0話 2人だけの物語
「やっと着いたな。魔王がいるらしい部屋に」
魔王軍幹部の6体をなんとか蹴散らし、敵に操られていた…と思われていたが、ただ酔っぱらっていただけの狂人…もとい王国最強の騎士――セリーヌ・レゼヴィンと死闘を繰り広げた。正気を取り戻したところで脅し、アイテムをカツアゲしてここまで来た。酔っ払いがまともなアイテムを持っている訳なんてなかったが。
「本当になんで王国に仕える騎士が魔王軍の領域で酔っぱらって暴れてたんだ?」
「テンション上がって魔王倒せると思ってここにきて、さらにお酒を飲んで泥酔して…見境が無くなって…って感じだろう」
「お酒って怖いね~……」
「僕はセリーヌさんが怖いだけだと思うよ」
「俺はぁ酔っ払いを魔王軍幹部にけしかけて弱ったところを纏めて吹き飛ばす…なんてイカれた作戦を考えるバーミリオンが一番怖ぇよ」
「はは、違いないね」
「イカした作戦の間違いだろ?大体誰も反対しなかったじゃないか」
「最強の酔っ払いなんかに関わりたくないからね。まして味方なら尚更」
「俺も同意だ。誤って殺して責任取って処刑されるくらいなら敵にころ」
「その変で止めとこ?私巻き込まれたくないからさ」
「それにしてもここの扉でかくない?」
物騒な魔剣士ディルと薄情者の賢者Aサールのやり取りを他のメンバーでドン引きして眺めつつ怖くなったので話題を変える。
「まさかこの奥には巨大な化け物が…?」
「雰囲気作りでしょ」
「な訳あるか!」
おかしなことを抜かす格闘家Aホウセンと、こんなところでふざけるなと杖で頭をぶん殴る賢者Cスニーヘル。
「変なやつらしかいないなこのパーティ」
「9割あなたのせいでは?」
「……」
「なんでそんなに引いてるんですか?」
「いや…ねぇ?」
薄情者ものはちょっと……
「もしかしてさっきの話!?え、あれ私がおかしいんですか!?」
「はは。」
「感情を込めて笑ってよ!?」
「そだぁね。」
突然変な喋り方。愉快なやつだなサールも。
薄情者だけど。
――
「とりあえず入ろうか。」
魔王の部屋の扉を怪力たちがこじ開け、中に入ると…玉座にふんぞり返っている黒い骸骨がいた。
スケルトンの分際でかっこいい王冠に服装…そして凄まじい魔力を感じる短剣を身につけている。
そしてこの骸骨から溢れる魔力、その場にいるだけでイライラしてくる。間違いない。こいつが魔王だ。
「来たか…自らの運命を変えんと抗う者たちよ…その力でここまで道を切り開いた勇敢な者たちよ…」
「運命とかそんな壮大な話だったっけ?」
「いやぁどうだろ。魔王の魔力の影響で魔物が好戦的になるし、魔王も戦争に乗り気だから引っぱたいてこいって言われただけのような…」
「ふふ…」
うわ笑った骸骨。
「その笑顔…なぜだか無性に腹が立つ。これがあんたの魔力の力か。」
「ああ…」
「それで…ここの扉やけに大きいが、お洒落か?」
「馬鹿、ホウセン!魔王になんてこと聞いてんだよ!」
「答えてやる必要はないが…ここまで来た土産だ。教えてやる。」
なんか物凄い怪物をこの部屋で飼ってるとか?などと好き勝手に想像していたのだがその答えは…
「なんかやばそうな雰囲気出るだろ?」
本当に雰囲気作りでした。んな馬鹿な。
「じゃあ最初の運命がどうしたこうしたも…?」
「それっぽいから言ってみただけだ。」
「あ~なるほど。こいつ魔王じゃなくて魔王風スケルトンだ。」
「部下の方が威厳ありましたよ。変わってみては?」
「馬鹿言うんじゃないよ!そもそも俺は本当はお前たち人間と争う気なんか無いんだから!」
その後長ったらしい魔王の身の上話が始まった…のだが。長ったらしいので要約すると
自分の魔力で魔物も人も近づくだけで機嫌が悪くなっちゃうんだよね~
でも魔物は俺に従ってくれるし、人間は弱いから気にして無かったんだよ~
あとなんか生まれてから永遠と強くなっちゃうんだよね、そして機嫌を悪くする範囲も広がって来ちゃった。てへぺろ!
