第20話 「じゃあ、未来の俺はどうしているんだ!」
「一旦ストップさせてくれ」
樹はそう言って話を一旦区切った。それからしばらく彼は喋らなかった。時間だけが一秒、一分と過ぎていく。俺は話の続きが気になってしまって気が気でない。
話の続きはなかなか出てこないままで、数分が経った。彼は髪の毛をぼさぼさと搔いてからこう言った。
「くっ。言いたくても言葉が出てこない。本当に俺が言って良いことなのだろうか……」
どうやら言うか否かでまだ悩んでいたようだった。今ここで俺は事の全容を聞かなきゃいけない。俺はブランコのチェーンを強く握った。焦る気持ちを堪えられずに彼にこう聞いた。
「それで、未来のお前らは樹に何を明かしたんだ?」
「ちょっと待ってくれ。俺は健太がどう思うのかがわからないから言って良いものか不安なんだ」
「いや、待てない。俺は未来の俺が例えどんな状況になってても話を聞く。いや、聞かなきゃいけないって心が叫んでいる」
樹は髪を搔く手を止めてかなり苦しげにこう返した。
「わかった……」
樹はようやくさっきまでの話の続きを教えてくれた。
「……まず、未来の俺たちが行った家は未来の健太と美玲の家だということ」
「えっ」
俺と美玲が一緒に住んでいるだって。
「待てよ。俺と美玲が一緒に住んでいるってことは、未来で結婚できたのか?」
俺は確認するようにこう聞いた。この前振られてしまったとは言え、未来で結婚できていたことがとても嬉しい。だが、それ以上に嫌な予感が俺の中に沸々と湧き上がっている。樹の様子は更に苦しげになっている。
「ああ、そうらしい。二〇二八年になって出会ってから五年経ったってことで籍を入れたらしい。俺が行った時点で結婚七ヶ月目だそうだ」
「そうか……」
樹はブランコから降りて俺と向かい合うように安全柵の上に座った。全てを話す覚悟を決めたようだった。話は続く。
「次に、その時会っていたのは美玲さんだけだということ。事前にケーキ店で買ったケーキは未来の俺たち二人と美玲の三人でクリスマスを祝うためだということ。それから、その日に未来のお前らの家に行ったのは美玲の様子を見るためだったということ」
俺は嫌な予感を抱えつつ率直な疑問を樹に聞いた。
「大体のことはわかった。だが、どうして三人なんだ? そこは四人なんじゃないか? 未来の俺はどうした? 仕事で単身赴任か何かでもしてるのか? それとも、死んだのか?」
考えたくないが、そう遠くない未来で俺は死んでしまったのか。美玲を残して……。顔が引き攣る。
「いや、死んだ訳じゃないそうだ。それは未来の俺たちが死んでないはずだとかなり強調して言っていた……」
「じゃあ、じゃあ、未来の俺はどうしているんだ!」
俺はブランコから立ち上がって声を荒らげてしまった。すると樹は俺以上の大声でこう言った。
「居なくなったんだとよ!」
「はっ?」
居なくなった? どういうことだ? 理解ができない。頭がクラクラする。樹は俺の目をずっと見ている。その目には怒りが有った。彼はさっきの勢いのままこう叫んだ。
「未来のお前、失踪したんだよ! 俺が行って見てきた二〇二八年十二月二十四日から約一ヶ月前の十一月十一日の朝、突然家をこっそり出て行ったんだと! 美玲に置き手紙だけ残して! それっきり約一ヶ月、未来のお前は家に帰っていない!」