4話 ドロップキックか目潰し逃走
悲鳴の聞こえた方向に走って向かいながら、今後について考えてみる。
人と接触出来そうなのは喜ばしいが……到着したとき既に手遅れだったらどうしよう。
俺にとってこの世界の初人間君は今悲鳴を 上げている。命の危機に瀕している可能性だって全然ある。俺が行っても何か役に立てるのだろうか?
「まともな武器一つ持ってないもんなぁ」
崖から滑り落ちて、怪我をして動けない、くらいならなんとかなる。だがもしも、何者かに襲われているのだとしたら……
唯一朗報があるとすれば身体能力の高さか。とはいえそれもアスリートと比べ若干勝っているかどうか程度のもの。
これがこの世界の基本スペックなら±0だけど、そうでないなら色々やりようはある。
人間なんて突然後頭部を殴られれば倒れる脆い生き物だからな。不安要素はフィジカルよりマジカルだ。魔法の存在は確定してるってのに詳細も対抗策ももってないからこれはもう祈るしかない。
もう一つ懸念がある。敵が動物……それも危険生物だった場合。森を散策しているとき遠目で鹿のような何かを確認したが、それ以外は虫ぐらいしか見ちゃいない。もしもゴブリンとかそんな魔物的生命体が相手なら勝ち目なんてなくないか?むしろ襲われている人が俺よりめちゃくちゃ強い可能性もある。俺って、飛んで火にいる夏の虫なんじゃ……
あ、普通に狼の群れとかライオンとかにも多分勝てない。いやライオンはいないだろうけど。何の役にも立たねぇなって?うるせーよだったらチート能力と言わずとも武器の一つでもよこせ。
そもそも今向かったとして無事でいてくれるのか?
いやまだ、高いところから足を滑らせて動けないだけとか、そんなちょっとした事故の可能性だってある。それなら何かの役に立てるはずだ!
「頼む!生きててくれよ!」
1,2分走り続けてようやく声のした付近に辿り着いたのだが、う~ん…
「くそっ…!どっかにいきやがれ!」
と言いながら、尻もちをついた状態で左手で体を支え、言いながら、手に持った斧を振り回す、40代くらいの白ひげ白髪の、サンタのような男性と…
2.5…いや3メートル近いでかいクマがいた。
それにこのクマ、やけに尻尾が長い。その上先端に針のような、爪のような、なんだかよく分からないが切れ味の良さそうなものをつけてらっしゃる。案の定普通のクマではなかったか。
う~ん勝てるかなぁ。とはいえ見捨てるわけにはいかないよなぁ、自分のためにも。人との交流を諦めるなら原始人として木登りしてキャッキャッするしかないもんな。
とりあえずこちらに気付かれてはいないが…
いや本当にどうしよう。気付かれる前に先制攻撃を仕掛けるのは前提として、どんな攻撃をするのか。
クマに襲われている男が持っている斧を借りることが出来れば、クマを仕留めることが出来るかもしれないが、流石にクマの目の前で呑気に斧を借りるのは難しいだろう。
となるとどうにかしてクマの注意を逸らすか、一旦怯ませ、隙を作る必要がある。
現状可能かつ有効そうな方法は、横からドロップキックをかますか、目にその辺に落ちてる枝でも突き刺すか、といった感じだろう。なんならビビって逃げてくれるかもな。
ただ、どちらも問題が一つずつある。ドロップキックを選択した場合、あの巨体のクマを蹴り飛ばしたくらいで、本当に怯むのかということ。
目潰しを選んだ場合は、あのクマが匂いや音を使ってこちらの動きを認識していた場合、かえって怒らせるだけになってしまう。
果たしてどちらにするべきか…
そうだ、クマがあの男を攻撃しようとしたタイミングでドロップキックをしよう!
重心が傾く瞬間になら蹴り飛ばすくらい出来るだろう。そうと決まればあとはチャンスを窺うだけだ。
クマがゆっくり近づいていく。そろそろだ。
3…2…1…今だ!!大地を踏みしめ一気に近づいて…
「食われるのはてめぇだ!ボケグマぁ!」
と叫びながら、俺はクマを蹴り飛ばした。
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