でもどうやら一旦死ぬと溜めた力を消費して生き返れるみたい!死ねばイライラパワーもリセット!やったね!
「ということで、人間に定期的に倒して貰おうという訳だ。そして回想の私を可愛くするな」
ナチュラルに心を読むな。そんな能力なかったはずだろおい。イタズラがモロバレじゃねぇか。いや違うか。その可能性を読んでわざとツッコませた……フッ、俺の方が上手だったな。
「そんな能力ないがな。ただの勘だ」
そっちの方が困るな。だがもう困惑を表に出さない。
「へぇ、お兄さんも大変ですね」
自分の意思に関係なく、死んでも生き返る……ほぼ俺と一緒じゃん。
急に親近感湧いてきたな。肩でも揉んであげよう。
「バーミリオン!魔王と打ち解けようとすんな!」
にこにこしながら近づこうとした俺を賢者C、スニーヘルが止めてくる。
「なんだよ…分かり合えそうじゃん」
「今の話が本当だとしても!こいつが定期的に死ねば解決なら俺たちを襲う必要は無いだろ!」
「確かに。おのれゴミ虫め、未来永劫人間様に手を出せないように封印してやる!二度とお天道様を拝めると思うな!」
「ごめんバーミリオン、流石に急にキレすぎ」
魔王も「えっ」みたいな顔してるよ。骸骨のくせに顔で感情表現出来るとか生意気だな。やっぱ封印するか?
「そんなこと言うけどさ、君たちも俺の部下たちも勝手に戦争するじゃん」
「そうですね」
「で、俺が殺されなきゃ解決しないじゃん」
「人類を根絶するって手段もあるぞ魔王よ」
後頭部を無言で強打された。やったの誰だ出てこい。
「いやそこまでする気は無いんだよ。でもさ?俺だって黙って殺されたくはない訳よ」
「まぁどれだけ死んでも死ぬのには慣れないよなぁ。」
「おお!分かってくれるか!」
魔王の反応に親指を立てて味方アピールをする。後ろから蹴られた。
「それでさ、やられるなら格好よくやられたいって思ってさ。大昔存在していた魔王の真似をして見ることにしたんだ。じゃなくて…したのだ……」
「いまから威厳取り戻すのは無理だと思いますよ?」
「ごほん…貴様らが殺し合いだと思っていたこの戦争は…私のほんの気まぐれ、遊びでしか無かったのだよ…!」
「指揮官ごっこね~」
「もっとほら、さっきの賢者君みたいに怒ってくれてもいいんだよ?」
「いやぁ。悪役になって戦争ごっこしてるだけの子供じゃん」
「子供じゃないわ!精神年齢はお前たちより数千も数万も年上だ!」
「なわけあるか!俺が一番上だ!」
「えぇ…おぉそうか…」
人間に俺の方が年上だとガチギレされ魔王さんドン引き。威厳拾ってこい。まぁ人間に年齢で負けてたらどちらにせよ威厳も半減するが。
「急に張り合うなよ。魔王が困惑してるよ」
「すぐ言いくるめられる魔王が悪い」
「そんな無茶苦茶な…」
「それで?結局これからも永遠に殺し合うのか?」
もっといい解決策を模索するなら協力してもいい。俺と同じような境遇のやつを助けたい気持ちはあるから。
だがそうでないのなら、これからも戦争ごっこを続けるというのなら……
「本当に封印してでも止めさせるぞ」
普通に倒しても意味がなく、遅延にしかならない…それを知ったからには、何もしない訳にはいかない。
「好きにするといい。断言しよう。これからも私は人々を傷つける。だから復讐に燃えるのは構わない。だが……私とて黙ってやられるつもりはない。永遠の平和を掴みたいなら……その力を以て掴め!」
「そうか…残念だ…死に晒すがいい能無し骸骨野郎」
「これじゃあどっちが魔王か分からねぇなぁ」
その後しばらく無音が続いた。どういう事情があろうが、俺たちは争いを終わらせなければならない。相手が折れなかった以上戦闘は避けられない。緩んでいた空気が重く引き締まっていく。
「既に準備は出来ている、いつでもかかってくるがいい」
「ようやく戦闘か、お前ら血をみせろ」
「骨の急所ってどこだろ……あ!砕けばいっか!!」
「ナルマ、私の活躍がなくなるじゃないか。まずは私が斬り分けてからにしろ」
