、俺の目的の時間へともうすぐ着くようだった。俺は美玲の方を見た。
「じゃあ、行ってくるよ」
美玲がこちらを向いた。彼女は心配そうにしつつも微笑んでくれた。
「いってらっしゃい」
俺は立ち上がってドアの方へ向かった。程なくして列車が少し揺れて停車した。ドアが開く。俺は列車を降りた。降りると辺りはまだ夜が明けきっておらず暗かった。発車メロディーが流れる。
「一番線、ドアが閉まります。ご注意ください」
列車のドアが閉まる。列車はすぐに発車した。美玲を乗せて列車は俺たちの二〇二四年へ向けて走り出した。列車は遠くへ去っていき見えなくなった。俺はそれを見届けた。
ここからは俺一人で未来の俺と向き合わなければならない。俺はホームを改札の方に向かって歩き出した。