「【身体強化】 、【身体強化】、【身体強化】バフを――」
「ねむ……くない!?やっぱミレイユのバフはキマるぜぇぇ!」
「親の仇!国の仇!グラッドの仇ィィ!!」
「死んでねえわ、てめぇが死ね」
「なんだこの殺意は……」
ここに来てから一言も発していなかった6人が臨戦態勢になったのを見て、魔王が驚愕する。
「残念だったな。こいつらは俺たちのパーティーの中でもゴリゴリの武闘派!魔王軍幹部――六覇王とも渡りあった快楽殺魔集団!!その名も魔物殺しの六英傑!!」
「強化を施しただけでこれと同列は心外です。【身体強化】」
「え?まぁ……うん。あ、バフありがとう」
文句を言いつつバフをかける手はとまらない……その異常な強化への執念が原因だということに彼女は気づいていないらしい。その気持ちも分からないでもないが。単体への、普通より倍率の
低い強化しかできないかわりに効果が無限に加算されていく、なんておかしな魔法が使えるんだから。
「ほぅ、さすが六将の覇王の防衛を押しとおっただけのことはある。だがこの私も同じだと思ってくれるなよ?」
俺たちに一切怯むことなく、その自信を口にする魔王。だが実際は魔力量でみれば幹部と比べて2番手、あるいは3番手といったところ。魔物は長生きするほど魔力が増える。恐らくはこれまでの死である程度までリセットされたのだろう。そうだとしても――
「低すぎる」
「……ですよね」
想定より弱そうだと安堵しているわけじゃない。むしろ逆だ。変身、魔力量の偽装、増大。そういった切り札がある気がしてならない。というよりあると考えた方が自然だ。なにせ相手は瘴気で凶暴化している武力で魔物を使役している魔王なのだから。
「フッ……私を侮っているのか?」
「なんだと?」
俺たちの考えていることとは真逆の魔王の言葉に俺は疑問をぶつける。
「大方、私の魔力量が低いからと奥の手でも警戒しているんだろう。だがな、私は魔王だ。魔力量が劣っているだけで部下どもに遅れを取るとでも?技量さえあれば貴様ら如き、消し去ってくれる!!」
そうして俺たちは激闘を繰り広げた。11:1。数では圧倒的に俺たちが勝っている状況でも魔王は一切引けを取らず、何度も全滅の危機に陥った。
死にかける味方を数の暴力でフォローし回復させて再び戦力として投入する荒技。
ときには味方もろとも吹き飛ばす賢者たちの総攻撃。
パワーこそ至高と言わんばかりの圧倒的筋力を見せつける前衛たち。
これまでの旅の中で完成したチームワークによって…魔王を少しずつ、確実に追い詰めていった。
だが同じように、俺たちも消耗していく。回復ができなくなっていき、一人、また一人と戦闘不能になり倒れこんでいく。
そしてついに俺と魔王の1対1になってしまった。だが俺には奥の手がある。魔王には悪いがな。
「――――――」
「なんなのだ……その力は……!!」
「残念だったな。変身するのは俺だけか?」
「フン……ここまで出し惜しんだのなら長くは維持できんのだろう?ならばはじめからフルスペックを保てる私の方が格上だ」
「そういうのは戦ってから決めるんだな!!」
そして第2ラウンドが始まった。だがお互いにここまでで消耗しすぎてしまった。魔王の見立て通り俺の変身も長期戦には向かない。ここからは魔力は少しも無駄にできない。
魔力を纏わせ身体を強化し、致命傷を与えられる大技を命中させる隙を作る。
「ほう、剣術だけでなく徒手空拳もできるのか」
魔王の得物は短剣。威力は絶大だがリーチは素手でも大差ない。ならば両手を空けてしまった方が俺はやりやすい。
「愚かな……魔力の少ないこの状況で外付けの火力を手放すとは」
「確かにな。だが両手を使えばこんなことだってできんだよ!」
俺の打撃では致命傷にならないように、魔王の拳もまた俺に致命傷を与えるに足らない。つまり注視すべきは短剣だけだ。
短剣を持つ右の手首を片手で掴んで封じ込め、左手は魔王の顔面に打ち付ける!
「ク……!だが手が空いているのはこちらとて同じよ!!」
魔王が反撃に転じようとする今この一瞬!受けることには日和らない!!思考を回せ体を動かせ!!カウンターで畳みかけろ!!
「足元がお留守だぞ骨野郎!!」
瞬時に体を屈ませ攻撃を回避する。だがそれはおまけだ。本命は魔王に隙を作ること!左足で魔王に足払いを仕掛ける!
「グゥ……甘いわァ!」
「お前がな!!」
なんとか踏みとどまったつもりらしく、短剣を振り上げる魔王。だがそんなものは無視だ。
「一点集中!!へし折れろ!!」
下半身に肉体強化を集中させ、魔王の足を側面から砕く。その勢いで魔王に背を向けてしまったが問題ない。剣を抜いて背後に切り上げる!!
「流星一刀・昇陽天!!」
――――――――!!!!
夜空を翔ける流星の如く、夜明けを伝える太陽の如く。バーミリオンが放った居合は魔王の魔力さえ断ち、その半身を消し飛ばすに至った。
「フフ……良い技だ。まさに終戦に相応しい……」
右手は既に消え去り、辛うじて残った両足と左手を使い体を起こす。元々骨しか存在しない彼にとって、無くなった部位は致命傷には程遠い。しかしバーミリオンの全力の一閃が直撃したことで力の大半も同時に失ったことで勝機は完全に潰えた。死を悟り、そしてこの戦いの空虚さに呆れた魔王は言葉を紡ぐ。
「だが、所詮は夜明けよ。貴様が死んだころに再び私の魂は巡り、いつかまたここに立つだろう。そうなれば悪夢もまた蘇る」
「その心配はいらないさ」
「封印でもする気か?結局時間稼ぎしかならんぞ」
「しねぇよそんなこと」
◇
「聖炎――」
「聖属性の炎……いやこれはまさか――!!」
「やっぱわかるのか」
この世界のものではないエネルギー、その凝縮体ともいうべきこの炎。それをこの場で出した意味が魔王にもわかったらしい。
「いまこの瞬間だけは、世界を救う英雄ではなく、一人の勇者としてお前の前に立たせてもらう」
「ハハハ、そうか。私もここで終わりか」
魔王にとって、死ぬことは恐ろしいことだ。それは何度経験しても変わらない。
だから誰かを傷つけようとも、自ら死に、力を弱めると言うことはしなかった。
こんな力さえなければ、強い覚悟があれば……魔物が人間を殺し、報復として数え切れない同胞が死ぬことも無かっただろう。それでも自分は……自分にとって楽な道を選び続けた。
「なぁ……勇者よ、世界を救う英雄よ。仮に私が完全に死ねば……天国か地獄……どちらに行くのだろうか……?」
あくまでも、自分が誰かを傷つけたのはこの力のせいだ。だからこそ、自分が悪いとは思いたく無かった。たとえ最終的な決断を下したのが己であっても。
全ての責任を境遇のせいにするつもりはない。ただ…自分にだって救いがあってもいいんじゃないか?
その答えをバーミリオンに委ねる。
「さぁな。そもそもこんなことする悪質な神様が死後の世界を用意してるのかどうか……」
本当に神などいるのだろうか、いたとしてロクな奴ではないだろう。そんな確信めいた予感を持ちながら、バーミリオンはこう返した。
「俺は褒めてやるよ」
「そうか……バーミリオンと言ったな……」
「ああ、そうだけど」
「強いな……お前は……」
「ま、勇者ですから」
そして魔王は死んだ。
そして平和は訪れた。
その平和がいつまで続くのかは……勇者と魔王以外、誰も知ることは無かった。
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